八話
応接室
クレハに案内され愛理は応接室に通された、一応の礼儀作法を母である明日葉から教わっている愛理は、レベンの両親を見るとスカートの裾を掴んで会釈した。
「初めまして、私は久城愛理、フォックステイルの団長です」
そして出来るだけ丁寧に自己紹介もした。
「堅苦しくせんでもよい、君はレベンの友であるのだからな、寧ろ団長として我が息子を従える君の普段の姿を見せてくれ」
レベンの父は愛理に堅苦しくしなくても良いと言ってくれた、それを聞いて愛理はホッとする、これ以上はボロを出してしまいそうだったからだ。
「座って?、お話ししましょう」
レベンの母は愛理に座るように促す、愛理は頷くと椅子に座り、改めてレベンの両親を見る、するとレベンの父は外見は息子に似ているが髪色は違い黒、母は非常に美人だが、レベンにあまり似ておらず、しかし髪色は同じく明るい緑色だった。
「まずはこちらも自己紹介だな、私の名はレジン、この国では魔導具開発局の局長をやっている」
「私はソフィア、よろしく」
愛理が椅子に座るとレベンの両親が自己紹介をして来た、二人の名はレジンとソフィアと言うらしい。
「よろしくお願いします」
二人の自己紹介を聞いた愛理は再びペコリと頭を下げる。
「可愛いお嬢さんじゃないか、レベン」
「何を言ってるんだ・・・父さん・・・」
愛理の外見を見てレジンは愛理や妻に聞こえない程度の声でレベンに可愛いお嬢さんじゃないかと声をかける、レベンは肘で父の腰を小突く。
「あれはじょうも・・・」
のだぞ?とレジンは言おうとしたが、妻の冷たい視線を感じたので黙り、息子に話しかけるのをやめて、愛理を見る。
「ご、ゴホン、愛理君、君にはまずは感謝をしたい、息子は幼い頃から旅をしたいと願っていたのだが、魔法の扱いが優秀なせいでな、それを出来ずに王宮魔導士として閉じ込められ、果てには辞表を上司に突き付けて逃げ出してしまった、そんなうちの息子の夢が君のおかげで叶いそうだ、感謝する」
「なっ!?父さん!言わないで良い事を!」
レベンなりにプライドがあるのだろう、父に仲間達に隠していた自分の王宮での出来事と幼い頃からの夢を愛理に暴露されたレベンは慌てる。
「私レベンさんの夢、良い夢だと思うよ?だって私も旅がする事が楽しみで早く修行を終わらせようとしてたんだから」
「う、うむ」
愛理に自分の夢が良い夢だと言ってもらえたレベンは頬を少し染めて俯く、仲間として信頼している愛理に、夢を認めて貰えて嬉しかったのだ。
「あらあら、可愛いお嬢さんにたじたじね?、それで?レベン、あなた愛理ちゃんの事どう思ってるの?」
「!」
ソフィアの質問、それは愛理に是非とっても聞いてみたい質問であった、自分の事をどう思ってるのか?などと言う質問は普段は恥ずかしくて質問など出来ない、まさにソフィアが愛理の聞きたい事を代わりに聞いてくれた事になる。
「・・・良い仲間だと思っている、私の夢を一緒に叶える事が出来るパートナーだと」
「そう、なら大切にしなさい」
「分かっている、愛理も、他のみんなも私の大切な仲間だ、大切にするさ」
レベンの言葉、愛理にとっては仲間として大切に思ってくれている事は嬉しかったが、少し残念ではあった、こちらは意識していても、あちらはまだ意識しておらず、普通の仲間だと思っているらしい、しかしこちらもまだ迷っている状態、彼が愛理の事を異性として意識してくれていないのは仕方がない事だろう。
「ふぅーん」(愛理ちゃんは既に脈ありっぽいのに、うちの息子ったら鈍いわねぇ)
息子の言葉を聞いたソフィアは、少し残念そうにする愛理を見て、同じ女として愛理が何を思っているのかを読み、これは後でもう少し個人的に愛理と話をしないといけないなと思う。
「さて、愛理君、君がこの世界で、体験した様々な出来事を話してくれないか?、私はあまりこの国の外に出れなくてな、国の外から来た者に外の様子を聞くのを楽しみにしているのだ、君が良いのなら是非聞かせてもらいたい」
「分かった、たーくさん、話してあげる!」
レギンの頼みを受けた愛理はこの国で体験した出来事を二人に話して聞かせる、レジンとソフィアは愛理の話を楽しそうに聞いていた。
「あなた?、時間じゃない?」
「おお、そうだな」
妻に耳打ちされ時計を見たレジンは立ち上がる。
「楽しい話をありがとう愛理君、残念だが職場に行かなくてはならない時間になってしまった、また後で話を聞かせてくれ」
「うん」
レベンの両親とだいぶん打ち解けた愛理は、レジンの話を聞くと頷く。
「うむ、それではまた後で」
一時の別れの挨拶をしたレジンは部屋を出て行く、愛理も話が終わったのならと立ち上がろうとするが・・・。
「愛理ちゃん?少し待って、レベンは出て行きなさい」
「は、はい」
「何故だ?母さん」
「良いから」
「う、うむ」
有無を言わせない母の様子にレベンは渋々と部屋を出て行く、レベンの母ソフィアと二人きりになった愛理は、何故ソフィアが自分を待って欲しいのか疑問に思う。
「さて、愛理ちゃん単刀直入に聞くわね?あなたレジンの事、好きでしょう」
「は、ハヒィ!?」
ソフィアの思わぬ質問に愛理は尻尾の毛を逆立て変な声を出す、流石にこのような質問をされるのは予想外だった。
「その反応・・・当たりね!、一応言っておくわ、私はあなたの事大歓迎よ!可愛いし良い子だし、将来性もありそう、うちの息子を喜んで任せれるわ!」
「あ、あのー私、まだ自分の思いに悩んでると言うか、そのまだ待って欲しいと言うか・・・」
まだもう少しだけ自分の思いについて考えたい愛理は、大歓迎だと言うソフィアに待って欲しいと声をかけるが・・・。
「悩んでるって事は好きなんじゃない、レベンの事、好きなんでしょう?」
「うっ」
「好きなんでしょう?」
「はい・・・」
ソフィアの勢いのある言葉攻めに負けた、そして勢いに負けた感じはあるが、遂にレベンの事が好きだと愛理は認める。
「いやー!困ったわね!あの堅物だったうちの子にもうすぐ春が来ちゃうわ!」
(帰りたい・・・)
息子に春が来たと喜ぶソフィアに対し、愛理はボロボロである。
「さて!あの子を落とす為の作戦会議をするわよ!頑張りましょうね!」
「もう勝手にして・・・」
この後愛理は死んだ魚のような目で興奮するソフィアの作戦会議を聞いていた、勿論大半の内容は覚えていない。
「はっ!?」
気がつくと愛理はいつの間にか、明日奈に膝枕をしてもらっていた。
「あなた、死んだような目でこのに入って来て、私に抱き付いて泣き始めたのよ?何があったの?」
「ナンデモナイ」
「ほんと?」
「うん」
明日奈との会話を終えて愛理は思い出す、遂に自分はレベンの事が好きだと認めたのだと、そう思うと恥ずかしくなり顔を真っ赤にする。
「あらあら真っ赤っか、どうしたの?」
明日奈はいきなり顔を真っ赤にした愛理にどうしたのか聞く。
「す、好きな人が・・・」
「んー?はっきり言いなさい」
愛理は最初は勢いよく、最後はごにょごにょと言う、そんな愛理を見て明日奈は意地悪そうに笑いながら首を傾げはっきり言うように言う。
「好きな人が出来たの」
「そう・・・、誰?」
「レベンさん」
レベンが好きだと明日奈に伝えプシューと顔を更に赤くする愛理を見て、明日奈は思う、子供の成長は早いものだと、明日奈にとってついこの間まで幼い少女だった愛理が、いつの間にかこんなに大きく成長し、異性と付き合おうとしている。
「愛理?彼に思いを伝えれそう?」
「・・・分かんない」
思いを伝える事が出来るか分からず俯く愛理を明日奈は抱き締める、少しずつ、少しずつ、自分から離れて成長していく、この少女の成長を寂しくもあり嬉しくも感じながら・・・。




