三話
サビシート島〜トンガマア島間空域
エルフィン王国はソリビカ王国が治める空域を西方に抜けた先にある、愛理達は愛理の魔力の事も考え、トンガマア島で一度休み、翌日エルフィン王国の領土に入るつもりだ。
「いつか帰って来ますね、私の故郷・・・」
蒼狐は寂しそうに遠ざかって行く故郷に別れを告げていた。
「私、サビシート島にまた来たいなぁ、良い人が沢山居てとっても楽しかったから」
愛理にとってのサビシート島での思い出はとてもとても楽しい物だった、だからこそ愛理は思う、いつかまたあの島に立ち寄り、ジェラやミイにまた会いたいと。
「そうですね、そこのデカ乳以外はみんな良い人でした」
「おやおや、私のどこが良い人じゃないのか、説明して貰おうか」
「良いですよ?まずは・・・」
ラフォリアが蒼狐の悪い所を言う度に蒼狐が眉を釣り上げ、やがて喧嘩に発展したのをモニター越しに見た愛理は、大きなため息を吐きつつ次の二人を仲良くさせる為の計画を考える。
「どうしたら良いと思う?ホワイトローズ」
「・・・」
トンガマア島
トンガマア島、ソリビカ王国領の端に位置する島で、エルフィン王国に向かう騎空団の者達が多く訪れる、宿場の島だ。
「なんですか!このデカ乳!」
「黙りなさい!このナイ乳!」
ラフォリアと蒼狐は明らかにラフォリアの方がダメージを喰らっていそうな言い合いをまだしている、多くのダメージを喰らっているからこそラフォリアは永遠と蒼狐と張り合うのだろう。
「疲れたぁ」
保有魔力の限界近くまでメサイヤを飛ばし続けていた愛理はヘトヘトである、出来れば早く宿に行き、眠りたい。
「大丈夫か?愛理、私の魔力を渡そうか?」
疲れた様子の愛理を見て気を使ったレベンが、魔力の受け渡しを提案する、これで少しは疲れが取れる筈だと彼は考えたのである。
「!?」
レベンの提案を聞いた愛理は尻尾をピン!と立てて驚く、魔力の受け渡し、それは他人の力の一部を貰う事、レベンの事を意識し始めた愛理にとってこの提案はオドロキモモノキドッキドッキである。
「・・・何故そんなに驚く?」
「な、なんでもないよ!そ、そう言うのなら貰おうかな!」
驚く自分を見て不思議そうにするレベンを見て愛理は、手を振り尻尾を忙しなく上下させつつ、彼の魔力を貰うと伝えた。
「うむ、なら手を」
「う、うん」
愛理の答えを聞いたレベンは愛理に手を差し出す、愛理は少し戸惑いつつもレベンの手を取り、二人は手を合わせた。
「それでは送るぞ」
「・・・」(きゃー!)
愛理が自分の手を取るとレベンは魔力を送り始める、愛理は心の中で恥ずかしがる声を上げつつ、レベンから魔力を貰った。
「・・・」
ケーニは愛理とレベンの様子を見てラフォリアの方を見るが、彼女はまだまだ蒼狐と喧嘩をしており話が出来そうにないので、ため息を吐いて諦める。
「若いのぅ、少年」
「うっせ」
「ふふふ〜」
そんなケーニを見て明日奈はニヤニヤと彼を揶揄い、ケーニはうっせと言ってからそっぽを向き、またラフォリアを見るが彼女はまだ喧嘩をしていた。
「ありがと、もう大丈夫だよ」
レベンから魔力を貰う愛理は、本当はもう少し魔力を貰っておきたかったが、流石に心臓が耐えきれなさそうなので、手を離した、これ以上は恥ずかし過ぎて、倒れてしまいそうだ。
「うむ」
レベンは顔色の良くなった愛理を見て安心すると、町の様子を見ながら歩く、レベンの隣を歩く愛理は何か話そうとチラチラと彼を見ていたが、彼は部屋が空いている宿を探しているらしく愛理の視線には気付かない。
「ここが空いているようだ、ここにするか?」
ようやく愛理を見たレベンは、空き部屋有りと看板に張り出されている、小綺麗な木造建築の宿に泊まるかどうか、愛理に聞く。
「うん、安いしここにしよう」
話を振る前に空き部屋がある宿に辿り着いてしまった事を愛理は残念に思いつつ、ここに泊まると彼に伝えた。
「よし、ならここにしよう」
愛理達は小綺麗な、木造建築の宿に入って行く。
夜
どこからか聞こえてくる心地の良い笛の音を聞いた愛理は、明日奈とラフォリアと蒼狐が眠る部屋から抜け出し、笛の音を辿り、笛を吹いている者を探す。
「・・・」
一階に降りて来ると宿の庭のドアが少し開いていた、愛理は少し開いたドアから庭を覗く、するとレベンが椅子に座り笛を吹いていた、その音色はとても美しく、聴いていると心が澄んでいく気がした。
(優しくて綺麗な音色・・・)
愛理は目を閉じ笛の音色を聞く、もっと近くで聴いてみたいと思ったが、ドアを開ける勇気が出ない、もし開けてしまえば、答えを出さなければならない気がしたのだ。
「!?」
しかし少し開いた扉は突然吹き荒れた突風により開いてしまった、音色を聴いていた事が彼にバレてしまった事に驚く愛理と、誰も笛を聴いていないだろうと思っていたレベンの、視線が交差する。
「恥ずかしいな、聴かれてしまったか」
愛理に笛を聴かれてしまったレベンは少し恥ずかしそうに頭を掻きつつ、愛理に話しかける。
「恥ずかしい事なんてないよ、とっても綺麗な音色だった」
素直に彼が奏でる音色が素晴らしい物だと思っていた愛理は、彼の笛の音を褒める。
「そうか?、ならもう少し笛を吹くとしようか」
愛理の言葉を聞いたレベンは再び、笛を吹き始める、愛理はどうせ開いてしまったのだと思い、彼の隣に座り笛の音を聞く。
たった一人の観客の為に笛を吹くレベンと、たった一人の観客である愛理を、月の光が優しく照らし、夜空に輝く星々が見守っていた。




