六話
宿、マナマナ荘
「はっ!」
朝、ベッドから愛理は落ちかけていた、半身が浮いている気配を感じた愛理は目を覚まし、足を地面に付けて崩れかけていた、バランスを取り戻す。
「ふふふ、私は二度同じ失敗はしないのよ」
ふふふと笑う愛理は立ち上がろうとするが。
「ふにゃっ!?」
結局ベッドの脇に置いていたバックパックに足を引っ掛け顔から盛大に転けた。
庭
ブン!ブン!と何かが空気を切る音が聞こえる。
「フッ!セェイ!」
おでこを赤くした愛理が空間拡張の魔法が掛けられているバックパックから、木刀を取り出し、宿の庭で素振りを行っているのだ、この素振りは明日奈の教えを受け始めてから毎日行っている、愛理の日課である。
「愛理、少し体の重心が右にブレています、もう少し左に重心を寄せると、理想的なスイングになるでしょう」
木刀を振る愛理の頭の上には妖精モードのホワイトローズが乗っている、そこから愛理のスイングの駄目な部分を教えてくれている、愛理にとってはホワイトローズの調整は非常に役立つ物であり頼りにしている。
「こう?」
ホワイトローズの言葉を聞き、重心を左に寄せてみた愛理は、ホワイトローズにこうかと聞く。
「Yes、理想的なスイングです」
「分かった、この感じを覚える」
愛理はホワイトローズに調整して貰った理想的なスイングを何度も繰り返し、体に刻み込んで行く、こうして何度も反復練習をし、自身の優れた才能を愛理は更に伸ばして行っているのだ。
「愛理、ホワイトローズに直して貰ったスイングを意識しながら、もっと早く振ってみなさい」
そこに明日奈が現れもっと早くスイングをしろと言った。
「はい!」
師にもっと早くしろと言われた愛理は返事を返し、更に早く剣を振るう。
「遅い!もっと早く!」
「はい!」
師としての明日奈は自分の孫だからと甘くはしない厳しい師匠だ、愛理は明日奈が手加減無しで自分を鍛えてくれる事を嬉しく思っており、そして明日奈が自分に厳しくしてくれる理由も理解している為、明日奈の言葉に素直に答え、更に剣を早く振るう。
「良いわ、そのまま三分間続けなさい、ホワイトローズに言われ事を忘れない様に」
「はい!師匠!」
愛理は明日奈に言われた通り、ホワイトローズに調整して貰ったスイングを意識しつつ、何時もより速い速度で木刀を振るう。
「はぁはぁ・・・」
3分後、剣を振り終えた愛理は地面に両手を着き、はぁはぁと肩で息をする、何時もより早いスイングを三分間も継続した為、流石に堪えたのだ。
「息が整ったら宿の中に来なさい、ふふ、朝ごはんよ」
「うん」
普段の彼女に戻った明日奈は愛理の肩を叩いてから宿の中に消えて行く、それを見送ったホワイトローズを頭に乗せている愛理は、完全に息が整ってから、立ち上がった。
「愛理、落ち着いた様ですね、中に入りましょう」
「スゥーはぁー・・・、うん」
愛理はんーと伸びつつ深呼吸をしてからホワイトローズと共に、宿の中に入る。
クーラの町
朝食を食べ終えた愛理と明日奈は宿を出てクーラの町を歩く、二人の妖狐の尻尾は仲良く揺れていた。
「平和だねー」
「そうねー」
町の様子は平和そのものである、鳩がポッポッポッボ歩いていたり、猫がゴロゴロしていたり、犬が自分の尻尾を追いかけていたりと、とことん平和である。
「ん?・・・この匂いは」
猫と遊ぶ愛理の様子を和やかに眺めていた明日奈は、何処からか漂ってくる美味しそうな食べ物の匂いを嗅ぎ付け、振り返る。
「やっぱり、ホットドッグ!」
ホットドッグは明日奈の好物の一つである、そんなホットドッグの匂いを嗅ぎ付けた明日奈は、スタコラサッサと買いに走って行った。
「あー!しまった!」
旅立ちの日にこっそりとレビィに、明日奈は食いしん坊だから、注意しておいた方が良いよと、猫や犬や鳩に囲まれ、両手に花状態になっていた愛理はしまったと思う。
お金が無い現状、無駄なお金を使っている暇は無いので、明日奈を止めないといけないのだが、やたらと懐いてくる動物達のせいで行けない。
「みんな、ごめんね!」
愛理は動物包囲網から、転移をして抜け出し、明日奈の前に降り立つ。
「お婆ちゃん!お金無いんだから、もう少し貯まるまでは、駄目!」
「ええー・・・良いじゃない、愛理ぃ、一番安いのにするからぁ・・・」
「だぁめ!」
「はぁい・・・」
愛理に駄目だと言われた明日奈は、可愛い孫にここまで言われると引くしかないと思い引いた、しかしホットドッグ屋の場所はしっかりとその目に焼き付けている、恐らくはお金が貯まったらいの一番にここに来るんだろうと愛理は思った。
「それじゃあ、冒険者ギルドに行きましょうか、愛理」
「うん」
冒険者ギルド
クエストボード前、沢山の依頼が貼られている掲示板の前に愛理と明日奈は立っていた。
「今日はどれにする?愛理」
「んー・・・、これかなぁ」
明日奈にどの依頼にするかと聞かれた愛理は、尻尾をゆーらゆーらさせつつ、んーと暫く悩み、一枚の依頼に決めた。
「運搬の依頼か、報酬も良いわね、これにしましょう」
「やった!受けて来るねー」
「ふふふ、任せるわ」
今日受ける依頼を決めた愛理は、カウンターに向けて歩いて行く、その途中、人が多いギルドの中で一人の少女とぶつかってしまった。
「あっ!ごめんなさい!」
「良い、次から気を付けて」
愛理がぶつかってしまった少女は、白い髪に赤い瞳をした、神秘的な雰囲気を感じさせる少女だ、フワリと髪を揺らし去って行く神秘的な少女の様子に愛理は思わす見惚れてしまい、目で少女を追う。
「綺麗だったなぁ」
愛理は少女の姿が人混みに消えてしまってから、カウンターに向かい、依頼を受けた。
道具屋
今回の依頼主は道具屋である、依頼内容は商品を注文した注文主に商品を運んで欲しいと言う物、報酬は10000ゴールド。
「やぁやぁ!君たちが今回依頼を受けてくれた子達か!よろしく頼むよ!」
「子か、子ね、ふふふ・・・」
(お、お婆ちゃん・・・)
愛理は子と呼んでもらい喜んでいる明日奈にちょっと引いた。
「それじゃあ、このリストに書かれている住所に商品を運んでくれ、商品はうちの後ろの倉庫にあるから、そこから運び出してくれ、後同じ依頼を受けてくれた子がもう一人居るから、その子にもちゃんと挨拶するんだよ?」
「はーい!」
愛理はもう一人居る子とはどんな子かなと楽しみに思いつつ、明日奈と一緒に、裏の倉庫に向かう。
 




