四十話
リロットの荒野
蒼孤が仲間になった日から三日が経った、愛理達はトバッハ自警団の面々に別れを告げてから、町を後にし現在はリロットの町を目指し、荒野を歩く。
「水の舞ー」
愛理達が歩くこの場所はサビシート島の中心地、この島は内陸に行けば行くほど熱くなるようで、愛理達は汗を掻きながら歩いていた、それを見た蒼狐が気を利かし水蒸気を辺りに振り撒き涼しくする技、水の舞を披露した。
「おい、デカ乳、なんで私だけを避けるように水蒸気が動いてるのですか?」
蒼狐が辺りに振り撒いた水蒸気はラフォリアだけを器用に避けている、それを見たラフォリアは技を出した張本人に何故か聞く。
「そりゃそういう風に操作してるからに決まってるからですよー、そもそもなんでない乳を涼しくしてあげないといけないのです?」
ラフォリアの質問に蒼狐は、ラフォリアを挑発する時にお決まりとなった胸を持ち上げ強調するポーズを取りつつ答える。
「そう言う事だろうと思ってましたよ!良いですよ、このくらい我慢しますから!」
蒼孤の答えを聞いたラフォリアはプリプリと怒りつつ、次の町に向けて一人でズンズンと進んで行く。
「・・・」
愛理はそんな二人を見てどうすれば仲良くしてくれるのか、頭を抑えつつ考えていた。
シャカシャカシャカ、以前どこかで聞いた音がしたので愛理がそちらを向くとダンスサボテン達が楽しそうに踊っていた、ダンスサボテンはボスを見れば同じ者達なのか分かるのだが、違うようだ、以前会ったボスは赤いリボンを頭に付けていたが、今回のボスはカウボーイハットを被っている。
「おお!彼等の踊りを見ていると私の芸人魂にグッとくる物がありますね!私も踊って来ます!」
ダンスサボテン達の踊りに何かを感じた蒼孤は彼等に混ざり踊り始める。
「愛理、愛理、ラフォリアが行っちゃってるわ・・・」
まだプリプリと怒っているラフォリアは愛理達が止まった事に気付かずズンズンと歩いて行っていた、それを見た明日奈が愛理にそれを伝える。
「あらら、呼び戻して来るねー」
進んで行くラフォリアを見た愛理は、慌ててラフォリアを追いかけ呼び戻しに行った。
「愛理も彼等と一緒に踊ってたが、踊りたくなる気持ちは分かるな」
「そ、そうか?」
アロハシャツなレベンはケーニの疑問の声を無視し、踊りに行った。
「わー!楽しそう!私も踊って来る!」
ラフォリアを呼び戻して来た愛理は踊るダンスサボテンと蒼孤とレベンを見て、踊りに混ざりに行く、そして愛理はレベンの隣に行くと頬を染めつつ踊りに誘い、レベンは愛理の誘いを一礼してから快く引き受けた。
「むぅ・・・」
レベンと楽しそうに踊る愛理を見てラフォリアは少し頬を膨らませる。
「どうした?」
「なんでもないです」
そんなラフォリアを見てケーニはどうしたのか聞き、ラフォリアはそっぽを向きなんでもないと答える。
「お姫様?俺と一つ踊ってくれませんか?」
愛理と踊りたかったのか拗ねるラフォリアを見て、ケーニは彼女の前に片膝をつき踊りに誘う。
「・・・良いですよ」
両目を閉じてそっぽを向いていたラフォリアは片目だけ開けて自分に手を差し出すケーニを見る、そして普段より真面目に見える彼の顔を見て少し頬を染めつつ、誘いを受けた。
「ふふふ、若いって良いわね」
明日奈は若者達の様子を見て優しく微笑んでいた、そしてどう進展するかまだ分からない彼等の幸せを、切に祈る。
ダンスサボテン達と別れ、再び町を目指して歩いていると、ロケットリザードマン達が、空に向けて飛んでいた、どうやら上に向けての飛翔距離を競っているようだ。
「えー、実況し・・・」
「声でバレるからだーめ」
空に向けて飛ぶロケットリザードマンを見て蒼狐が実況をしようとするが、愛理が彼女の口を押さえてやめさせた、ロケットリザードマンは広場のようになっている広い空間に沢山おり、もし岩の陰に隠れているのがバレて向かって来た場合、あの数を相手にするのは流石に厳しい、ならばバレないように様子を見守るのが正しい選択である。
「シャー!」
愛理が蒼狐を止めている間に伊達眼鏡をかけた真面目そうなロケットリザードマンが上空に向けて飛び上がった、彼が飛んだ飛翔距離は三十五メートルほど、先程も飛んだリザードマンがいたが二十五メートルほどなので、十メートルほど彼が上回った事になる、伊達眼鏡のリザードマンは地面に着地すると仲間に賞賛されている。
「次はあいつが飛ぶみたいだな」
次に飛ぶのは金色の鱗を持った派手なリザードマン、何故か1192サングラスをかけている、1192リザードマンは上空に飛翔する、他のリザードマンより体の大きな彼は六十メートルほど飛んだ、そして地面に降り立つと、リザードマン達は先程の伊達眼鏡のリザードマンが飛んだ時よりも賞賛する。
「王冠を渡すようだな」
どうやらこのジャンプ大会、次の王を決める為の儀式だったようだ、今の王らしき王冠を被ったリザードマンが、1192リザードマンに近付くと王冠を手渡した、すると他のリザードマン達が一斉に片膝をつく、新王が誕生したようだ。
「終わったみたいだし、行こっか」
「ですね」
新王誕生の瞬間を見届けた愛理達はそっとその場を離れようとする、ガコン!。
何かが落ちた音を聞いた愛理が振り向くと大きな岩が地面に落ちていた、そしてその奥ではロケットリザードマン達全員がこちらを向いている。
「あ、あはは?」
それを見た愛理は笑って誤魔化してみせる。
「シャー!」
しかし愛理の誤魔化し笑いは通用しない、新王となった1192リザードマンは初めての王としての仕事として、他のリザードマン達に愛理を捕まえるように指令を出した、それを聞いたリザードマン達は一斉にロケットの点火の準備を始める。
「逃げろぉぉぉぉ!」
「わぁぁぁぁん!」
愛理達はロケットリザードマンが飛び立つ前に彼等に背を向け全力で逃げ始める、蒼狐は閃光弾の代わりとしてあちこちに花火を撃ちまくる。
「こういう時に役に立つのですね!覚えておきます!このデカ乳!」
「役に立ったのにその言い草はなんですか!このない乳!、あなただけ拘束して走れなくしてやりましょうか!?」
こんな時に喧嘩を始める二人、しかしバシューと言うロケットの発射音が聞こえた途端黙り、必死の形相で逃げる事に集中する。
この後愛理達はたっぷり二時間ほどロケットリザードマンに追いかけ回され、ホワイトローズが見つけた洞窟に隠れる事により事なきを得た。




