三十四話
???
「・・・」
「・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・」
「いや、なんか喋ってよ」
「・・・・・・・すぴー」
「このやろー!」
愛理は捕まっていた両手は天井から伸びる手枷に足は重りを付けられた足掛けに、そのどちらにも魔力行使を阻害する呪文がかけられており、愛理は目の前にいる男に声をかける事しか出来ない、が目の前の男が寝ているのを見て口を尖らせ拗ねる。
(はぁ・・・なんで私こうなったんだっけ)
暇なお狐ちゃんは溜息を吐きつつ何故自分がこのような状況に陥ったのか思い出す事にした。
30分前、トバッハの町
ここはトバッハの町、サビシート島の中で一番危険な町で一番人の出入りの多い町、人の流れが多いと言う事は情報の流れも多いはず、愛理達はその情報を狙いこの町にやって来た。
「さてどこから聞き込みをー」
尻尾を揺らしながら愛理は話をしてくれそうな人物を探そうとした時、パカラパカラと馬の蹄の音がしたのでそちらを向く、すると馬に乗った黒い服を着て顔を隠した者達が明確に愛理に向けて走って来ていた。
彼等は一瞬で愛理を囲むと一人の人物が戸惑う愛理に手錠をかける。
「へっ?」
そしてもう一人の人物が後ろから体重の軽い愛理を脇に抱えると、黒い服を着た者達は走り始めた。
「ちょっ!?まってぇ!」
黒い服を着た者達のあまりの手際の良さに呆気に取られていたラフォリア達は、気を取り直し遠ざかって行く馬を追い走る。
「こんの!待ちなさい!」
いつもの数倍速いスピードで走るラフォリア、しかし馬には追い付けず遂には見失ってしまった。
「クッソ!うちの団長を攫って何が目的だよ!」
「分からん、とにかく探すぞ!」
フォックステイルの一団は愛理を攫っていった者達が走って行った方向に駆け出した。
???
(そうそう、それで私はあれよこれよと拘束されて身動きを取れなくされたと、あぁ・・・絶対にお婆ちゃんに怒られるよぉ〜)
このように簡単に捕まってしまうのだ、後で絶対に怒られる、怒った明日奈は怖い愛理は今から若干胃が痛くなって来た。
「お婆ちゃんに怒りのボルテージが上がりきる前に帰らなきゃね、この!この!」
明日奈の機嫌が悪く、いやもう確実に機嫌を悪くしているはずだが、それでもまだマシな状況のうちに帰った方が怒られる時間は短くて済む、そう考えた愛理は、足枷や手枷を引っ張るが鎖の音が部屋に響くだけで壊れない。
魔力を使えなくても鍛えている愛理はかなりのパワーを誇る、そんな愛理でも壊せない鎖、かなり丈夫な金属で作られているのだろう。
「クッソー、どうしよう・・・」
ブルーな気持ちになって来た愛理は俯き更に抜け出す方法を考える。
「精霊!は駄目か、魔力が使えないと呼び出せない、はぁ〜」
ビン!ビン!と鎖を引っ張っていると遂に疲れて来た、疲れた愛理はダラリとし頭を下に向ける。
「そもそも誰なの?私を捕まえたのは、さっきの奴等はお婆ちゃんがワールドセイバーに送ったから、奴等の仲間が帰って来ないって気付くまでは騒ぎにならないだろうし、別のやつかなぁ」
自分を捕えた者達の事を考え始めた愛理は今も眠りこけている男の様子を確認する。
「どう見てもフツーの人なんだよね〜」
そう愛理を捕まえた彼等は黒い服の下にフツーの服を着ている恐らくはこの町の一般人である、その一般人の彼等が何故自分を捕えたのか愛理には分からない、ギャングに捕らえられた場合も今は彼等の仲間をワールドセイバーに送った事はバレていないはずなので、こちらの場合だった場合も愛理は頭を悩ませていただろう。
「ん?」
愛理の足元よく見たらボタンがある、何のボタンなのだろうか。
「んしょ」
ボタンが気になった愛理は本当はこんな事に尻尾を使いたくなかったが、ボタンを押す、すると・・・。
ビシャー
「・・・私を捕まえた奴等、絶対泣かせてやるー!」
ビッショビショになった愛理はそう叫ぶと、クシュンとくしゃみをした。
本格的に寒くなって着て慌て始めた愛理の目の前の扉が開く、開いた扉の後ろから一人の男が入って来た、男が入って来ても見張りの男は居眠りしている。
「やぁ、待たせたねって・・・何で濡れているんだ?」
「こっち、見ないでくれるかな」
愛理は濡れている事に驚きこちらを見てくる男に冷たい口調で見るなと言う、ビッショビショの為、シャツが透けて下着が見えているのだ、見ず知らずの男に愛理は下着も体も見せるつもりなどない。
「す、すまない」
男は済まなそうに視線を逸らし下を見る。
「それで?あなた達私を捕らえて何のつもり?私の鞄が無いって事は中身も見たんだよね?なら私がどう言う人物なのか騎空団カードを見て、分かってるはずだよね?」
そう男は確実に愛理の手荷物を調べてからここに来ているはず、そして愛理の手荷物を調べた結果鞄の中に入っている騎空団カードと冒険者カードを見たはずだ、冒険者カードはまだまだ駆け出し冒険者と言った物だが、騎空団カードにはソリビカ同盟の紋章が刻まれている、つまり彼等はソリビカ同盟の者に手を出したのを理解した筈なのだ。
「分かっている、だからこそ、仲間と共にあっさりとギャングの奴等を倒した君に協力を得たいんだ」
男は愛理がソリビカ同盟の者だと知ったからこそ愛理の協力が欲しいと言って来た、それほどの何かがあるのだろうか?、愛理は少し興味を惹かれる。
「何故私の協力を得たいの?話して」
その何かに興味を惹かれた愛理は何故自分の協力が必要なのか男に聞く。
「分かった話すよ、僕達の親はみんなとあるギャングに囚われ無理矢理に働かされている、僕達は家族を助けたい、だからこそ、その歳でソリビカ同盟の一員に慣れるほどの実力を持った君の協力が欲しいんだ」
彼等が愛理の協力が欲しい理由、それはギャングに捕らえられた家族を助ける為に高い実力を秘めた者の協力が必要だからのようだ。
「ふぅん、まぁまずはこれを外してくれない?」
愛理は男にカマをかける、これで外すようならこの男に見込みは無しだ、外した瞬間動き気絶させ武器と鞄を回収し、逃げてやるつもりである。
「駄目だ、交渉が終わるまでは外さない」
(ふぅん)
しかし男は愛理の手に引っかからなかった、愛理は思う一先ず合格だと、報酬次第では協力してやっても良いだろう。
「良いよ、交渉は単刀直入、報酬次第だね」
こう言う時相変わらず祖母に似て単刀直入な愛理は報酬次第だと男に言う。
「五十万でどうだい?」
「駄目、少ない、あなたの話によるとギャングに喧嘩を売る事になる、それじゃ割に合わないよ」
これから命を危険に晒す事になるのだ、たった五十万ゴールドで、愛理は動いたりしない。
「なら、百万だ、これで良いか?」
「十分、交渉成立だね、それじゃこれを外してくれるかな?」
男との交渉を成立させた愛理は、足枷と手枷を外してくれと男に頼む。
「あぁ分かった」
男はカチャカチャと足枷と手枷を外す、枷を外して貰った愛理は自由になった手足を動かす。
「にしてももっとやり方あるでしょう?こんなやり方じゃなくてさぁ」
自由になった愛理は男に詰め寄り、もっと別のやり方があった筈だと、彼に言う。
「済まない、でも君のような子に協力して貰う方法がこれしか思いつかなかった、それよりもさ」
「ん?」
「透けてる・・・」
「きゃっ!?」
男に服が透けてると指摘された愛理は慌てて体を隠す、男は申し訳なさそうにそっぽを向いた、そして愛理を監視していた男はまだ寝ていた。
トバッハ自警団
「はい、着替えよ」
「ありがとう」
愛理を攫った彼等はトバッハ自警団を名乗る集団のようだ、その目的は先ほど愛理が聞いた通り、ギャングに奪われた家族を取り戻す事。
濡れた体を隠しつつ、リーダーである、ジェラに自警団の本部の一階にある更衣室に案内して貰った、途中出会った自警団の数少ない女性の一人、ミイに服を出してもらい、愛理はお着替え中だ。
「にしてもあなたホント綺麗ね!どこかのお姫様だったりする?」
「んー?うーん」
お姫様だと言われた愛理は悩む、各世界に住む妖狐達にとっては愛理はお姫様らしいのだ、その為たまに会う妖狐達は愛理の家族の外見を伝え聞かされているのか、皆姫様と呼ぶ、その為愛理はお姫様だと言えなくもない、育ちは一般家庭であるが。
「悩むって事はそうなの?」
「違うとも言えるし、そうだとも言える微妙なところ?」
「なによそれ」
愛理の微妙な言い回しに女は呆れた反応をする、すると突然扉が開き、一人の少女が部屋の中に入って来た。
「やはりこの魔力の感じ姫様でしたか!、私は妖狐族の!蒼狐、えと、出来ればお名前を〜」
いきなり部屋に入って来ても名乗りを上げた青髪の蒼狐は、後半でトーンダウンすると愛理の名を聞いて来た、愛理の一族久城家の女性は皆似たような顔をしている為パッと見、誰が誰か分からない。
よく見ると耳の毛の配色、尻尾の毛並みや金の髪色の明るさが違ったりするが、そんな事が分かるのは常に付き合いがある者達だけだ、この蒼狐が分からなくても仕方ないだろう。
そして愛理は特に明日奈と尻尾の毛並み、耳の毛の配色が似ている為、成長したらどっちがどっちか分からなくなる可能性があると、家族の間でも心配されていたりする。
「私の名は久城愛理だよ」
「おお!愛理様でしたか!母さまからあなたの事聞いております!お初にお目に掛かります!」
愛理の名を聞いたテンション高い蒼狐は頭を下げる、しかし姫扱いに慣れない愛理はいきなりこんな事をされても困るのでやめて欲しいと思うが、やめさせ方が正直分からない。
「顔を上げて、蒼狐、愛理ちゃんが困ってるでしょ」
「ですが・・・」
ミイに顔を上げろと言われた蒼狐はちらりと愛理の顔を見る。
「私ね?正直お姫様だ、なんて言われてもそれがどう言う事なのかイマイチ分からないんだ、だって私は普通の家で暮らして来たからね、だから蒼狐ちゃん、いつも通りのあなたで私に接してくれると嬉しいな」
「愛理姫、いえ愛理ちゃんがそう言うのならそうしましょう、ではでは改めてよろしくお願いします!愛理ちゃん!」
変わり身の早い性格らしいやはりテンションの高い蒼狐は和かに手を差し出してくる、愛理も笑顔でその手を取り、二人は握手をした。
「あーずるーい!私も!」
愛理はミイとも握手した。




