二十九話
サビシート島、ロロックの荒野
ここはヒューと乾いた風が吹き抜けるロロックの荒野、一面に乾いた土地が広がっている。
愛理達がまず目指すのは船着場からすぐに見えている町に向かう。
「リザードマンが多いな」
「うむ」
ここロロックの荒野にはリザードマンが多い、周辺を見渡すと冒険者達が彼等を狩っている様子が見える、彼等は体を変色させて隠れる事も出来るようで、油断している冒険者達を背後から襲ったりもしているが、冒険者達も慣れているようで対応している。
「2人で頷きあってないで手伝ってよぉ!」
しかしリザードマンの背後からの襲撃に慣れていない愛理達はまんまとリザードマンに背後に迫られ襲われついには囲まれていた。
「おう任せろ!」
「援護する」
後衛のレベンと、中衛のケーニは杖と銃を構え、それぞれ魔法と銃弾を放つ、彼等の魔法と銃弾は的確に前衛の愛理達を前や左右から襲うリザードマンを撃ち抜き仕留めた。
「ありがと!」
愛理は援護してくれた2人に感謝すると手を胸元に触れさせ精霊召喚を行う。
「来て!牡羊座の精霊!アリエス!」
愛理が呼び出すのは牡羊座のアリエス、愛理にとっても初めて一緒に戦う精霊、所謂初陣だ。
「呼び出してくれてありがとう、さぁ一緒に戦いましょうか」
「うん」
召喚され地面に降り立ったアリエスは手を広げると手をかざす、すると無数の綿が現れ射出される、綿はリザードマン達の顔にくっ付き息が出来なくなったリザードマン達はバタバタと倒れて行く、アリエスは気絶した所ですぐに綿を顔から消し去る。
「彼等にトドメをささないであげてね、愛理」
「うん」
アリエスは心優しい精霊だ、だからこそ命を奪わないで済むこの戦い方に行き着いた、愛理は彼女の願いを受け入れ剣を鞘に仕舞う。
「さっ行きましょうか」
「はい」
戦闘を終えた愛理達は町に向けて再び歩き始めた。
ロロックの町
愛理達はロロックの町に辿り着いた、ロロックの町はまるで西部劇にでも出て来そうなウェスタンな町で、カウボーイっぽい格好をした者達が沢山いる。
「町の人達が被ってる帽子良いな、買ってこようかな?」
ケーニは彼等が被る帽子に興味を持ったらしい、愛理達に買って来ても良いかオーラを全開にしてアピールして来る。
「良いですよ、ケーニなら似合いそうですし、待っていてあげます」
「そうか!ありがとう!」
ラフォリアの言葉を聞いたケーニはスタコラサッサと近くの帽子屋に入る、ラフォリアも後に続いた。
「服屋さんがあるよお婆ちゃん、ちょっと新しいの買わない?」
「そうね、そろそろ新しいの欲しいし」
「私もお供しよう」
服屋を見つけた愛理は明日奈に服を見ようと誘い、明日奈と共に服屋に入る、レベンもそれに続いた。
服屋
服屋も外の者達と同じくカウボーイっぽい服を売っている、帽子はすぐ近くに帽子屋がある為ないが、ウェスタンなシャツや、ジーンズ、ブーツなどが売っている。
「ほうほう、これは中々」
如何にも魔導士といった法衣を身に纏っているレベンはウェスタンシャツとジーンズを手に取り、何やら悩み始めた、魔導士である彼にはこのような格好は物珍しいのであろう。
「どう?」
愛理はさが手に取ったのは赤と白のストライプシャツだ、それを上半身に合わせ、どう?と首を傾げる、そんな愛理の仕草をレベンが見ていたが愛理は気付いていない。
「ふふふ、良いんじゃない?私こそどう?」
明日奈が愛理に見せたのは無地のウェスタンシャツ、色は赤色だ。
「うん、可愛い!」
「そう、ふふふ、ならこれにしましょう」
ここ最近このように服を選ぶ事がなかった明日奈は、愛理と一緒に服を選ぶこの瞬間を楽しんでいる、愛理も明日奈と一緒に服を選び合うのが楽しそうにしている。
「どうだ?」
愛理と明日奈が服を選び終えた所でレベンが近付いてきて選んだシャツを見せて来る、彼が選んだのは緑色がメインの色取り取りの花柄マークが付いたシャツだ。
「な、なんかアロハシャツみたいじゃない?」
「確かに・・・」
愛理と明日奈の微妙な反応を見たレベンは、シャツに腕を通し始めた。
「どうだ?」
そして再びどうだと聞いて来る、どうやらこのシャツを気に入ったので、愛理と明日奈に似合っていると言って欲しいようだ。
「う、うん良いんじゃないかな?」
「そ、そうね」
そんな彼の考えを察した2人は目を逸らしながら良いと言った。
「そうか、買って来る」
2人の言葉に満足したらしいレベンはレジに向かう、左手には半ズボンを持っている、あれも買うようだ。
「お、お婆ちゃん、あれ止めないで良いのかな!?明らかにこの町じゃ浮いた格好になるよ?」
「い、良いんじゃないかしら」
愛理と明日奈は服を買い、もう着るらしく試着室に向かったレベンから目を逸らし、今度はジーンズを選び始める。
服屋から出ると緑色の花柄シャツに半ズボンを着たレベンが待っていた、ホワイトローズがそれを見て町の他の者と比較して明らかに浮いているのを見てプッと吹き出したが、明日奈が頭を小突いて止める。
そして愛理は先程のシャツと黒いジーンズに茶色いブーツ、明日奈も先程のシャツに青いジーンズに黒いジーンズを着ている、その服に金色の髪と尻尾がアクセントとなっておりかなり可愛らしい。
「三人は服を買ったのですね」
そこで帽子屋からケーニとラフォリアが出て着た、2人ともケーニは黒色のカウボーイハット、ラフォリアは赤色のカウボーイハットを身に付けている。
「かっこいい!2人とも似合ってるよ!」
愛理はカウボーイハットが似合う2人を褒める、すると2人は若干照れ臭そうにする。
「それにしてもレベンさん、その格好・・・」
「む?どうだ良いだろう?」
「・・・うん!良いと思うぜ!」
ケーニがレベンの服について口にすると、レベンは良いだろうとケーニに見せびらかす、ケーニは一瞬考えた後、良いと思うぜとガッツポーズした。
「プッ!」
「やめなさい」
そんな男達を見てホワイトローズがまた吹き出したが、明日奈がまた頭を小突いて止める。
服と帽子を選び終えた愛理達は冒険者ギルドを目指し町を歩く、何故だかレベンに視線が集まり、レベンが何故だ?何故私に視線が集まる?と言っているが愛理は聞かなかったことにする。
「酒場だ、本当西部劇みたいだねー」
ドラマにそのまま出て来そうな酒場を見た愛理は尻尾を揺らし観察する、すると。
「グホッ!」
酒場の門を突き破り1人の男が飛んで来た彼はそのまま地面に落ちる。
「はっはっは!ケリー!これに懲りたらもう俺に喧嘩を売るのはやめるんだな!」
「誰がやめるかよ!コランダ!なら俺の妹を返せ!」
コランダに家族を返せと言うケリーはコランダに殴りかかる、それをコランダは顔面を蹴り飛ばす事で止め、再び倒れたケリーの上にコランダは乗り何度も殴る。
「はぁ?妹だと?良いじゃねーかこの町一番の金持ちである俺の嫁になれるんだ、幸せだろうが!」
そしてコランダは何度もケリーを殴る、殴られるケリーは既に意識がないようでこのままでは死んでしまいそうだ。
「やめなよ」
殴られるケリーを見て我慢の限界が来た愛理は冷たい声で、殴るのをやめろとコランダに言う。
「なんだぁ?このガキ、テメエには関係ねぇだろ!」
コランダはそう言うと愛理に向けて唾を吐く、愛理はそれを躱すと、コランダに詰め寄る。
「このままじゃその人が死んじゃうって言ってんの!やめなさい!」
「うるせぇ!」
やめろと言う愛理にコランダは殴りかかる、愛理はその拳を受け止める。
「なっ!?俺の拳を!?」
愛理をただの少女だと思った思ったコランダは拳を受け止められ驚く、そしてすぐに客の手で殴りかかるが、今度は愛理の手に弾かれた。
「セェイ!」
愛理はコランダ乗り腕を両手で持つと放り投げる、愛理に放り投げられたコランダは酒場の壁に激突し、崩れ落ちた。
「ふぅ」
コランダを倒した愛理のケリーに近付いていく。
「今治してあげるね?、来て!癒しの精霊!セラピー!」
愛理は精霊を召喚する、その名は癒しの精霊セラピー、召喚士に人気の精霊で、セラピーがいればどんな怪我も治ると評判の精霊だ。
「ハァイ!こんにちは愛理!今日はどこを怪我したのかしら?」
現れたセラピーはナース服を着た女性の姿をしていた、現れるなり愛理に何処を怪我したのか聞く。
「私じゃないよ、この人、治してあげて?」
「あらあら酷い怪我、分かったわ!治しましょう!」
怪我をしたのは自分ではないと首を振る愛理はケリーを指差す、ケリーを見たセラピーはすぐに治療を始めた。
「イテテ、このガキよくも!」
セラピーがケリーを治療しているとコランダが目を覚ます、そしてすぐに立ち上がろうとするが立ち上がれない、意外と愛理の背負い投げでダメージを受けたらしい。
「あなたもすぐに治してあげるから大人しくしてなさい、それと」
そんなコランダを見た愛理は彼に近付き、彼の前にしゃがみ込み・・・
「あの人の妹さんを返してあげなさい」
鋭い視線でケリーの妹を彼に返してやれとコランダに言った。
「お、おう」
そんな愛理の視線を受けたコランダは何故か若干頬を赤くしつつ、頷いた。
この後ケリーの元に彼の妹は帰って来て、この件は一件落着となった。




