十七話
聖なる森
「これから金の聖杯を手に入れる為の作戦を決行する、エミリア、お前の力、頼りにしているぞ」
「了解」
アルファルド達は空を飛び、大南原を進む愛理の元に向かう。
海上
「・・・なんだろう、嫌な予感がする」
迫る悪意を感じたのか愛理は背後にまだ見える大陸を見る、しかし何も見えない、愛理は思い過ごしだろうと思う事にし船を走らせる。
「ねーねー、お母さん!、私にもやらせてーせてー」
嫌な予感に愛理が尻尾をソワソワさせているとそれを忘れさせる明るい声が聞こえて来た。
「良いよー」
愛理は灯理に操舵を任せてみるすると・・・?。
「灯理?、そっちはさっきまでいた大陸だよ?」
「き、気のせいよ」
「そうだねー、気のせいだねー」
こりゃダメだと思った愛理は、デバイスが教えてくれる操舵の仕方を灯理にも教えた。
船内
食堂にいた仲間達がぐーぐーお腹を鳴らしていたので何故か溢れるほど揃っている食材を使い、パスタを作ってあげた愛理は、現在、船の倉庫を見てる。
「何してるのかな?」
「新しい砲台の組み立てをしてるのです」
「ふぅん・・・」
蒼狐は何やら作りかけの砲台のパーツを何もなく広い倉庫にバラバラに置いていた、どうやらこれから組み立てる所らしい。
「ま、まぁ好きにしてくれて良いんだけどさ、危ない事はしないでよ?」
「分かってますよぉ〜」
「本当かなぁ・・・」
分かっていると言いつつ火薬が入っていそうな袋を背中に隠した蒼狐を愛理はジーと見つめる、そうしていると蒼狐はピューピューと口笛を吹き始める、いつまでも蒼狐を見つめていても仕方ないので愛理は蒼狐から視線を外し倉庫から出て行こうとする、するとこんな言葉が聞こえて来た。
「さて新しい爆弾を作れますか」
「・・・」
寝室
次に愛理がやって来たのは寝室、するとラフォリアがベッドに寝転がっており、部屋に入って来た愛理に気付いた彼女は来い来いっと手振りをし、愛理に自分の横に寝転がる様に促している、愛理は親友の誘いに乗り隣に寝転ぶ。
「そう言えばお礼言ってなかったよね、さっきはありがとね、今こうして生きてられるのはリアちゃんのおかげだよ」
愛理は何気ない会話も覚えてくれていて、そのおかげで今も生きていられる事をラフォリアに感謝した。
「友人を助けるのは当たり前です」
愛理に感謝されたラフォリアは胸を張って友人を助けるのは当たり前だと言った。
「ふふ、リアちゃんらしいや」
ラフォリアの言葉を聞いて愛理が先にクスクスと笑い出し、ラフォリアが釣られて笑い出す。
「これからも私達助け合って行こうね?リアちゃん、例え互いがどうなっていてもさ」
「はい、愛ちゃん」
「起きて下さい、愛ちゃん、もう夜ですよ?」
「うーん?」
ラフォリアと話しているうちにいつの間にか眠っていたらしい、愛理はラフォリアに起こされる、寝ぼけた愛理は目を擦りながら身を起こした、その瞬間、船体に振動が走り船が大きく揺れた。
「何!?」
「分かりません、とにかく外に行ってみましょう!」
愛理とラフォリアは走り外に向かう、そしてデッキに出た、すると・・・。
「また会ったな、金の聖杯よ」
アルファルドと菜乃葉とエミリアがいた、この地上は飛空艇は飛ぶ事が出来ないが羽を持つ者や空を飛ぶ魔法を使える者は飛ぶ事が出来る、彼等は空を飛んでここまでやって来たのだろう。
「何の用かな?、私の邪魔をしに来たの?」
「少し前まではなお前の邪魔をするつもりだったさ、だが我々の王が君を所望していてな、今は君の覚醒を望んでいる者の一人だ、久城愛理、君の力、ヴァレンシーナ様の為に使う気はないか?」
「ないね」
アルファルドの勧誘、愛理は即答で断った、そして集まって来ていた仲間達と共に武器を構える。
「そうかならば、エミリア」
「ええ」
愛理の返答を聞いたアルファルドはエミリアの名を呼ぶ、するとエミリアは歌い始めた、彼女がまた自分を暴走させようとする歌を歌い始めたのだと思った愛理は、自我が残っているうちにエミリアを止めようと彼女に接近するが・・・?。
「くぅ!?、あああ!?」
背後から聞こえてくる仲間の悲鳴を聞いて愛理は足を止める、振り返り仲間達の様子を見ると彼等は首元を抑え苦しんでいた。
「ふふふ、あなたの仲間ね?、今息が出来なくなってるの」
「ッ!、今すぐ歌うのをやめて!」
「そうねぇ、なら一緒に来なさいな、そうしたら歌うのをやめてあげる」
「くっ・・・」
アルファルド達と一緒に行けばマズイことになる、そう思う愛理は中々選択が出来ない、そうしている間に仲間達は一人ずつ倒れ苦しむ、このままでは全員死んでしまうだろう。
「うぁぁ!」
焦る愛理は出来れば使わないつもりだった魔力バーストを使い身体能力を上昇させる、その瞬間愛理の体は闇のオーラに覆われた。
「やめろぉ!」
そして愛理はエミリアに向けて突進をする、しかし・・・。
「焦ったな?、直線的だぜ」
直線的すぎる愛理の動きを読み切った菜乃葉の拳が愛理の腹に突き刺さった、腹に強烈な衝撃を感じた愛理は地面に倒れるが意識を保っている。
「ねぇ、本当にあの人達、殺すわよ?」
エミリアは抗う愛理を哀れみに満ちた瞳で見つめつつ、灯理達に更に強く力を加えて行く、すると更に灯理達は苦しみ出す。
「やめて!、あなた達と一緒に行く!、だからもうやめて!」
「ふん、最初からそう言っておけば良いのに」
愛理の言葉を聞いたエミリアは歌うのをやめた、すると灯理達は苦しそうな声を上げなくなった、愛理はそれを見てホッと安心する。
「駄目よ!、お母さん!そいつらと一緒に行くなんて!、うう!?、あああ!?」
「やめて!、一緒に行くって言ったでしょ!?」
灯理がアルファルド達と一緒に行こうとする愛理を止めようとするが、エミリアが灯理に向けて歌を歌い、灯理は苦しみ出す、愛理は痛む体を奮い立たせ自身の首元に剣を当てる。
「これ以上、みんなを傷付けるのなら、私はここで死ぬ、あなた達は私が欲しいんでしょ?、良いのかな?、ここで私が死んでも」
「はいはい、やめますよ」
愛理の言葉を聞いたエミリアはヒラヒラと手を振りながら歌うのをやめた、その瞬間もう限界だったのだろう愛理はフラつき倒れそうになるが、アルファルドが抱き止めた。
「さて、行こうか、金の聖杯よ、ヴァレンシーナ様の元に」
「・・・」
アルファルドは愛理を抱き抱え、灯理達から離れて行く。
「愛理!、行くな!、愛理!」
レベンは酸素が足りず意識が朦朧とする状態で、必死に妻の名を呼んだ。
「ごめんね、レベンさん」
アルファルドに抱き抱えられた愛理は涙を流し愛する夫を見つめる。
「くっ!、待て貴様!、愛理!」
愛理の涙を見たレベンはなんとか立ち上がり、アルファルドに向けて走る、しかしアルファルドの元に辿り着く前にアルファルド達は転移しこの場から姿を消した。
「愛理・・・、くそぉ!」
必ず守ると決めたのに愛理を守れなかったレベンは悔しそうに地面を殴った。
ヴァレンシーナの世界
「ふふふ、良くやったわね、あなた達」
カプセルの中に入り復活の時を待つヴァレンシーナの目の前には台の上に横たえられた愛理が眠っている、ヴァレンシーナはカプセルを開き目の前で眠る愛理の頬に触れた。
「ご主人様?、この子どうするつもり?、洗脳するの?」
「それも良いわね、でも今はこの子はこの子のまま私の為に働いて貰うわ」
そう言ってヴァレンシーナはモニターを見る、モニターには灯理達が映っている、このモニターは衛星兵器の情報を映し出した物であり、いつでも灯理達を攻撃可能と表示されていた。
「こりゃあ良い、あいつらを人質に取っておけば、こいつは無条件であたし達の言う事を聞く、流石はボスだぜ」
「でしょう?、彼等はこの子の最大の弱点、彼等さえ人質に取ればこの子は洗脳する必要すらなく私の物に出来るのよ、ふっふふふ、あはははは!」
ヴァレンシーナは笑う、完全に己の物にした少女を見据えて。




