十二話
聖なる森、廃村
朽ちた廃村の中で自身を歌姫だと名乗る少女エミリアの歌で暴走した愛理と、灯理達の戦いが始まろうとしていた。
「灯理、愛理を止めるのは一筋縄では行きません、私、そして麗蘭とあなたの三人で抑え、レベンさんの魔法で一気に意識を奪う作戦で行きましょう、乳デカとケーニはお休みです」
灯理の隣に立ったラフォリアは隣にいる彼女、そして周りにいる仲間達に作戦を伝える。
「サラリと喧嘩を売られたのはムカつきますが、私の宴会魔法、そして爆発魔法では流石の愛理ちゃんでも大怪我をしてしまいますからね、大人しく引き下がりますよ」
「俺も了解だ」
お休みだと言われた蒼狐とケーニが納得した所で、ラフォリアは灯理と麗蘭と頷き合い、愛理に向けて斬りかかる。
「焔の剣!」
焔の剣を召喚した灯理は愛理に一気に接近すると下から剣を振り上げた、対する愛理は楽しそうに微笑みながら灯理の剣を迎え撃ち打ち勝つ。
「助走を付けて灯理は斬りかかったのに勝っちゃうって・・・、あいっ変わらずの馬鹿力ね!」
麗蘭に馬鹿力と言われたのを聞いていたのだろう、愛理は灯理に追撃を加えようとしていたのをピタリと止まって辞め、麗蘭に向かって行く。
「あー、聞いてたんだ、・・・本当に自我失ってんの?、あんた・・・」
麗蘭は目の前にまで迫って来た愛理の斬撃をしゃがんで躱し、腹に一撃、パンチを当てた。
「この程度、全く痛くないって訳ね、分かってた」
しかし麗蘭のパンチは愛理に全く聞いておらず、逆に顔を殴られた麗蘭は吹っ飛び地面を転がった。
愛理は剣を逆手に持ち直し、地面を転がる麗蘭を刺し殺そうとしている、それを見た灯理とラフォリアは麗蘭をカバーする為に愛理に向けて同時に攻撃をする。
「良し!」
流石に二人同時の攻撃には打ち勝てなかった愛理は体を大きく仰け反らせる、そこにレベンの魔法が飛び、愛理は目の前に発生した衝撃波をまともに喰らい、倒れる。
「意識、失ってくれたかしら・・・」
「さぁ・・・」
ラフォリアと灯理と麗蘭は倒れた愛理を不安げな表情で見つめる、すると・・・。
「・・・」
愛理は何事もなかった様子で立ち上がる。
「駄目か・・・」
「愛ちゃんがあの程度の威力の攻撃で意識失うとは思えませんしね・・・」
まだまだ余裕そうな愛理を見て三人はため息を吐き、次はどうするか話し合う、そうしているとレベンが前に出て来た。
「三人共、ここは私に任せて欲しい」
「何するの?」
「見ていれば分かる」
自信ありげなレベンはゆっくりと愛理に近付いていく、そして声が確実に聞こえる距離になると立ち止まり口を開いた。
「愛理、離婚しようか」
そして今、愛理が聞かされると一番ショックであろう言葉を言い放った。
「!?、やだよ!、絶対やだ!」
そして愛理はレベンの狙い通り自我を取り戻し、涙を流しながらレベンに抱き着く。
「君の自我を取り戻す為の嘘だから安心しろ」
「ムー」
愛理はレベンの嘘だと言う言葉にスッと涙を止め安心した表情となるが、すぐにむくれた表情となり夫を見つめる、レベンは申し訳なさそうに見つめてくる妻から視線を逸らす。
「あーあ、自我取り戻しちゃったかぁ」
「ッ!、あなた、このまま逃げれるとは思わないでね、私に私の大切な仲間を攻撃させたんだから!」
仲間への攻撃、それは愛理にとって一番許しがたい事だ、その為今、愛理は本気で怒っている、一瞬元の金色に戻っていた髪は再び黒く染まり、体から黒いオーラが噴き出す。
「愛理、また・・・」
「大丈夫、なんか少し興奮した感じになってるけど、今度は自我を失ってないよ、多分無理矢理にこの力を引き出してくれたあの子のおかげだね」
愛理は不安そうな夫を安心させてから、剣を構え少女と向かい合う、対する少女は手を広げ女神のように微笑む、あれが少女の戦闘態勢なのだろう。
「さぁ、行くよ!、覚悟してね!」
黒い力に包まれた愛理はエミリアに向けて斬りかかる。
「ハァァ!」
愛理は黒い魔力を剣に纏わせ、エミリアに向けて剣を振るう、エミリアはシールドを張り、愛理の斬撃を防いだ。
「これが私のもう一つの能力、あなたに私の防御を破れるかな?」
「はん!、こんな柔らかそうなシールド、簡単に壊してあげる!」
剣を両手で持ち力を込めた愛理は思いっきり剣をシールドに打ち付ける、しかしシールドは破れない、そしてシールドの中の少女は口を開いていた。
「くっ!?」
少女の口が開いた途端、愛理は体に衝撃を感じ倒れそうになったがなんとか堪えた。
「これがアタックボイス、ふふふ見えなかったでしょ?」
「そうだね、見えないし何も聞こえなかった」
「ふふふ、ジワジワと追い込んであげるね」
「ふん、なら私は一気にあなたを倒してあげる!」
一気にエミリアを倒すと宣言した愛理は己の周りを漂う黒いオーラを一点に集め、エミリアに向けて放った、しかしこの攻撃もシールドに阻まれる。
「はー、だから無駄だって・・・」
「一撃ではね」
「!?」
愛理の言葉を聞いたエミリアは先程の攻撃がまだ消えていないのを見て驚いた表情を見せる、地面を蹴り前に飛んだ愛理は留まっている魔力の塊に突き攻撃を放った。
「んー、良し!、ダークスパイク!」
新たな技、ダークスパイクは一点集中でエミリアのシールドとぶつかり合い、シールドを突き破った、そしてエミリアの目の前に着地した愛理はエミリアの首筋に剣を当てた。
「私の勝ちだね」
「うん、そーだね、あなたの勝ち、でも次は負けないよ」
エミリアは愛理に首を斬られる前に転移し逃げて行った、エミリアが消えたのを見た愛理は捕まえられなかったのが不満なのだろう、近くの小石を蹴ってから、仲間達の元に近付いて行く。
「その力、コントロール出来てるのか?」
「えーと、出来てない、戦闘中だから我慢してたけど、全身めちゃくちゃ痛い・・・」
愛理の体が痛む理由、それは愛理の変身能力は体の耐久性も上げる為、能力が向上しても体が耐える事が出来たが、突如発生した力は体の耐久性は元の状態のままである為、向上した能力を使えば使うほどダメージが蓄積し痛みが発生する、これを防ぐ為には、魔力を体の保護の為に循環させる必要があるだろう。
「・・・、その力は闇の力です、使うのですか?愛ちゃん、私は出来れば使って欲しくありません」
闇の力を使うと言う事は敵であるアルファルドやヴァレンシーナと同じ力を使うと言う事だ、ラフォリアが嫌がるのは無理もない。
「うん、私も使いたくないよ、だからこの力は出来れば使わない、でも、どうしても使わなきゃいけないのなら」
「いけないのなら?」
「使うよ、みんなを守る為に」
夜、川辺
あの後聖なる森を抜け平原に出た愛理達は暗くなった為、川を見つけその近くでキャンプを張っていた、愛理は皆が寝静まった後、彼等から離れた所でとある実験を始める。
「フッ!」
愛理は例の闇の力を使っている時の感じを思い出し、普段使っている聖属性の魔力で同じ物を発生させた、すると・・・。
「やっぱ出来た・・・」
愛理の体から光のオーラが溢れ出して来た。
「精霊王モードより全然強い・・・、でもデメリットがなぁ・・・、イテテテテ!」
愛理は試しに能力を解いてみたすると体が強烈に痛み出し涙目になる、これはどうしても勝てない敵にこの力を使うべきだと愛理は判断する。
「後は光と闇の力の使い分け、それとこの力になんで突然目覚めたのか、調べてみなきゃね」
一通りのテストを終えた愛理はセラピーに体を治してもらいながらテントに戻り、寝袋に入ると眠った。




