八話
騎空団ギルド
騎空団、フォックステイルを立ち上げた愛理は明日奈とラフォリアと共にクエストボードの前に立ち、貼り出されている依頼を見ていた。
「愛理、最初の仕事よ?簡単な仕事にしておきなさい」
明日奈としても騎空団としての仕事は初めてだ、その為自分の事も含め愛理に簡単な仕事をやろうと愛理に提案した。
「うん」
愛理としてもいきなり高難易度の仕事を受けるつもりは無い、その為まずはA、B、Cと書かれているクエストボードを見比べた結果、Cのクエストボードに報酬は少ないが、簡単そうな依頼が集まっているようなので、Cの看板から依頼を探す事にする。
「林檎5000個の運搬依頼だって」
「こっちは、布製品の運搬依頼ですね」
Cのクエストボードには基本的に運搬依頼が貼られている、未開の島の調査依頼や、空賊団の取り締まり依頼はBからのクエストボードに多く貼られているようだ。
「これが良いんじゃない?沢山の作物の運搬依頼、報酬は50000ゴールド」
「50000!うん!それにしよう!」
50000ゴールドと言う報酬に釣られた愛理は明日奈が選んだ仕事を受ける事にした、現在少々手持ちのゴールドが少ない為、簡単な依頼かつ高報酬な依頼を受けたく、明日奈が選んだ依頼は丁度良い。
「それじゃ受けて来るね!」
依頼書を手に取った愛理は受け付けに向かって行く、明日奈とラフォリアはその間に壁に貼られている、騎空団の心得を読む。
騎空団の心得その1、初心者騎空団はCのクエストボードに貼られている依頼から依頼を受けるように!
騎空団の心得その2、騎空団には騎空団ポイントがある、高ポイントを得ている騎空団にはギルドから直接高報酬依頼を持ち込む可能性がある!
騎空団の心得その3、騎空団は信頼が大事!、途中で依頼を投げ出したり、他の騎空団から仕事を奪ったり、襲ったりしないように!
と言った内容だった。
「つまり、お金持ちになりたいのなら騎空団ポイントを集め、直接依頼を受けれるようになれば良いと言う事ですか」
「みたいね」
二人が心得を読み終わると愛理が戻って来た。
「二人共、依頼受けたよ」
「分かったわ、行きましょう」
初めての騎空団としての依頼を受けた愛理達は、メサイヤに戻って行く。
三番ドック
愛理達が三番ドックに戻って来ると、沢山の木箱を載せたフォークリフトと、農家のおっちゃんと言った格好をしたおっちゃんが待っていた。
「おー!おめえらか!オラの依頼を受けてくれたのは、ありがてぇ!」
おっちゃんは愛理達を歓迎すると、明日奈の元に行き、肩を叩く。
「あんたが団長さんだべな?よろしく頼むぞ!」
そして愛理が考えていた通り、おっちゃんは明日奈を団長と間違えた。
「あー、あはは、ごめんなさい、私は団長じゃ無いの、そっちの私の孫が団長よ」
団長と間違えられた明日奈は苦笑いしつつ、愛理を指差す。
「ありゃあ!あんただったべか!そりゃあ済まんことをした!改めてよろしく頼むべさ!団長さん!」
「・・・うん」
よろしく頼むべと手の平を向けて来るおっちゃんに、愛理はテンション低く、手の平を合わせる。
「それじゃ荷物を運び込むべ!後ろのハッチを開けてくれ!」
「・・・はい」
肩を落とす、愛理はメサイヤの中に消えて行く、数秒後メサイヤの後部ハッチが開らく、それを見たおっちゃんはフォークリフトを動かしメサイヤの中に商品を詰め込んで行く。
おっちゃんはフォークリフトを貸してくれると言うのでドックのアームで固定し動かないようにし、商品は倉庫に運び込んだ。
「それじゃ行き来の燃料代と報酬はあんたらが帰って来たら払うべさ!よろしく頼むべ!」
「うん!任せて!あっ!燃料代はいらないからね!」
そして愛理は元気良くおっちゃんに返事をし、燃料代はいらないと言ってから、メサイヤに乗り込む。
「ん?燃料代はいらないって、んならこの飛空艇は何で動いんてんだ?」
農家のおっちゃんは愛理達がメサイヤに乗り込んでから、愛理が言った燃料代はいらないと言う言葉の意味を考える、通常の飛空艇は燃料補給が必要で、こう言う依頼の際は燃料代も払うのが普通なのに。
「まぁいらないって言うのならそれで良いべさ」
おっちゃんはそう思い直すと、飛び立つメサイヤに向けて手を振る、おっちゃんが見送る中メサイヤは後進し、ドックを出ると反転し、船着場から目的地に向けて出発した、今回の目的地はベレー島の船着場だ。
空、ドリー島〜ベレー島間空域
メサイヤはドリー島からベレー島間の空域を進んでいる、愛理の網膜に移るレーダーには何も映っておらず、平和なフライトである。
「あっ、綺麗な島」
メサイヤの左側に綺麗な湖と林が美しい島が見える、島の西方には飛空艇が止まっており、網膜に映される画像をズームすると、湖で何人か泳いでいるのが見えた、恐らくは騎空団の者達が息抜きに遊んでいるのだろう。
「良いなー、私達も後で行きたいなぁ」
あの島に遊びに行きたいと思った愛理は、リビングとコクピット間の通信ボタンを押す、すると愛理の網膜投影画面の一部にリビングの様子を映したウィンドウが表示され、リビングには愛理の顔を映す魔導モニターが現れた筈だ。
「ねっ、お婆ちゃん、さっきの島見た?」
「んー?なんの事?」
どうやら明日奈は先ほどの島を窓から見ていないのだと、明日奈の反応から察した愛理は、網膜に移る島の様子をピコンと言う音と共に、魔導モニターに表示する。
「この島だよ、綺麗でしょ?遊びに行こうよ!」
「本当に綺麗ですね!行きたいです!」
「あら綺麗、なら仕事が終わったら行きましょうか」
「うん!」
魔導モニターに表示された島の様子を見たラフォリアと明日奈も、島を綺麗だと思ったようで、行こうと言ってくれた、それを聞いた愛理は嬉しそうに返事をする。
「なら、飛ばすよ!二人共!」
「ええ!」
次の目的が出来た愛理はフルスロットルでベレー島に向かう、明日奈達と魔導モニター越しに会話をしつつ。
ベレー島船着場
夕暮れ時、ベレー島船着場に到着した愛理は、ベレー島の騎空団ギルドに対しての通信を開く。
「何番ドックに入ったら良いの?」
『62番ドックにどうぞ』
「はーい」
愛理は操縦桿を操作し62と書かれたドックに入る、ドックにメサイヤを着陸させた愛理はエンジンを停止させ後部ハッチを開けた、後はクーラの町の八百屋が船着場のギルド前で待っている筈なのでその者に商品を渡せば後はドリー島に戻るだけで依頼は官僚である。
「愛理?手伝うわよ?」
「良いよ、このくらい一人で出来るもん、二人はリビングでゆっくりしてて」
愛理は二人にゆっくりしていてと言ってから、通信を切る、そして倉庫に向かい全ての商品をフォークリフトに運び込むと、フォークリフトの運転席に乗り込みギルド前に向けて走らせる。
「こんにちは!フォックステイルです!」
「あんたがドリー島のおっさんの依頼を受けてくれたフォックステイルの団員さんか!待ってたぜ!」
「・・・」
フォークリフトでギルド前にやって来ると頭に鉢巻をした、若い男が待っていた、彼の隣には馬車が止まっている、この馬車でクーラの町まで商品を運ぶのだろう。
「それじゃリフトから馬車に商品を運び込むから待っててくれ!」
そして鉢巻の男はフォークリフトから馬車へと商品を積め替えて行く、団員と間違われ拗ねた愛理は若干頬を膨らませつつ、船着場の様子を見る、すると一軒の店が目に入る。
「帽子屋さん・・・」
帽子屋を見た愛理は思う、あの帽子屋で団長っぽい帽子を買えば間違われる回数は減るのではないかと。
「終わったぜ!ほら確認書だ受け取ってくれ」
「うん」
愛理が男から確認書を受け取ると、鉢巻の男は愛想良く愛理に手を振り馬車を走らせ去って行った、彼を見送った愛理はフォークリフトが盗まれないようにキーを抜いてから帽子屋に向かう、団長っぽい帽子を買う為に。
メサイヤ、リビング
「じゃじゃーん!見て見て!団長っぽいでしょ!」
フォークリフトをメサイヤのドックに戻しアームで固定してから愛理はリビングにはやって来た、頭にはトライコーンのような形状の騎空団の紋章である剣のマークが前面に入った帽子を被っている。
「あの?愛理、その帽子はどうしたのですか?」
ラフォリアは早速愛理の頭の帽子について質問する。
「さっきも言ったけど団長っぽいでしょ!」
「うーん、まぁ確かに、そう見えなくもないですね、はい・・・」
「だよね!」
愛理の言葉を聞いたラフォリアの反応は微妙な物だったのだが、愛理はそれを聞いて嬉しそうに尻尾を揺らすと、機嫌良さそうに部屋を出て行った。
「あれはまずは形からってやつですね?」
「多分ね」
ドリー島、船着場、騎空団ギルド待合室
ドリー島に戻った愛理はドックを歩く人に農家のおっちゃんの外見を話し居場所を聞いた後、騎空団ギルドの待合室に入る。
「おー!嬢ちゃん!早かったべな!」
「まぁね」
農家のおっちゃんに早かったと言われた愛理は尻尾を誇らしげに立てる。
「ほら!報酬だ!出来ればまた頼むべ!」
「うん!こっちこそだよ!」
報酬を受け取った愛理は自分から手をおっちゃんに向けて差し出す、おっちゃんはにこやかに愛理の手を取り、二人はしっかりと握手した。
「それじゃ、フォークリフトは返してもらうべな」
「あっ、そうだね、持って来るね?」
この後愛理はフォークリフトをおっちゃんに返し、明日奈達が待つメサイヤに戻り、先程見た島に向けてメサイヤを発進させた。
湖の島
ドリー島を離れた愛理は先程見た湖の島にやって来た、先程見た飛空艇はもう居ない、どうやら愛理達が仕事をしている間に島を離れたようだ。
「着陸成功!」
島に無事、メサイヤを着陸させた愛理はエンジンを切り、リビングに向かう。
「着いたよー」
リビングに入ると美味しそうな匂いがした、明日奈がキッチンで夕食を作っているのだ。
「ふふふ、もうすぐ晩御飯が出来るから、座って待ってなさい」
バックバックに入れておいたフライパンと食材で料理を作る明日奈は、振り返り愛理に向けて微笑む。
「うん」
「明日奈さんのお料理、楽しみです」
「えへへ、お婆ちゃんのご飯美味しいんだよー?」
明日奈の料理が絶品だと良く知る愛理は、どれ程明日奈の料理が美味しいのかをラフォリアに話して聞かせつつ、明日奈の料理の出来上がりを待つのだった。




