四話
始まりの町
愛理は始まりの町を歩いていた、始まりの町は円形であり、歩いているとそのうち歩き始めた場所に戻る事が出来る、愛理は円形の町を歩きつつ何かクエストがないか探していた。
「困ったのぅ」
尻尾を揺らしながら歩いていると何やら困っているNPCの老人がいた、それを見た愛理は十中八九クエストだろうと思い、老人に近付く。
「どうしたの?、お爺ちゃん」
「ムム、旅人さんか、実はのぅ・・・、ワシの孫が洞窟にキノコを取りに向かったのじゃが帰ってこんのじゃ・・・、旅人さんや、洞窟に様子を見に行ってくれんか?」
ここで老人の依頼を受けるか受けないかのYESNOの選択肢が出た、愛理は迷わずYESを押した。
「おお!、頼むぞ!」
YESの選択肢を押すと老人は喜び愛理に孫の事を任せた、愛理は老人の言葉に手を振って答えると、ワールドマップを呼び出した。
「ここか」
ワールドマップを開くとマップに洞窟の場所を記したマーカーが表示されていた、愛理はマップを開けたままにしつつ町を出て洞窟に向かう。
始まりの草原
洞窟に向かう為始まりの草原を歩いていると、他のプレイヤーが数人でモンスターと戦っている姿が見えた、どうやらあのまま町で絶望していても仕方がないと思う者が現れ始めたようだ、彼等はゲームをクリアする為のレベル上げを始めたのだろう。
「HPが少なくなったら引いて回復!、絶対に忘れるな!」
「あぁ!」
草原で戦うプレイヤー達はどの組も少しでもHPが減れば回復に向かうと言う、確実に安全マージンを取ると言う作戦を取っていた、この作戦ならば、稀に出るクリティカルヒットさえ喰らわなかったら死ぬ事はないだろう。
暫く歩いていると牧場が見えてきた、牧場の中ではNPC達が働いており、食料の生産を行っているようだ、愛理はその牧場の中にアイコンが出ているのを見付けたので近付いてみた。
「へぇ、アルバイト出来るんだ」
アイコンに触れ開いてみると牧場の仕事を経験するクエストが表示された、このクエストの報酬は1000ゴールドと牛乳のようだ。
「後でやってみようかなぁ、取り敢えずは洞窟から帰って来ない子を探さなきゃ」
愛理は牧場でのクエストを後でやってみようと思いつつ牧場から出て、再び草原を歩く。
洞窟
洞窟の近くには小屋がある、気になった愛理は中に入ってみると、中は休憩所となっていた、中に入るのと同時に現れたポップ画面によると、どうやら一日一回だけ、このような休憩所に入ると自動的にHPとMPが全回復するようだ、ただし一度休憩所で回復した場合、別の休憩所に入っても自動回復はされない、愛理は今HPもMPも満タンな為、何も起こらなかった。
「洞窟の中でHPが減ったらここを使わせてもらおう」
資金難な今、タダでHPとMPの回復が出来るのは大きい、愛理は戻ったらここを使わせて貰おうと思いつつ、洞窟の中に入った。
「松明だ」
洞窟の入り口には松明が置いてあった、手にとってみると自動的に火が付いた、どうやらこの松明を使い、明かりを保ち洞窟の奥に進めと言う事のようだ。
松明の明かりを頼りに進む洞窟はとても静かだ、狐の耳をフルに活用し、何かの音がしないか探ってみるが何も聞こえない。
「ッ!」
現実世界での戦いの経験のおかげか、愛理は暗闇からの何かの襲撃に反応する事が出来た、躱しつつつ襲って来た者を見てみると、その正体は蝙蝠だった、愛理は蝙蝠が剣が届く範囲から出る前に剣を振るい蝙蝠を仕留める。
「ビックリしたぁ」
蝙蝠の突然の襲撃に驚いた愛理は胸に手を当ててホッと息を吐く、暫くして心臓の動悸が収まった所で愛理は再び前に進み始める。
「また来た!」
油断せず前に進んでいると再び蝙蝠が飛びかかって来た、今度は心構えをしていたので驚かず、愛理は数匹の蝙蝠を斬り倒す。
「うわー!」
蝙蝠を倒した愛理が剣を鞘に戻そうとしていると、少年の叫び声が聞こえて来た、それを聞いた愛理は剣を仕舞うのをやめ、走り始める。
「いた!」
暫く走り続けているとキノコが沢山生えた広場に出た、そこで一人の少年が大きな蝙蝠に襲われていた、彼が先程の老人の孫なのだろう、今にも少年に飛びかかろうとしている蝙蝠を見た愛理は、少年と蝙蝠の間に松明を投げ、蝙蝠の動きを止める。
真横からの突然の攻撃に驚いた蝙蝠は硬直していた、愛理はその隙を逃さず蝙蝠の体を剣で刺し貫き仕留めた。
「やっ、君のお爺さんが帰って来ないって心配してたよ?、帰ろう」
「心配されるほど時間が経ってたんだ・・・、なら帰らなきゃ!、助けてくれてありがと!、お姉さん!」
沢山のキノコを鞄に詰めた少年は愛理に手を振ると帰って行った、愛理もその後を追い洞窟の外に出て町に戻る。
始まりの町
「おお!、君のお陰で孫が帰って来たよ!、ありがとう!、これを貰ってくれ!」
町に戻ると入り口で先ほどの少年と老人が待っていた、老人は愛理に感謝の言葉を伝えると報酬を手渡して来た、報酬はゴールドで5000ゴールドだった。
「こんなに貰っていいの?」
「うむ、ワシからの感謝の気持ちじゃ、貰ってくれ」
「分かった、ありがとう、お爺ちゃん」
渡して来た本人が貰って欲しいと言うのなら貰うしかない、愛理はありがたくゴールドを受け取る事にし、彼に感謝の言葉を伝えた。
「うむ」
老人と孫は愛理に手を振りながら去って行った、愛理は彼等に手を振り見えなくなった所で、町でクエストを探す作業に戻る。




