二十五話
第86街
搭乗者が居らず暴走するサソリ型は小さな町を壊滅させながら、人が大勢住む第86街へと侵入した、複数の人々をターゲットに捉えたサソリ型は口を開き砲撃の準備をする。
『マスター!』
「分かってる!、させるかぁ!」
既にレーヴァモードに変身し、サソリ型の魔力を追って第86街に転移して来た明日奈はサソリ型の顔の下に回り顔を蹴り上げた、明日奈が蹴り上げた事でサソリ型の顔が上に跳ね上がり、宙に向けてレーザーが発射される。
顔を蹴り上げられたサソリ型は真下にいる明日奈を睨む、明日奈をターゲットに捉えたサソリ型は鋭く先端が尖った前足を明日奈に向けて振り下ろす。
「ふっ!、こんのぉ!」
明日奈に迫るサソリ型の前足をセシリアが気合いを込めた一撃で跳ね返した、そこに砲撃型のアーマーデバイスを装備したラバルとミーヤが砲撃を叩き込む。
「くそっ!、効いてないぞ!」
「どれだけ攻撃しても無傷、なんて装甲なの!?」
レーヴァモードの明日奈の攻撃、そしてラバルとミーアの攻撃も、サソリ型の装甲にダメージを与えていなかった、ダメージを喰らっていないサソリ型は砲撃をして来るラバルとミーアを見据え、背中のハッチを開けてミサイルを撃ち出した、二人は迫るミサイルを後退しつつ撃ち落として行く。
「ダメだ!」
しかしミサイルの量が多くラバルとミーアは撃ち落とし切れない、遂にサソリ型のミサイルがラバルとミーアを捉えようとしたその時、銃声が響く。
「間に合ったわね、大丈夫?、先輩?」
「ティナ!」
「すまん助かった!」
ラバルとミーアを助けたのは特例としてアーマーデバイスをワールドセイバーから支給されたティナだった、ティナが纏うアーマーデバイスは彼女に合わせた超砲撃型、その名はインフィニティ、能力は魔力が絶えない限りは宙に無数の銃器を出現させる事が出来ると言うものだ。
「ふふっ、どういたしまして!、さぁ行くわよ!、インフィニティ!」
『オーライ、マスター、足を地面に固定完了、砲撃体勢セット』
「ファイア!」
ティナは一気に魔力をインフィニティに供給し、複数の銃器を出現させた、そして一斉に放つ。
「!、!、!」
サソリ型を捉えた弾幕は、サソリ型を後退させ徐々に街の外へと押し込んで行く、サソリ型はティナの砲撃をやめさせようとティナにミサイルを放つが今度はラバルとミーアが彼女を守る。
「!」
ティナの砲撃に押されるサソリ型は次の手を打つ、背部のハッチを開くと中から子機を出撃させた、そして子機に命令し、ティナを始末させようとする。
「させるかよ!」
「ティー姉に近付けさせないー」
ゾロゾロと現れる子機達を、ティナと同じくワールドセイバーからアーマーデバイスを授かったレイズとレアリが破壊して行く、二人が纏うアーマーデバイスは以前二人が使っていた物に似た能力を使えるデバイスで、名はドリルランサーとソードウイングだ、
次々と打つ手を防がれて行くサソリ型のAIは怒りを感じている、怒るサソリ型は次の手段を打つ、突然金属音を辺りに響かせた。
「あああ!?」
金属音は脳に響きティナ達に猛烈な頭痛を与える、ティナ達は頭を抱え地面に蹲ってしまった、そんな彼女らに子機とサソリ型が嘲笑うかのように攻撃を仕掛ける。
放たれるミサイルを喰らい爆炎に巻き込まれ、ミサイルの次弾が放たれるまでは子機の突進攻撃がティナ達を襲う、なんとか頭痛を堪えて動く明日奈は子機を破壊して行くが、明日奈も頭痛に苦しんでおり殲滅スピードが遅い、ティナ達は徐々に死へと追い込まれて行く。
「くっそ」
サソリ型突進により転がされティナ達は一箇所に追い込まれてしまった、そこにサソリ型がターゲットサイトを照射し、口と背中の尾の砲塔を開く、二重の攻撃により完全にティナ達を消滅させるつもりなのだろう。
「させない!」
そこに魔導エンジンの音が響き、二発の攻撃がサソリ型の尾と顔を捉えた、二発の攻撃によりサソリ型の攻撃か止まる。
「あれはメサイヤ・・・、愛理ね・・・」
「遅いですよぉ、先輩」
「あはは、ごめんごめん、っと!」
遅いと言うセリリアの言葉に愛理が苦笑いを浮かべていると、サソリ型の尾がメサイヤに迫る、愛理はフットペダルを踏み込みメサイヤを加速させる事で躱し、サソリ型の真上に回り込むと、新たに装備した二連装のレールガンでサソリ型の背中を攻撃した、ズン!ズン!と撃ち込まれるレールガンによる砲撃はサソリ型の体を大きく地面に沈み込ませる。
「こんなのもあるよ!」
サソリ型の顔の前にメサイヤを位置させた愛理は、メサイヤの機首先にある主砲を放つ、主砲は以前よりも強化されており、より強力なビームを放てるようになっている、その一撃によりサソリ型の塗装が徐々に剥がれて行く。
「ああ!?」
メサイヤの攻撃に苦しむサソリ型は再び金属音を鳴らした、愛理がメサイヤで活躍している間に子機を全て破壊し、本体への攻撃に移ろうとしていた明日奈達は再び頭を抱える。
「メサイヤの中にいてもこれは効くね・・・、どこから鳴らしてるんだろう・・・」
メサイヤの防音能力は優秀だ、その為外にいる明日奈達よりは愛理の頭痛はマシであるがそれでも金属音は聞こえる、愛理は頭痛を我慢しながら金属音をどこから鳴らしているのかを上空から探す。
「あれか!」
目を凝らしてよく見てみるとサソリ型の背中の上に極小の子機がおり、何かをしているのが見えた、あれがこの金属音を鳴らしているのだと判断した愛理はメサイヤをオートモードにし、精霊王モードに変身してから、メサイヤから飛び降りた、オートモードのメサイヤは高度を落とし無事着陸した。
「頭痛いけど!、セェイ!」
サソリ型の背中に降り立った愛理は極小の子機を剣で斬り裂いた、その瞬間金属音は止まり、明日奈達は頭痛から解放される。
「お婆ちゃん!」
「ええ!、レーヴァブラスター!」
明日奈の呼び掛けに答え明日奈はレーヴァブラスターを放つ、サソリ型は二本の前足でそれを防御したが、レーヴァブラスターの威力に耐え切れず二本の前足は消失した。
「メガドリルランサー!」
「ブレイクウイング!」
次にレイズとレアリが尾に向けて集中攻撃を仕掛け、サソリ型の尾を斬り落とす、それでも飽きらめないサソリ型はハッチを開こうとするがセシリアとラバルとミーアの攻撃によりハッチを歪められ、子機を出せなくなった。
「!」
サソリ型は残る攻撃手段である背部のミサイルと口の砲塔から同時に攻撃を放った。
「撃ち落とす!」
「斬り裂く!」
撃ち出されたミサイルをティナが撃ち落とし、口から撃ち出されたレーザーを愛理が剣で受け止めた、ティナは早々にミサイルを撃ち落とし尽くしたが、愛理は徐々に押されて行く。
「愛ねーさん!」
「手伝うー」
押される愛理の背中をレイズとレアリが支える、自身が助けた二人に今度は自分が助けられる愛理は、その事を嬉しく思いつつ更に力を増大させ剣を突きの構えに持ち直した。
「ありがとう!、二人とも!、エクスストライク!」
愛理が放つ技はレイズの技にヒントを受け思い付いたエクスストライク、ドリル状の魔力を撃ち出し敵を貫く技だ、エクスストライクはサソリ型のレーザーを斬り裂きながら顔に迫りそのままサソリ型を貫いた。
「!、!・・・」
体を貫かれたサソリ型は沈黙し、ズーンと地面に横たわった、愛理達は下位の神と同等の力を持つと言う兵器に勝利したのだ。
「はぁぁ・・・、疲れた・・・」
愛理は仲間達と勝利を喜び合った後、メサイヤをドックに戻す為、メサイヤと共にベレー島へと転移した。
ベレー島、飛空艇ドック
「ありがとうね、メサイヤ」
ドックに戻した自慢の愛機を眺める愛理、今度、外装を綺麗に掃除してあげようと思い、今後の計画を立てつつニマニマしていると背後から視線を感じた、視線が気になった愛理は振り返る、するとそこには・・・。
「リアちゃん?」
「愛ちゃん・・・」
ラフォリアがいた。
「愛ちゃん!」
愛理の姿を見たラフォリアは涙を流し愛理に抱き付いてきた、愛理は抱き着いてきた彼女を抱き締める。
「なんでここに?」
「ごめんなさい、メサイヤがドックから消えたって聞いて、後半年は会わない約束をしていたのに、ここに来れば会っちゃうかもしれないのに、あなたに会いたくてここに来てしまいました」
ラフォリアは申し訳なさそうに言葉を紡ぎつつも愛理をギューと抱きしめている、愛理はこの日のラフォリアは自分を離して来れなさそうだなと苦笑いする。
「ふふふ、ちょっと半年会うのが早くなっちゃっただけだよ、だからいいの、そんな事よりも沢山話をしよう、二年前みたいに一緒にベットで寝転びながらさ」
「良いですね、話したい事はいっぱいあるのです、今日は寝かせませんよ?」
「わー、大変」
抱き合う二人はクスクスと笑い合いながら離れ、仲良く談笑しながら宿へと向かって行った。
真夜中
サソリ型との死闘で疲れていたのだろう、愛理は眠ってしまった、たっぷりと話をしたがもっと愛理と話したかったラフォリアは拗ね口を作りながらも親友の寝顔を見つめ微笑みかける。
「・・・」
しかしラフォリアの微笑みはすぐに微妙な表情に変わる、愛理の更に成長したマシュマロを見たからだ、そして自分の一切成長していないなだらかな草原と比べ俯く。
「・・・、ムカついて来ました」
無性に腹が立って来たラフォリアは愛理のマシュマロを鷲掴みにする。
「ひゃああ!、何!?」
スヤスヤと眠っていた愛理はいきなりの刺激に驚き眼を覚ます。
「はっ!?、あー、なんでもないです、さ、さっ寝ましょう」
我に帰ったラフォリアはマシュマロを隠しジーと睨み付けてくる愛理から目を逸らして、愛理の九本ある尻尾のうちの一本を抱きかかえると寝転ぶ、そしてわざとらしく寝息を立てる。
「むー」
愛理は二年も彼女に寂しい思いをさせたのだ、ラフォリアを怒るに怒れず、仕方なく眠る事にする、数分もすると愛理は再び寝息を立て始めた。
「ふぅ、怒られずに済みました」
愛理からそっぽを向き寝転がっていたラフォリアは寝返りを打つと、愛理の腕に抱き着き目を閉じた。




