十三話
孤児院近く
夜、住民の話を聞いて回った結果、新しい情報を得れなかった愛理達は孤児院の近くに潜み怪しい者達が訪れて来るのを待っていた。
遠くて聞こえてくる怒声、そして銃声、この街は夜になると更に危険な街になるらしい、愛理は孤児院の様子を見守るだけではなく、背後からの襲撃を警戒し狐の耳を澄ませる。
「来た」
耳を澄ませていた結果、愛理がいち早く何者かがが孤児院に近付いてくる音を捉えた、愛理が聴いた音はコツコツと響く靴音、この音はヒールの音だ。
「流石は獣人族の耳と言った所ね、あれは女・・・?」
現れたのはサングラスを身に付け、黒いスーツを着て、周囲にヒールの音を響かせて歩く女だった、彼女は近くに潜む愛理達に気付かないまま孤児院の方に歩いて行った。
「どうします?、先輩」
「中で何を話してるのか聞こう、さっ行くよ」
セシリアと愛理が話をしているうちに女は孤児院の中に入った、愛理達は身を低くし目立たないようにしながら孤児院に近付き、窓の近くに張り付き聞き耳を立てる、すると中の会話が聞こえて来る。
「今日は一人貰うわ」
「分かった、金は?」
「持って来てる」
金を机の上に置く音、女はこの孤児院から子供を買うつもりのようだ。
「待ってろ、連れて来る」
「ええ」
床が軋む音が聞こえ次に階段を登る音が聞こえて来た、愛理は突入するなら今だと判断し、ティナとセシリアに後ろに続くように合図すると、素早く孤児院の玄関の前に回った、そしてドアを蹴破る。
「なに!?」
いきなりの来訪者に黒スーツの女が驚いた表情を浮かべていた、黒スーツの女は入って来た愛理達が敵だと判断するとすぐ様銃を構え撃って来た。
「銃撃戦だよ!、怪我はしないで!」
愛理達も携帯している銃を構え孤児院の入り口の近くに身を隠し、腕だけを室内に向けて銃を撃つ。
「チッ」
女はこのまま撃ち合っていても勝ち目はないと判断し、銃を撃ちながら先程まで愛理達が聞き耳を立てていた窓の方へと近付いて行く、子供を買うのは諦め逃げるつもりなのだ。
窓との距離を完全に詰めた女はグレネードを扉の方に投げた、それを見た愛理は孤児院の中に蹴り返しドアを閉める。
「ッ!」
数秒後グレネードが爆発し、ドアが吹き飛んだ。
「先輩!、あれを!」
セシリアが指差す先、グレネードの爆発に巻き込まれる前に窓を突き破り孤児院の外に逃げ出していたらしい女が走り去る様子が見えた。
「あぁ、逃げてる、私はあいつを追う、ティナとセシリアはここの調査をして」
「分かった」
愛理は孤児院の調査を二人に任せると女を追い始める。
走る女、彼女を追う愛理、二人が走るのは複雑な通路が交差している第32街の路地裏だ、女は時折、積まれている物を崩したり立てかけられて棒を転がしたりして愛理の前進を邪魔しようとするが、愛理はそれを蹴飛ばして女に追いすがる。
(意外と速いなぁ、さぁどうする)
今の愛理が前の逃走犯を捕まえる為に出来る手は、まずは何とかして距離を詰めて女を転かせる事、次に銃で足を撃ち抜く、最後に精霊を召喚する事だ。
「一つ目かな!」
愛理が選んだのは一つ目の手、銃を使う手は流れ弾で住民に被害が及ぶ可能性がある為使いたくない、三つ目の精霊は召喚をする際には集中力を高める必要があり、その間に距離を離されれば逃げ切られる、やはり全力で走って女を追い詰めるしかない。
「超身体強化ってね!」
愛理は超身体強化(実際は走破力に全力で魔力を回しただけの身体強化)で走破力を上げて、女に一気に追い付いた。
「とおっ!」
女の横に並んだ愛理はドロップキックを女に喰らわせる、ドロップキックを喰らった女吹っ飛び木箱にぶつかった。
「このっ!」
木箱にぶつかった女はすぐに立ち上がり銃を撃って来る、愛理は剣を抜き銃弾を叩き落とすと、女に迫り、顎にアッパーを喰らわせた、アッパーを喰らった女の顔は跳ね上がりフラフラと地面に倒れた。
「確保っと、起きたら話を聞かせて貰うからね」
愛理は気絶した女を背負うと孤児院へと戻る。
孤児院
愛理が孤児院に戻って来ると、この孤児院の院長らしき男が縄でぐるぐる巻きにされて椅子に括り付けられていた、ティナとセシリアが拘束したらしい。
「捕まえたのですね、流石です」
(ちょっと苦戦したとは言えない・・・)
愛理は女を椅子に座らせると孤児院の院長と同じく、椅子に縄でグルグル巻きにし拘束する。
「それで何か情報は?」
愛理は早速情報は手に入ったかと二人に聞いた。
「特にない、その女はそこでグルグル巻きになってる院長に情報を殆ど渡さなかったようね」
愛理が女を捕まえに行っている間にセシリアとティナは院長に話を聞いた、その結果彼は黒スーツの女が定期的に子供を買いに来る事以外の情報は知らないと伝えて来た、二人は口頭だけでは信じず資料を探してみたが見つからず、男は本当の事を話したのだと判断した。
「そう・・・、ならそこで寝てるその人が起きるのを待とうか」
「はい」
愛理は二人に女が起きるのを待つと伝えると二階に向かう、子供達に騒がせて済まないと謝りに向かうのだ。
二階
「こんにちは」
二階に来ると子供達がリビングに集まっていた、恐らくセシリアがここに集まっておくように伝えたのだろう。
「騒がせてごめんね?、怪我はしてない?」
「大丈夫だよ!、それに映画みたいで楽しかった!」
「そっか」
愛理は子供達に怪我をさせずに済んでいたと確認し安心する。
「ふふふ、お姉ちゃんと遊ぼっか?」
「うん!」
愛理は黒スーツの女が目覚めるまで、子供達と遊んであげる事にした、孤児院には愛理が弾くピアノの音と、子供達の楽しげな歌声が響く。




