十三話
クーラの町、南
アルファルドの言葉を聞いたラフォリアは、更にその顔に怒りを滲ませると、アルファルドに頭突きを放とうとしたが、アルファルドはラフォリアを地面に叩き付けた。
「くはっ!?」
「クク、惨めだなぁ、ラフォリア姫、黒の空賊団と呼ばれる我等に国を滅ぼされ、逃げ果せたのは良いものの、国を滅ぼした張本人である俺にこうして、地面に組み伏せられるとはなぁ、実に惨めだ」
ラフォリアを地面に組み伏せるアルファルドはラフォリアを嘲る。
「くっ!くっ!よくも!よくもお父様とお母様を!」
地面に組み伏せられるラフォリアはアルファルドを睨み付ける、一年前、多数の飛空艇を率いてラフォリアの故郷グリメィス王国を滅ぼした父と母と国の仇を。
「フハハハハ!睨み付ける事しか出来ないのかぁ?この負け犬めぇ!、お前のような負け犬はそうやって地面に組み伏せられているのがお似合いだなぁ!」
「殺してやる!絶対に殺してやる!」
ラフォリアはもがきアルファルドの拘束から抜け出そうとする、しかしアルファルドの力は強く抜け出せない、ラフォリアにとってそれはとても悔しい事だ、力でも全てを自分から奪い去った男に勝てないのかと。
「・・・」
愛理はアルファルドの言葉を黙って聞いていた、好き勝手にラフォリアを嘲るアルファルドの言葉を、そして愛理は怒っていた、友達になりたいと思っていたラフォリアを泣かせる、アルファルドに対して。
「ラフォリア、よく分からないけどさ?そいつ悪い奴なんだよね?」
俯き表情の見えない愛理は、ラフォリアにアルファルドは悪い奴なのかどうか聞く、涙を流すラフォリアは頷いた。
「そうかぁ、悪い奴なんだぁ、ならオシオキしないとね」
その瞬間、愛理の体から先程のベルガ以上の魔力が暴風のように発せられた、暴風の中で愛理の髪は真紅に染まり、瞳の色も紅に染まる。
「覚悟しろよ、ゲス野郎、あんただけは絶対にただじゃ済まさない」
怒る愛理はアルファルドに一瞬で迫ると蹴り飛ばした、蹴り飛ばされたアルファルドは壁に激突し、地面に落ちる。
「ホワイトローズ、あれは・・・」
『Yes、恐らくは召喚されているイフリートの力を取り込み、体内で増幅させています、その為愛理はあそこまでの力を一時的に無理矢理、引き出しているのでしょう』
「体に影響は?」
『不明・・・』
「そう・・・」
明日奈は顎に手を当てて考える、あれが愛理の勇者としての力の片鱗なのかと、そしてその力に驚きを感じている、今の愛理は長年かけて鍛えてきた通常状態の自分の聖力と比較しても上を行っている、流石にプラチナモードの明日奈を越えてはいないが、それでも恐るべき力を愛理は怒りによって引き出した。
「くっ、まさかこれほどとは・・・」
先程までラフォリアを嘲り笑っていたアルファルドは、いきなり強大な力を発現させた愛理に驚愕すると、同時に早く逃げなければ殺されるとも考えた。
愛理は剣を構え、地面を蹴ったその瞬間、一瞬にしてアルファルドの前に現れると、彼を上に向けて蹴り飛ばした。
「くうぅ!」
アルファルドは宙でなんとか体勢を立て直し、下を見るが愛理は既に居ない、何故なら愛理は既にアルファルドの後ろに居るからだ。
「後ろだよ」
愛理は体を縦に回転させ、かかと落としの要領でアルファルドを地面に突き落とした、そしてアルファルドの体を踏み付けた。
「今度は、あんたが地面に組み伏せられる番だね、お兄さん」
愛理は地に落ちたアルファルドを再び睨み付ける。
「あぁ、そのようだ」
愛理に踏み付けられるアルファルドは、このまま終わるつもりなどない、踏み付けられつつも剣を引き抜くと、その剣は光を放った。
「それなに?」
「擬似聖剣と言う物だ、擬似的に神の力を呼び出し、力を引き出す擬似的な聖剣、その威力は一つの都市を滅ぼす程の物、恐ろしい程のまでの力を急に引き出した君でも、この剣の威力には勝てないだろう」
「へぇ」
擬似聖剣に興味を持った愛理は足を離した、アルファルドはすぐに立ち上がり、聖剣を構える。
「やってみなよ、私にそれを当ててみて?」
「良いさ、当ててやる!」
アルファルドは聖剣を構え、愛理に振るう、しかし。
「なっ!?何故当たらない!?」
愛理に擬似聖剣は当たらなかった。
「何故って?それは私が神様の孫だからだよ、私の名は久城愛理、かつて蒼と白金の勇者と呼ばれた、久城明日奈の血を引く者、だから偽物の聖剣であるその剣では私を斬ることは出来ない、本物の聖剣を手に入れて出直して来なさい!」
愛理が擬似聖剣の餌食にならなかった理由、それは愛理の体に流れる神の血が自動的に偽物の聖剣である擬似聖剣の刃を弾いているのだ、その為どんな手を使ったとしても愛理にその刃は届かない。
しかしホワイトローズのような本物の聖剣ならば愛理の血の力を越えて斬撃を通す事が出来るだろう、そして普通の剣でも愛理は斬撃を喰らう、あくまで愛理の血が防げるのは擬似聖剣の刃だけだ。
「ば、馬鹿な!勇者の孫が何故このような辺境の世界に!?」
「なんでって、偶々だよ、バーカ」
「なっ!?」
愛理の言葉を聞いてなんだそりゃと言った表情をする、アルファルドの顔面に愛理は拳を振りかぶり、全力の右ストレートを加えた、愛理に殴られたアルファルドは地面を転がり倒れる。
「あ、アルファルド様!」
黒の空賊団は殴られたアルファルドに慌てて駆け寄る、アルファルドはそれを手で制し立ち上がる。
「面白い、面白いぞ、久城愛理、この俺をここまでコケにした奴はお前が始めてだ、お前だけは絶対に殺してやろう、覚えておけ」
「・・・」(すっごい、負け惜しみだなぁ)
愛理を指差して見事な負け惜しみを言い放ったアルファルドは、仲間達と共に引いていった、これで取り敢えずの町の平和は守る事が出来たはずだ。
「うっ・・・」
黒の空賊団の姿が見えなくなった所で愛理はフッと意識を失い倒れる、それを見たラフォリアは慌てて崩れ落ちる愛理に駆け寄り、抱き止める。
「・・・あなたも凄い子だったのですね、愛理、そしてありがとう、私の為に怒ってくれて」
ラフォリアは意識を失った愛理をギュッと抱き締める、そして思う、初めは愛理と明日奈を利用しようと思っていた、しかし自分の為に怒ってくれた愛理を見て考えが変わった、愛理を利用するのではなく本当の友達になりたいと、アルファルドへの復讐は自分だけで成し遂げてみせると。
宿
「んっ・・・」
朝、愛理は目を覚ました、目を覚ました愛理は身を起こす。
「おはよう、愛理」
ラフォリアは目覚めた愛理に優しく笑いかける。
「うん、おはよう」
愛理もラフォリアに笑いかけた。
「愛理、私、こんな私ですが、一つ頼みがあるのです」
「なに?」
「私とパーティを組んでくれませんか?」
ラフォリアは顔を真っ赤にして頼んだ、愛理にパーティを組んでくれないかと。
「良いよ!」
愛理は立ち上がりラフォリアのお誘いを受け入れた。
「ありがとう、愛理」
ラフォリアは自分の誘いを受けてくれた愛理の言葉が嬉しくて自然に笑顔を見せる、そして誓う、この子にだけは絶対に嘘を付いたりしないと。
「よろしくね?ラフォリア!」
「はい!愛理!」
手を取り合い笑い合う二人の少女の旅路を祝福するかのように、太陽の光が部屋に差し込む、その光に反射し、二人の髪は金色に光り輝いた。




