七話
愛理の部屋
早朝、まだガンガン痛む頭を抑えながら愛理は起き上がる、そしてなんだか一つ弱点が増えた気がしつつ、前日看病してくれた幼馴染二人を見ると、二人は愛理が眠った後自分達も眠ったようだ、クローゼットから布団を取り出して来てその上で眠っている、そして外で買って来たのだろう机の上には二日酔いに効く薬が置かれていた。
「うん、持つべきものはやっぱり友達だね、ありがとう二人共」
明日奈が気を使ってくれてこの日も休みな愛理は薬を飲むと、二人の友の間に入りもう一眠りするのだった。
「可愛い寝顔ね」
「ふふっ、そうだな」
頬を突かれたり、尻尾を弄られたりする感触に反応し、愛理は眼を覚ます、鈴奈とリリーナは愛理が眼を覚ましたのを見て慌てて、愛理を触っていた手を引っ込めた。
「んー?、おはよー」
寝ぼけた愛理は二人に触られていた事に気付かず体を起こしニヘラと笑う、リリーナはそんな愛理を見て思わず頭を撫で、頭を撫でられる愛理は嬉しそうに尻尾を振る。
「なんだ、なんなのだこの可愛い生物は・・・」
「薬の効果もあるのでしょうね、かなり寝ぼけてるわこれ・・・」
寝ぼける愛理は今度は鈴奈の胸に抱き着く、そしてスリスリと頬を擦り付け鈴奈に甘える。
「あぁ・・・、可愛いわ・・・」
「うむ、動画に撮りたいくらいだ」
「それ良いわね、撮りましょう」
リリーナの案を聞いた鈴奈は携帯端末を手に撮り動画を撮ろうとするが、愛理の尻尾が腕に包まれ動けなくなった、リリーナも愛理の尻尾に体を包まれ動けなくなる。
「・・・これ小さい妖狐が良くやる求愛行動だろう?、大人に近い妖狐がやると全く動けなくなるのだな・・・」
愛理が現在二人に対し行なっている尻尾を他人の体に巻き付けると言う行動は、幼い妖狐が両親に良くやる求愛行動である、どうやら寝ぼけすぎた愛理は若干幼児退行しているようだ。
「ええ・・・、こら、愛理、離しなさいな」
「やーだー!」
「子供か!」
この後、鈴奈とリリーナは愛理の拘束からどうにか逃れようと頑張ったが、逃れる事は出来ず諦め、愛理が完全に目覚めるのを待つ事にした。
「・・・」
三十分後、完全に目覚めた愛理は頬を真っ赤にし、幼馴染二人から顔を背けていた、この歳になって子供の妖狐がするような行動を取ってしまったのだ、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がない。
「まぁまぁ、誰にも言わないから、ねっ?」
「ホント?」
「あぁ、誰にも言わん、安心しろ」
「・・・分かった」
まだ頬が赤い愛理は今の行動を誰にも言わないと言う二人を信じる事にし二人の顔を見る。
「くっ」
「プフッ」
鈴奈とリリーナは暫くは愛理の顔を見ても、耐えていたが、まるで子供のようだった愛理のあの様子を思い出し笑う、それを見た愛理は・・・?。
「うわーん!」
泣きながら部屋から飛び出して行った。
「あちゃー」
「しまった・・・」
鈴奈とリリーナは飛び出して行った愛理をすぐに追いかけた、五分程愛理を探し物陰に隠れ蹲っていた愛理を見付けると慰め、今度は笑わないようにしながら部屋に戻る。
「ほら、笑ったお詫びにお昼作ってあげる、何が良い?」
部屋に戻って来たお料理上手な鈴奈は愛理に何が食べたいのか聞いた。
「ミートパスタが良い・・・」
「はーい、すぐに作るわねー」
「ほら、膝枕してやろう」
「ん」
愛理のオーダーはミートパスタだった、この部屋の調理器具や食材の場所を知っている鈴奈はすぐさまパスタを作り始め、リリーナは拗ねる愛理のご機嫌を取り戻す為、膝枕をしてあげる。
「そうだ愛理、昼食を食べた後、鍛錬に付き合ってくれ、もう頭痛などはしないのだろう?」
「うん、頭痛はしないよ、鍛錬、やろっか」
「うむ」
リリーナは愛理との鍛錬を楽しみにする、愛理も体はもう十分に復活している為、この後の鍛錬に全力で臨むつもりだ。
「出来たわよー」
二人が約束事をしている間に鈴奈のミートパスタか出来たようだ、明日奈は嬉しそうに尻尾を立てリリーナの膝枕から離れ起き上がると、お盆に乗せられて運ばれて来たミートパスタを美味しそうに食べ始める。
グラン王都近く、平原
愛理とリリーナが鍛錬の場所に選んだのは、グラン王都近くの平原だった、例の缶ビールと缶ジュースの魔物はもういない。
「さぁ、いつでも良いぞ」
「なら行くよ!」
エクスカリバーを構える愛理はリリーナに向けて全力で駆け出した、スタンバイモードのアーマーデバイスアヴァロンを構えるリリーナは愛理の動きを読みつつ、ビームを発射する。
「ほっ!、セイ!」
愛理は迫るビームを剣で弾き前に進む、二人の試合を見守る鈴奈は愛理の更に磨きがかかった前進力に舌を巻く、掠るだけで地面を焼く程の出力を持つアヴァロンのビームを軽く弾く愛理の前進力を止めるのは、弓を使う為、リリーナと同じく後衛な鈴奈にとってかなり難しい、愛理が得意な近接戦に持ち込まれないように、とにかく距離を取り続ける必要があるだろう。
「くっ!」
もう少しで剣のリーチに入る距離まで愛理に迫られたリリーナは地面に向けてビームを放ち、砂の煙幕を作る、そして砂の煙幕の先にいるはずの愛理に向けてビームを放った。
「ッ!」
シューンと音を鳴らしながら愛理に迫るビーム、愛理は剣で受け止め防御した、しかしビームの威力が強くその場で受け止めきれず、ズズズと強制的に後ろに後退させられた。
「やるね!」
「ふん!、幼馴染に置いて行かれる気はないからな!」
リリーナは楽しそうにしつつ、愛理に向けてビームを放つ、愛理はそれをヒラリと体を捻り躱すと、消えた。
「むっ!?、ズルいぞ!」
そしてリリーナのすぐ側に現れ剣を振るう、リリーナはアヴァロンで愛理の斬撃を受け止める。
「へへーんだ、転移禁止とは言ってないでしょー」
「なら今から禁止だ!」
リリーナは転移を禁止にした所で、アヴァロンを振るい愛理を下がらせるとランダムにビームを放つ、タイミングをズラして迫るビームを愛理は一つを弾き後から来るビームに当て、もう一つはリリーナに向けて弾いた。
「くっ!、アヴァロンモード!」
「なっ!?、なら私もモードサジタリウス!」
リリーナは自身が放ったビームを防いだ後、アヴァロンモードに変身しようとする、それを見た愛理もスピリットフォームに変身しようとしたが・・・?。
「はいはい、本気になりすぎない、ここで一旦終わりねー」
鈴奈がそろそろ本気になりすぎて来た二人を止めた、鈴奈に止められた二人は仕方がなさそうに変身を取り止める。
「ふぅー、やっぱり強いねリリーナ、楽しかったよ」
「私もだ、またやろう!」
「うん!」
そして二人は互いの健闘を称え合い拳を合わせ合う。
「さーて、次は私がやらせて貰おうかしら、リリーナ、良い?」
「望む所だ」
次にリリーナと鈴奈の鍛錬が始まり、愛理はそれを近くの岩の上に座り見守る。
森の中の家
仕事を終えた明日奈は自宅に帰って来た、そして家に明かりが付いているのを見て、妹であるレビィが来ているのだろうと思い、部屋の中に入るとそこに居たのは・・・?。
「あっ、お帰りなさい、明日奈さん」
明日奈のお付きであり、そして鈴奈の祖母である鈴だった、鈴は夕食を作っていたようでエプロンを身に付けている。
「そっちか・・・、鈴、また勝手に入ったのね・・・」
「何か問題でも?」
「いいえ、ありません、もう何も言いません」
初めて会った日から数百年経っても勝手に部屋に入り続ける鈴にもうツッコミを入れる気力など消え失せている明日奈は、何も言わず料理を作る鈴の隣に立つ。
「何を作ってるの?」
「カレーです、今丁度一緒にいる子供達と一緒に食べようと思いまして、明日奈さん、みんなを連れて来てくれませんか?、愛理ちゃんの所にいる筈なので」
「分かった、呼びに行ってくるわ」
鈴の言葉を聞き、愛理達を連れて来る事にし、転移しようとすると、レビィが転移して来て明日奈の目の前に現れる。
「わっ!?、ビックリしたぁ、・・・、何処かに行くの?、お姉ちゃん」
「ええ、愛理達を呼びにね、あなたは鈴の料理を手伝ってあげてくれない?、ほら、皿を出したりさ」
「分かった、やっておくよ」
レビィに鈴の手伝いを任せた明日奈は、愛理達を呼びに地球に転移して行った、この後、明日奈と共にこの森の中の家にやって来た愛理は、鈴が作った美味しいカレーを幼馴染二人と共に美味しく頂いた。




