六話
愛理の部屋、朝六時
スヤスヤとベッドで眠る愛理、外からは爽やかな鳥の囀りが聞こえて来る、そんな愛理の健やかな眠りの破壊者が部屋の中に現れる。
「来たわよ!愛理!、さぁ準備しなさいな!」
現れたのは鈴奈だった、いきなりの大声に驚いて飛び起きた愛理はベッドから落ちていた。
「・・・、もっと静かに起こす事って出来ないのかなぁ?、ねぇ鈴奈ちゃん?」
床から立ち上がり、愛理はニコニコと笑いながら鈴奈に近付くと柔らかいほっぺを抓りながら彼女に質問する。
「出来るけど、それじゃ面白くないじゃない」
「・・・」
鈴奈のこの言葉にカチンと来た愛理は鈴奈を押し倒すと、彼女の服の中に尻尾を突っ込みこしょばせ始めたのだった。
キチンと三時間ほど二度寝した愛理は、体を起こし部屋の中心を見る、するとちゃんと愛理が二度寝に入る前に言った言い付けを守り、正座をして反省している鈴奈が目に入る。
「反省した?」
「全然」
即答である。
「反省してないなら、三日ほど挑戦してみる?」
反省してないと即答されイラッとした愛理は、ニヤリと笑いながらこう言った。
「嘘です反省しました、許して下さい」
正直鈴奈の足は三時間ほどの正座で限界を越している、これ以上は危険だと自分でも分かっている鈴奈は愛理に許して欲しいと言った。
「・・・、良いよ、許したげる」
「ありがとー、愛理はヤサシイナー」
三時間の正座から解放された鈴奈は後ろ向きにコテンと倒れジンジンと痛む足を撫でる。
「よし復活、さっ、リリーナの所に行きましょうか!、愛理!」
「うん」
鈴奈の足の復活を待っている間に服を着替えていた愛理は鈴奈と共にガマラ王国へと転移した。
グラン王都
小さい頃から愛理が幼馴染達と遊ぶ時に毎回訪れるのはこのグラン王都だ、治安も良く、様々な施設も揃っている、まさに遊ぶにはもってこいの場所だ。
「それで、今日は何をして遊ぶのだ?、私はなんでも良いぞ?」
ガマラ王国の第一王女、リリーナは愛理と鈴奈に何をして遊ぶのか聞く、リリーナは愛理と同じく綺麗な金色の髪を持った少女で歳も鈴奈と愛理と同じく十八歳だ、過去明日奈が彼女の祖先に渡し、彼女の国の家宝となっている、アーマーデバイスの装着者でもある。
「そうねー、いつものアレかしらねー」
「私達がここに来てする事と言ったらまぁアレだよねー」
「やっぱりか・・・、まぁお前達と一緒にアレをするのは楽しいから問題ないが」
三人が言うアレとは、冒険者ギルドでの仕事の事である、三人は幼い頃から一緒にこのグラン王都の冒険者ギルドで依頼を受け互いに互いの実力を高め合って来た、愛理が旅立ってからは暫く鈴奈とリリーナだけで仕事をしていたが、愛理が戻って来てからはまた一緒に仕事をしていた。
「おっ、いつもの串焼き屋さんだ、私あそこの串焼き好きなんだよねー、買って来る、あっ二人の分もね」
「お願いねー」
愛理が言う串焼き屋は明日奈が良く通っていた串焼き屋と同じ串焼き屋だ、愛理が聞いた話では現在は五代目となっている。
「それにしても愛理はあそこの串焼きが好きだな、小さい頃からずっとだ」
「そうね、でも美味しいじゃない、あそこの串焼き」
「ふふっ、まぁそうだな」
鈴奈とリリーナは愛理が買って来る串焼きを楽しみに待ちつつ、串焼き屋の店主と楽しそうに応対する愛理を見守る。
冒険者ギルド
串焼きを食べつつ三人は冒険者ギルドに入る。
「ここのギルドはやはり賑わっているな」
現在のグラン王都の冒険者ギルドは、鍛錬施設に豪華なホテル施設、それにレストラン街など、とても充実した設備を有しており、通称ギルドリゾートと呼ばれている、そんな豪華なギルドリゾートで仕事をする冒険者はやはり多く、常に賑わっている。
「確かにここのギルドはいつも賑わってるけど、今日はなんか更に多くない?」
「そういや、そうかも・・・」
常に賑わっているグラン王都だが、この日は歩き辛いほどに人が多い、いつもは流石に歩き辛いほどの冒険者は集まっていないのだ。
「うーむ、まぁクエストボードを見たら、理由が分かるだろう」
冒険者ギルドが人でごった返す理由は大抵、報酬が美味しい依頼が貼り出された場合が多い、そう考えた愛理達は美味しい依頼はどんな物なのか確認に向かう。
「えっ・・・、ナニコレ・・・」
「突然出現した缶ジュース又は缶ビール型の魔物の捕獲依頼、捕獲した魔物は自己責任で飲み放題、ノルマは十体確保、報酬は二十五万ゴールド、あぁ・・・これは人でごった返す訳ね、美味しい依頼だわ、喉にも懐にも」
「だな・・・」
しかし愛理達にとってもこの依頼は魅力的なので受ける事にする、缶ジュースだけでは何か物足りなくなりそうなので、ギルドで売り出されているお菓子を購入しつつ。
グラン王都近く、平原
愛理達は先程グラン王都に転移して来た時に空に変な物を見た気がしていたのだが、この突如出現した缶ジュース又は缶ビール型の魔物だったようだ。
そしてグラン王都近くの平原には酷い光景が広がっている、冒険者達が缶ジュース型の魔物は無視し、缶ビール型の魔物を集中的に乱獲しているのだ、そして捕獲すると盛大に宴会を開いている場所に持って行き配り、楽しそうに騒いでいる。
「た、楽しそうで、良いね・・・」
「そうね・・・」
完全に墜落し切っている冒険者達をこれ以上見ていられなくなった愛理達はさっさとノルマを達成し、ちょっとジュースでも飲みながら楽しんだ後に帰ろうと思い、早速缶ジュース又は缶ビール型の魔物の捕獲を始める。
「遅いな・・・」
冒険者達を虜にしているこの魔物達、正直逃げる気があるのかと疑う程に動きが遅い、高い実力を有する三人には止まって見える程の動きであり、三人はあっという間にノルマを達成してしまった。
「こりゃ人が集まる訳ね」
「そうだな、って愛理は?」
ノルマを達成した鈴奈とリリーナは魔物を鞄に入れながら、いつの間にかいない愛理を探す、すると・・・?
「うむ!?、うむむ!?」
愛理の唇に缶ビール型の魔物が取り付いており、グビグビと愛理にお酒を飲ませていた。
「ああ!?愛理ぃ!?」
「大丈夫か!?」
愛理に中身を全て飲ませ終わった魔物は満足気に地面に落ちて絶命する、しかし酒をグビグビと飲まされた愛理は・・・?。
「あははー、良い気持ちー」
たった一杯で盛大に酔っていた、その顔は既に真っ赤である。
「うわぁ」
「酒に弱いのだな・・・、私達の幼馴染は・・・」
自分達の幼馴染のまだ知らなかった一面に驚きつつ二人は愛理に近付いていく、しかし愛理は二人をフラリと避けると、酔っているのに驚く程速い動きで手を動かし缶ビールの魔物を掴むと二杯目を飲み干した。
「くっはー!、サイコー!」
愛理は二杯目を飲んで更に気分が良くなったらしい、ヘラヘラ笑いながら宴会を開いている冒険者達の方に歩いて行く。
「ちょっ!、愛理!、どこ行くの!」
鈴奈はフラフラと歩いて行く愛理を捕まえようとするが、やはりスルリスルリと避けられる、リリーナもなんとか捕まえようとするが避けられ、遂に愛理は宴会を開いている一団に混ざってしまった。
無駄な迫力がある酔っ払いの集団に二人は内心ビビりつつも入って行き、ようやく愛理の肩を掴んだ。
「あー、鈴奈とリリーナだぁ、ほらぁ二人も飲んでー」
「はいはい、飲まないわよ、さっ帰るわよ」
「えー、やだー」
「駄目だ、帰るぞ」
鈴奈とリリーナはこのままだと酔い潰れるまで宴会に混ざっていそうな愛理を無理矢理に引きずり王都に戻り、まだまだ飲む愛理にアワアワしつつ報酬を受け取ると、愛理の部屋に転移して行った。
愛理の部屋
「うー」
翌日愛理は見事な二日酔いとなっていた、ガンガンと頭が痛く、吐き気も止まらない、そして昨日の記憶は顔に缶ビール型の魔物が突っ込んで来てから全く覚えていない。
「治るまでは一緒にいてあげるから安心なさい」
「ふふ、私もお父様とお母様にお前の面倒を見て来ると伝えた、安心して頼れ」
「ありがとぉ、二人ともー、ウッ・・・」
優しい言葉を掛けてくれる二人に愛理は感謝する、そしてまたもや吐きそうになった愛理の背中を二人の幼馴染は優しく摩ってあげるのだった。
???
「あっ・・・、変な生物を大量に召喚しちゃいました・・・、消しておかないと・・・」




