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醜い悪魔の子  作者: トントン拍子
白い世界と醜い悪魔
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森の中の出会い1

虚ろな空間の中で、ダフトは目を覚ました。

まばたきを2、3回したあと、ゆっくりと起き上がる。


「ここは……」


あたりを見渡す。相変わらずの真っ白な世界だ。色も、形も、温度さえない世界。僕はこの世界の中にいたのだ。

自分のいる場所を理解したあと、ダフトはなぜここにいるのかを考えた。


「僕はたしか、父の死体をみて、それで、兄さんのアーティファクトにお腹を貫かれて……」


そこまで思い出したあと、ダフトは自分の腹部に目をやった。

冥界の槍で貫かれた傷跡はまだ残っている。が、血は流れていないし、痛みも感じない。

試しに叩いてみたが、体に響くような痛みはかえってこなかった。


これほどの深手を負っているというのに、傷跡を叩いても痛みを感じない。それはダフトのいる世界が「死後の世界」である、そう考えさせるのに十分な説得力を有していた。

しかし、その考えに行き着いたとき、どこからともなく不思議な声が聞こえてきた。


「フフフ、悪魔がいるわね。こんなところに客が来るなんて、珍しいわぁ」


とても奇妙な声だった。甘美な、まるでこちらを誘惑してくるような、甘い声色。一瞬声のした方に振り向いてみようか迷ってしまったが、この場所を「死後の世界」と仮定している以上、誰かとの接触は必然だと判断し、ダフトは意を決して振り向いた。


「ンフ、いい顔のお兄さんね。お姉さん、惚れちゃいそう」


そこには、女性の人間が立っていた。

髪は緑のショートヘア。体つきは豊満な方だ。声のイメージの通り、大人の女性という感じの人。身長は、僕より10cmは上だろうか。

なにか話しかけようとしたが、その女性が放つ、体を舐め回すような視線に恐怖を覚え、口が固まってしまった。


何も言葉を発することができずに口ごもっていると、向こうから質問が飛んできた。


「ところで坊や、見たところなんの変哲もないただの悪魔ちゃんのようだけど、どうやってここに入ってきたのかしら?」


ダフトはその質問の意味をすぐに理解することはできなかった。なぜなら、ダフトにとっては、今いるこの場所を「死後の世界」と仮定しているからだ。

なのにどうやってここに入ってきた?とはどういう意味なのか?ここは死んだら誰でも入れる場所ではないのか?そもそもここはどこなのか?


「逆に質問しますけど、ここは一体どこなんですか?」


質問に質問で返すと、女性はきょとんとした顔をした。そして今度は、拍子抜けたように大笑いする。


「ハハハハハッ、ここはどこですか?か。坊や、ここが一体どこに見える?」

「えっと、死後の世界、ですか?」

「ノンノンノン、ここはそんなしみったれた世界じゃないよ。ここはね、私の心の中の世界。私の心が生み出した、私だけの世界なのさ」


心の世界?行っている意味が全くわからない。他人の心の世界に、どうして僕は入り込んでいるんだ?いや、それよりも彼女は、ここは死後の世界じゃないといった。それはつまり……


「えっと、それってつまり、僕はまだ、生きてるってことですか」

「当たり前じゃない。死んだ悪魔なんかと話す趣味なんて、お姉さんにはないわよ」


この女性と話をして、いろいろな疑問がいっぺんに増えたが、ひとつだけわかったことがある。



それは、僕がまだ生きているということだった。



いろいろと不可解な出来事が起きて頭が混乱しているが、その中でその事実だけがはっきりと連呼されていた。

しかし、すぐに僕は冷静になる。


今合ったばかりの怪しいやつの言うことなんか信じて、果たして本当にいいのだろうか?

考えてみれば、目の前の女性は人を試すような、悪く言えばおちょくるような言い方をしている。結論を出すにはまだ早すぎるだろう。

こちらから色々と情報を聞き出してから、判断しても遅くない。


「じゃあ聞きたいんですけど、ここはあなたの心の中の世界、と言いましたよね。それについては、なにか証拠でもあるんですか?」


まずはここだ。ここが彼女の心の中の世界なら、彼女の気分一つでこの世界も何か変わったりするだろう。

そして僕が生きているということは、その結果次第で分かることだ。


と、そこまで考えてるうちに、ふとあることに気づく。いつの間にか真っ白な世界が、徐々に暗闇に覆われてきているのだ。

僕は慌てて彼女の方を見る。そして僕は思わず後退りをしてしまった。

先ほどまで大人びた雰囲気だった彼女が、一瞬にしてどす黒いオーラに包まれていたからだ。


「なぜ?どうしてそんな事を聞くの?質問しているのは私なのよ。ここは私だけの心の世界。いわばあなたは私の領域に侵入した不法侵入者。それを理解せず疑いの言葉ばかり投げかけられて、言われた本人はどう思うか、考えたことはないのかしら」


……ヤバイ、すごく怒っている。

何も知らずにこんなところに放り込まれた僕にとっては理不尽な話だが、いくら真っ白な空間だったとは言え、女性の心の中に踏み込んでいるというのは、相応に受け入れがたいものがあるだろう。


故に僕は記憶が途切れるまでの行動を、思い出せる限り言うことに決めた。

もちろん、謝罪の言葉も含めてだ。


「取り乱していたとは言え、あなたを疑うような真似をして、すいませんでした」

「うん、分かればよろしい」


謝罪の言葉とともに、彼女のどす黒いオーラは消えた。そして周りの風景は、一瞬にして元の真っ白な世界に戻る。

気持ちの切り替えが早い人で助かった。と思った。


どうやらここが彼女の心の中の世界だというのは本当のようだ。僕は生きていると考えて間違いないだろう。

さて、次の疑問はなぜ僕が彼女の心の世界に紛れ込んでいるかだ。

こればっかりはいくら考えてもわからないだろう。彼女に僕の現状を説明して、答えを聞かないと始まらない。


「質問の答えですが、なぜ僕があなたの心の中にいるのか?それは僕にもわかりません」

「なに?それじゃ答えになってないんだけど」


声のトーンが低くなる。どんだけ感情の起伏が激しい人なんだと半ば呆れつつ、言葉を続ける。


「はい。なので僕がここに来るまでの記憶をあなたに話します。それからあなたの考えを聞かせてもらいたいんです。僕がなぜここにいるのかを」

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