すれ違い生活
嬉しいことにリクエストをいただき、番外編を執筆させていただきました。
4話ほどで完結です!
「ねぇ、マリノ。祝福の日、って来週よね……?」
書類のサインを一度止めて、侍女のマリノに問いかける。
「はい、いよいよですね。ティア王妃殿下は陛下に何をプレゼントされるのですか?」
一年に一度訪れる『祝福の日』
ユーリア三国では、この日に愛する人へ贈りものをする習慣がある。
毎年祝福の日が近くなると城下もそわそわと落ち着かなくなって、城にも各国から商人が次から次へと訪れ、商品を売り付けようとしてくるのだ。
何をプレゼントするのかというマリノの問いかけに頭を抱え、書類の山を睨み付けた。
「それが、何をあげたらいいのか全然わからないの。大抵のものはご自分で買えてしまうから、悩んでしまって……」
その上、クライブはあまり物欲がなさそうに見えることもあり、ますます何をあげたらいいのか見当もつかなかった。
「そうですね、陛下なら、何を差し上げても喜んでくださると思いますよ。ですが、しいて言うならば……」
「言うなら?」
「ティア王妃殿下、でしょうか」
にこにことマリノは、いたずらっぽく笑う。
「なっ……! からかうのはよしてちょうだい!」
予想外な提案に顔が一気に熱くなって、声を荒らげた。
幼い頃から一緒だからとはいえ、マリノは私に遠慮が無さすぎる。少しは慎んでほしい、と口を曲げた。
「からかってなどいませんよ。だってティア王妃殿下は、想いを告げられたという日の翌日からお風邪を召されて一週間近く床に伏せっておいでで。全快されたら、今度は陛下がお忙しくて会えず、そのあとはティア王妃殿下が腹痛に見舞われて今日一日お部屋でご公務をなさっておいでじゃないですか」
「だって、月のものが来たばかりで痛いし、できれば動きたくないんだもの」
ずんと重苦しく痛むお腹を撫でながら言い訳をすると、マリノは私のことなどお見通しとばかりに、ふふ、と微笑みかけてくる。
「さようでございますね、ですが陛下はずっとティア王妃殿下に触れられず、寂しい思いをされていると思いますよ」
「そういうものなのかしら、でも……」
視線を落として、ごにょごにょと呟く。
はじめてクライブと寝所を共にしたのは、もう一カ月も前のこと。
初めは怖くて恥ずかしくてしかたがなかったけれど、途中からはクライブに翻弄されてしまって、正直あまり覚えていない。
それでも、優しく愛しげに私を抱いてくれたことはちゃんと覚えているし、あの時のことを思い出すと、いまも勝手に身体が疼いてしまうくらいだったりする。
だけど……あれからもう一カ月。
間隔を開けなければ、こんなふうに緊張したり恥ずかしく思ったりすることはなかっただろうけど、互いのタイミングが合わなさすぎて、いまは顔を見ることさえ気恥ずかしくてしかたない。
こんな状態なのに『私をあげる』だなんて、言えるはずもない。
何を贈ればいいものかと悩み続けていくと、なにか思いついたのか、マリノが「あっ」と小さく声をあげて、手を叩いた。
「そうしましたら、想いを込めて何かを作る、というのはいかがでしょう。町娘たちの間で、想い人にお菓子を作って渡すのが流行っているようですし、手作りの品ならこの世に一つしかない贈り物になりますよ」
がたりと音を立てながら立ち上がって、マリノに駆け寄る。
「さすがマリノ! 早速パティシエにお菓子作りを教えてもらえないか頼みにいきましょ!」




