第二王女 やめます
貫禄のある強い瞳で睨みつけてくるお母様に怯むことなく、クライブはその目をまっすぐに見つめ返す。
「ヘレナ女王。なぜ俺が、再び軟禁されるリスクを背負ってまで、ここにティアを連れて来たのかおわかりですか?」
「……どういうことかしら?」
私の思いが、お母様の声と重なる。
クライブはお母様の前で私の右手をとり、指を絡めるように握ってきながら答える。
「ティアを心から愛しているからです。だから、祖国や母との関わりを絶たせるなど、させたくはなかった。ティアがどれほどロゼッタという国や母、姉を大切に思っているのか、俺はよく知っていましたから」
クライブの言葉とじんわりと温かい右手に涙があふれて視界がにじむ。
なんとも言えない温かな気持ちで満たされ、うまく言葉にできないままつないだ手に力を込めると、クライブも同じように握り返してくれた。
「――ッ! 愛しているだなんて、口ではなんとでも言えるでしょう。それに、ロゼッタを想うのなら次代の女王として統治すればよい話です」
「……私は、お母様の道具なのですか?」
全く聞く耳を持たないお母様に、涙で潤んだ声で尋ねる。
「突然なんなの? おかしなことを言うのね。貴女はわたくしの娘であり、ロゼッタの第二王女です。道具なわけないでしょう」
そんなの愚問だ。そう言いたげな顔をして、お母様は深いため息をついている。
だけど、私を道具だと思っていないのなら……どうして?
下唇を噛み締めたまま顔を上げて、まっすぐにお母様の顔を見る。
思えばお母様を、こうやって見つめたことは、ほとんどなかったかもしれない。
それほどに私はお母様が怖くて、ずっと避けてきたのだ。
だけど、もう逃げるわけにはいかない。自分のために立ち向かわなければ!
右手を包みこむ温かさに勇気をもらって大きく息を吸い、口を開く。
「道具とお思いでないのなら、なぜ私を見てくださらないのですか? 陛下も先ほど、私と話すべきだと言ってくださったのに、どうして私の話を聞いて下さらないのです?」
お母様は、くだらないと眉を寄せた。
「貴女はいつも気弱で自信もなくて、フラフラ揺れて定まらない。信念も自分の意見もないまま、日々を過ごしていたでしょう? そんな生き方をされるくらいなら、国の未来のため、ロゼッタの第二王女として、わたくしの指示に従ってもらったほうがよほどいいからです」
図星を付かれた気がして、はっと息をのんだ。確かにずっと私は、そうだった。
いつも意見を言えないまま隠れて泣いてばかりいたし、国をよくしたいなんて考えないまま、与えられた仕事をこなすことに満足していた。
ノースランドに来たばかりの頃だって『民のために』なんて考えなかったし、『王妃はただの役職で仕事でしかない』なんてクライブに話したこともあった。
こんなでは意見がないだとか、なんとなく毎日を生きているだとか思われて当然だ。
私はなんて、利己的で自覚のない王族だったのだろう。
過去の自分を思うと顔から火が噴き出してしまいそうだ。
でも……いまはあの頃の私とは、違う。
「お母様のご意見、ごもっともです。ただ、そういうことなら私はもう、ヘレナ女王に従う義務はありません」
淡々と話す私に、お母様はひたいに青すじを浮かせた。
「ティア、何を言っているの?」
「私……ロゼッタ女王国の第二王女、やめます。第二王女の称号を捨てた私は、ロゼッタの王太女にはなれません」




