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不穏な空気

「ティア様、お怪我はありませんか? 強く引き込んでしまい、申し訳ございません」

 マリノは慌てた様子で私のもとに駆け寄ってきて、片膝をついてくる。


「私は大丈夫、隠してもらえて助かった。それより早くここを去りましょう。見つかったら危険だわ」

 マリノは大きくうなずいてきて、私たちは二人の隙をついて屋上庭園を抜け出した。


「それで、さっきの二人は?」

「モンド卿とコナー卿でした」

 名前を聞いて、納得してしまう。

 あの二人は上流貴族ではあるけれど、いつだっていい噂を聞かないのだ。


「よく聞き取れなかったのだけれど、二人はなんて?」


「あくまで聞き取れた範囲にはなりますが、二人は陛下のお考えに賛同できないようです。そして、グリント卿は陛下に王位を返上していただき、陛下のいとこであるダリル殿下に国を治めていただくことが得策と考えている。先ほどの二人はそれに乗るべきかどうか悩んでいる、という状況のようですね」


 話を聞き、下がっていたはずの頭の血が、今度は一気にてっぺんまで上り詰めていくのがわかった。


 怒りのままに声を出したかったけれど、ここは廊下だ。大声を出すわけにもいかず、ドレスを強く握り締めた。


「冗談じゃない! ダリルは部下を置いて逃げ帰ってくるような弱虫で責任感のない男なのよ。あんなのに国は任せられないわ!」


 柄にもなく激昂してしまうのは、王族であるダリルが自国の民を戦争で無駄死にさせたからだけではない。


 ダリルが(とりで)を守ろうとさえしていれば、私のお父様が死ぬことはなかったのかもしれないのだ。


 二年前に終わった、ジュピト帝国軍とユーリア三国……つまりロゼッタ女王国、ノースランド王国、サウス王国の同盟軍の戦争の時、敵襲に(おび)えたダリルは、いち早く砦を捨てて逃げたらしい。


 指揮官が忽然と姿を消した味方は混乱して、砦も陥落してしまい、近くに陣を展開していたお父様は逃げる間もなく敵に囲まれて……


 あんな弱虫が一国の王になるなんて、考えられない。若くても、経験が乏しくても、戦後混乱する二年間ノースランドを守り続けたクライブのほうが、よっぽど王にふさわしいわよ。


 あまりの怒りに、ぎりぎりと奥歯を噛み締め、こぶしを強く握った。


「ですが、敵前逃亡の事実を知るのはユーリア三国の王族とごくわずかな者だけです。もし、ダリル殿下が王位を継承した場合、初めは多少のいざこざがあるかもしれませんが、結局はダリル殿下と懇意(こんい)であるグリント卿が宰相として政治を担い落ち着く結果になるでしょうね」


 おそらく、マリノの見立ては正しい。

 私が来てからの一カ月間だけでも、ダリルは陛下や大臣の政治に文句を言ってばかりで、手を貸そうともしてこない。

 さらに、面倒な仕事が来そうになるとすぐ逃げる。


 歳がクライブより七ほど上というだけのダリルにまともな政治ができるとは到底思えないし、きっと問題が起きたらすぐ逃げて、あいつと仲良しこよしでずる賢いグリント卿がしゃしゃり出てくるのだろう。


 そして、グリント卿は最終的にそうなることを予想済みなのだ。


 裏で手を回し陛下を失脚させ、ダリルを王に据えたところで、自分の都合のいいように王と国を操ろうとするなんて、反逆行為以外の何者でもない。


 グリント卿の単独行動なのか、それともダリルも共謀しているのかは知らないけれど、こんな馬鹿な計画、許すわけにはいかない。


「……とにかく、謁見のあと、陛下にそれとなく聞いてみるわ」

 唸るように呟くと、マリノも険しい顔でうなずいてきたのだった。



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