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ユーリア三国の会議

 あの日について話し終えたグレイ様は視線を落とし、深く息を吐き出した。


「決断がもっと早ければ、とアイツはいまでも悔いているようだが、俺からすれば新米指揮官とは思えないほど、十分すぎる結果だと思っている。それにそもそも、王位を継ぐ予定の王子が先陣切って戦うのは褒められたことじゃねぇんだ。だから、ティアちゃんもアイツを責めたりは……」


「陛下の率いる隊が救援に行ってくださったから、父の首はつながっていたのですか?」


 おずおずと話してくるグレイ様へ呟くように尋ねた。


「は?」

 グレイ様にとって私の質問は思いもよらないものだったのだろう。

 顔を上げて、きょとんとした表情を浮かべている。


「父様が戦争で死んだと聞かされたとき、言われたんです」



 あの日、私はマリノと一緒にロゼッタの城の自室にいた。

 ヤーク砦は難攻不落だとマリノも話していたし、防衛成功の知らせが届くと信じて疑わなかったのに、真っ青な顔をして震える大臣が部屋に飛び込んできて、お父様の死を聞いた。


 声が枯れるほど泣き喚いて涙がようやく落ち着いた頃、私は『お父様の亡骸に会いたい』とマリノに呟いたのだ。


 その時、マリノは泣き腫らした目でじっと私を見つめてきながら、静かにこう返してきた。


「『首がなくなっている可能性が高いので、どうかお覚悟ください』と」


 グレイ様は、苦しげな顔でこくりとうなずいてくる。


「ああ。ジュピト帝国は敵将を討ち取った印として、首を持っていくのが通例だった。だが、とどめは刺せても、クライブたちが駆け上がって来ていたし、そこまでの時間はなかったのだろう」


 グレイ様は視線を落として大きく息を吸い、ぽつぽつと呟くように続きを話す。


「そのあとの会議では、ダリルの責任が追及されて処罰が下される……と誰もが疑わなかったんだが、ユーリア三国のトップたちは荒れに荒れて……」



 ……その会議は私も知っている。

 ロゼッタの城内で、王と女王、第一王子・王女、騎士団長しか参加できない会議が開かれることになって。

 第二王女である私は会場に入ることはできなかったけれど、マリノとテラスに潜んで会議の内容は聞いていたから。


 『同盟を揺るがすような事柄を外に伝えるべきではない』とダリルがした行動には緘口令(かんこうれい)が敷かれ、サウス王が『誰にも言えない秘密はあるさ。たとえば……』とロゼッタ女王、つまり私の母の不倫を暴露し始めたのだ。


 命がけで戦ってきたお父様を想わず、お母様が貴族の男と不倫をしていたことを知って気分が悪くなった私は、耳を塞いでその場にうずくまっていたため、そのあとの話は何も耳に入らなかった。


 父の死と母の裏切りで受けた心の傷は、とても私に耐えられるものではなかったのだ。


 会議の内容について言いづらそうに口をもごつかせるグレイ様を見て、私は苦笑いを浮かべた。


「大丈夫、知っています。母の不倫がサウス王から暴露され、激昂した母が、サウス王国が中毒性のある違法な薬を交易に出していたことを暴露した……ですよね」


「ああ、そのとおりだ。三国の会議は戦とは別の方向で荒れていった。救援を待たずに突撃したクライブをどう処分するか、という話もちらりとは出たが、そんなのはすでにもうちっぽけな話題でしかなくなっていたし、ダリルの件と共に緘口令を敷かれていった」


 グレイ様は視線を落として、ふん、と鼻で笑い、言葉を続ける。


「ユーリア三国は自国の秘密を守るためにも他国と秘密を共有し、決してそれを口外しないことを互いに契約したのさ。綺麗に見えた三国同盟はそんな腐った鎖で繋がれていたってわけ」


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