二つ名
「ところで、クライブのやつはどーだい。鉄仮面つきの彫像みたいで、全然表情変わらねぇだろ? おまけに素直じゃないし、無口だし。女の子からすると、つまんねぇんじゃねぇの」
鉄仮面つきの彫像って。
グレイ様にとって、クライブはそんなにも表情がなくて、話をしないイメージだったのかと少し驚いてしまう。
確かに朗らかに笑っていたのを見たのはひまわり畑の時が最初で最後だけど、わずかに口角を上げる嫌味な笑顔や、微笑むような顔はよく見ているような気がする。
鉄仮面つきの彫像はさすがに言い過ぎなんじゃないかと思う。
「最初は私もそんなふうに思っていました。ですが、陛下は必要な言葉はちゃんとくださいますし、たまには笑ったりもしますよ。本当にごくたまに、ですけど」
私の返答にグレイ様は、何かを考えるようにあごに手をあてて、腕を組んだ。
「ふーん。あの赤眼の死神がねぇ」
「あかめの死神?」
どこかで聞いたような気がするけれど、どこだろう。全然思い出せない。
「んー、アイツの二つ名ってやつ。ジュピト帝国の兵士が勝手につけてたのさ『赤眼の死神には決して戦いを挑むな』ってな。敗けを嫌悪しているアイツは、戦に出ると王子のくせして部下が止めるのも聞かず、しょっぱなから騎士の精鋭並みに戦っててさ。なのに、何人殺っても返り血を浴びないもんだから、どんなに荒れた戦場でもただ一人、出陣時の姿のままだった。男にしておくにはもったいないほど綺麗な顔をしているし、場違いなほど汚れもないし、表情すら変わんねーし、化け物にたとえられても無理はねーよな」
グレイ様の説明に疑問を抱いて、首をかしげる。
前線で戦えば、誰しも血液や泥が付いてしまうものだ。
ロゼッタにいた頃、王国兵たちが泥や血にまみれてどろどろになって帰ってきていたから、私もそれは知っている。
「あの、返り血を浴びないってどういうことですか?」
そう尋ねると、グレイ様は両腕を前で組み、斜め上を見つめながら小さく唸った。
「うーん、どうしてだったか……ああ、そうだ。アイツは血の臭いやベトつきが嫌いだから汚れたくない、って言っていたんだ。命のやりとりをする戦場で、アイツはわざわざ血を浴びないやりかたで戦っていた。新参の騎士からはかなりの反感を買っていたな」
グレイ様はからからと楽しそうに笑うけれど、反対に私はあきれてため息をついた。
「それはそうですよ。みんな必死に戦っているのに、何を考えているんだって誰だって思います。潔癖で感じの悪い王子と思われてもしかたありませんよ」
クライブも騎士の一人だったくせに、不快感を気にしてそんな面倒な戦い方をするなんて馬鹿なんじゃないかと思ってしまう。
しかも、敗けたくないからと初めから王子自ら前線に出るだなんて。
グレイ様は憤慨する私を見てきて、なぜか困ったような笑顔を見せてきた。
「無表情だし、言葉にもださねーし、次から次へとしかも淡々と斬り殺すから誤解されていたが、アイツは誰よりも戦を嫌っていたんだ。デカイ戦のあと必ずといっていいほど部屋でぶっ倒れるほどに。アイツ、敗け戦と血が怖いんだよ。四年前のあの日を思い出すから」
「四年前、ですか?」
四年前と言えば、私がまだ十四歳の時だ。
「そう。それまでは、あんなに表情も硬くなくて、大口開けて笑ったり、仲間が死ぬたびに声をあげて泣いたりもしていた。だが、あの事件のせいで……」
「あの事件……?」
四年前の事件ってもしかして、私の人生を変えた大きな大きなあの事件……
「あ。いや、いけね、これ言っちゃいけねぇやつだな」
グレイ様は慌てて口をつぐむけれど、私は逃がすまいと身体を近づけて食い下がる。
「グレイ様。その事件は私とも無関係じゃありませんよね。どうか、お教えくださいませんか」
「悪ぃが、これはユーリア三国間の契約で……」
視線を合わせようとしないグレイ様の前に立ち、強く睨みつけたあとに、にこりと笑う。
「グレイ様、貴方様はノースランド王国の配下ではないでしょう? 北方騎士団は独立した組織。ユーリア三国の契りを守る義理はありませんよね」
絶対に逃がしてなるものかと威圧するように言葉を紡ぐ。私の目をまっすぐに見つめてきたグレイ様は、ぷっと噴き出すように笑った。
「はは、こりゃやられたな。だが、ひとつだけ約束してくれ」
「はい。何を、ですか?」
尋ねた瞬間に、グレイ様の表情が険しいものへと一変する。
これまでとはまるで違う別人のような顔つきに、ごくりと喉を鳴らした。
「これから俺がどんな話をしようが、クライブに過去を問い詰めるような真似はしないでくれ」
「わかりました、約束します。グレイ様、四年前の事件について教えてください。私の父のことなのでしょう?」




