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夢と隠された本音

「ん……」

 ノースランド特有の夜の肌寒さに布団を肩まで手繰り寄せて、小さく息を吐き出した。


 外は暗く、朝が来る気配はまだない。もう少し眠れそうだ。


 目をつぶったまま寝返りをうって丸まると、隣から何やら眠そうな声が聞こえてきた。


「ティア……?」

 聞きなじみのある声にまぶたを開けると、なぜか隣でクライブが眠そうに伸びをしていて。

 意味不明な状況に頭の中は真っ白になり、壊れそうなほど心臓が暴れだした。


 なっ……なんでクライブが私のベッドで一緒に眠ってるわけ!?


「どうした? 真っ赤な顔をして」

 とろんとした眠そうな目で当然のように見てくるけれど、私にはこの状況がさっぱりつかめない。


「え、あ、あの、な、なぜ陛下、はわ、私の部屋にいるんですか」


「覚えていないのか? ここはティアの部屋じゃなく俺の部屋だ。昨日、お前がここで寝るといって聞かなかったんだろう」


 えぇ、嘘でしょう!?


 慌ててクライブの後ろに視線をやると、確かに私の寝室にあるはずのものが全部消えている。


 だけど私、そんなこと言った記憶がまるでないんだけど……それに冷静に考えたら、昨日庭でクライブに抱きしめられたのよね。

 私を安心させるためにしかたなくしてきたこととはいえ、あのあとこんな状況になっていて、変に意識してしまう。


 どうしよう、恥ずかしくなってきた。


 慌てて起き上がって逃げようとすると、なぜかクライブも起き上がってきて、私に向かって両手を伸ばしてきた。逃げる暇も与えられず、私はまた昨日のように座ったままぎゅうと抱きしめられていた。


「俺の隣で眠りたいだなんて、急に素直になって驚いたが……嬉しかった」

 耳元で囁いてくる甘い声に、身体が震える。


「ちょ……へ、へいか」

 慌てて胸板を押して距離を取ると、クライブは私の名を呼びながら頬を優しく撫でてきた。


「ティア」

 少しずつクライブの赤い瞳と唇が近づいてくるのがわかり、心臓が破れそうなほどに痛い。


「ま、待って」

 慌てて目をつむり、顔を下にそらしたのに、あごをつかまれて無理矢理上を向かされた。


 キスされる――っ!

 そう思っていたのに、いつまでたってもその感触はなくて、ちらと目を開けると、なぜかクライブはもういなくなっていて……


 その代わりに、獲物を狙う獣のように目を輝かせ、妖しく口角を上げたジョアンがいた。


「ティア、素直になってくれてありがとう。たくさん愛してあげるからね」


 いやらしい顔がだんだんと近づいてくるのが気持ち悪くて全身に鳥肌が広がる。


「嫌だ、こっちにこないで、ジョアンの勘違い自惚れ男――っ!」


 叫びながら枕をつかんで殴りかかると、クライブの部屋もジョアンも泡がはじけるように消えて、いつもの小鳥の声が耳に飛び込んできた。


「な、なにこれ……夢?」


 起き上がって部屋を見回し、自室であることと誰もいないこと、朝日が昇っていることを確認して、ようやくいまのが夢だと実感した。


 確かによく思い返せば昨日はあのあと、クライブが部屋まで送ってくれて、そのまますぐに帰っていったんだ。


 それで、そのあとは戻ってきたマリノから、こってりと叱られたんだった。


「ああ……なんかもう、朝から疲れちゃった」

 ベッドのヘッドボードに寄りかかり、視線を落として深くため息をつく。


 でもさっきの、リアルな夢だったな。

 私に触れてきたクライブの体温や、抱きしめてきた時の力、私の好きなあの香り、それに燃えるような深紅の瞳……


 なんだか急に切なくなって、ぎゅうと枕をつかんで顔をうずめた。


 私、クライブのことを考えるとおかしくなる。昨日のジョアンの事件と、いま見た変な夢のせいだ。こんなふうになるの、嫌なのにな……


 どうしてなんだろう。

 こんな気持ちになってはいけないと心が強く歯止めをかけてきている気がする。


 何かよくないことが起こる予感がして、すごく怖くなってしまうんだ。


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