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星降る夜

 三人が闇に溶けるように消えていったあと、私はへなへなとその場に座り込み、クライブはそんな私の前に片膝をついてきた。


「大丈夫か、何もされてはいない?」

 その言葉にこくりとうなずく。


 クライブはきっと、全部知っていたのだ。

 (よこしま)な気持ちで、ジョアンが私に近づこうとすることも。

 ジョアンがあんなに歪んだ人物だったってことも。


 そして私が、ここでジョアンと待ち合わせをして、サウス王国へ行くかもしれなかったということも……


「へ、いか。ご……め」


 ジョアンに襲われた恐怖と、クライブを疑った後悔とで赤い瞳を見つめることができず、うつむいていく。


 ちゃんと謝らなければと思う一方で、のどが詰まったようになってしまって、うまく言葉を発することができない。


「気にするな。幼なじみを悪く言われるのは嫌だろうと嘘で誤魔化した俺も悪い。髪もぼろぼろになってしまったな」


 ちらと視線を送ると、クライブは困ったように笑っていた。


 申し訳ない気持ちでいっぱいになってうなだれると、髪に温かいものが触れてくる。

 それは優しく上から下にゆっくりと頭の形をなぞるように何度も何度も落ちていった。


 すぐにそれがクライブの手だということがわかり、ぽろぽろと涙が雫になってこぼれた。


 髪を撫でる手が温かくて、優しくて、恐怖で強張った心と身体を、優しく解かしてくれる。


「うっ、うううへ、いか……ご、め……んな、さい。ひど、いこと、たく……さん言、って」


 もう怖いことは終わったんだ。

 そう思ったとたん、身体が震えだし、声までもが揺れはじめる。


「俺のことはいいんだ。ティアが無事なら、それでいい」


 その声が聞こえたとたん、ふわりとあの温かな香りが強く香って、私は瞳を大きく見開いた。

 ぐん、と身体を引き寄せられたと思ったら、目の前に赤地の軍服があり、肩と背中に手が回されていることがわかった。


 私は、クライブから抱きしめられていたのだ。


 服を通じて伝わってくるクライブの体温が熱くて、胸が切なく苦しい。


 クライブの手はジョアンに比べて男らしいものに見えたのに、私に触れるその手には乱暴さのかけらもなく、まるで壊れ物を扱っているかのようで。


 ジョアンに触れられた時はあんなにも怖いと思ったのに、いまは男の人の腕の中にいても、まったくと言っていいほど怖さを感じず、強張っていた身体の力もすうっと抜けていった。


「怖かっただろう、もう大丈夫だから」

 耳元でささやかれる優しい声にきゅうと胸が締めつけられ、思わず広くたくましい背中をつかむと、クライブは、きゅ、と少しだけ力をこめて抱きしめ返してくれる。


 そんな優しさに涙が止まらなくなってしまい、星降る夜、クライブの腕の中でわんわんと泣き続けたのだった。




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