1-2「拳骨は素晴らしいフォームで」
曰くユートピアなる新天地へ連れて行こうとする銀髪の美人さんに対して叱責の怒声と拳骨が脳天に降り注いだ。
堪らず、美人さんが頭を押さえてのた打ち回る。
恥も外聞もなくゴロゴロとその場に転がりながら悶えている様から察するに、相当痛かったと見える。
ク〇ヨン〇んちゃんばりのゴツンという擬音が聞こえてきそうな素晴らしいフォームの拳骨だったしね。
それこそ、素手で大砲でも撃てそうなくらいに。
まぁ、それはともかく。
「ほっとかないで~、へるぷみ~~」
――――なにやら幻聴が聞こえる。
無視しておこう。
拳骨喰らって悶絶してる残念美人なんて居ないのだ。居る訳がない。居て堪るか!
「すまんな。まずはこのアホに謝罪させてから説明しようと思うてたんだが、説明すっ飛ばして処理しようとするとは思わなんだ」
拳骨を放った人物が、本当に申し訳なさそうに言いつつ、目頭を押さえる。
何だろう。ものすごい気苦労に気苦労を重ねたような哀愁が漂ってくる。
「ええと、お気になさらず。まだ、何もされてませんから」
とりあえず、可能な限りフォローは入れておこう。実際、まだ何もされていないし。
「そう言って貰えると、ありがたい。アレには苦労掛けられっぱなしでな…」
「あ~……アレとは、コレですか?」
「人をアレとかコレとか酷くないですか!? …って言うか、頭がカチ割れるかと思いましたよ~」
未だに痛みが尾を引いているのか頭を抱える足元の残念美女が、涙目で俺ともう一人を一まとめに睨んでくる。
「自業自得じゃろうが、戯け」ゴチン!
「痛ッ~~ッ!? 追い打ち掛けなくても良くないですか!? 死体蹴りは反則なんですよ!?」
「お主は死体でもなんでもないじゃろ!? 訳の分からん言い訳するでないわ!」ゴチン!
「パワハラが留まるところを知らない~~ッ!?」
状況はよく飲み込めないけど、多分、普段からこの二人は似たようなやり取りをしてるんじゃなかろうか。
漫才のボケとツッコミのような職人芸的な自然さで、片や頭をぶん殴り、片や涙目で文句を返している。
――――。
俺、帰って駄目かな? 帰してくんないかな? 誰か、帰り道教えて~。