これってどんな詐欺?
「おめでとうございます!!」
パンパカパーンという間の抜けた効果音をバックに、唐突に告げられた言葉。
理解が追いつかず戸惑っていると
「この度、異世界行きに当選されました!」
混乱に拍車をかける言葉が続いた…。
なんだこれ、新手の詐欺?
状況の把握が出来ず、狼狽えつつ、直近の記憶を思い出す。
それは、平凡な1日の終わり。
29歳独身男性である、嵩里 司にとって、特に特筆することのない1日な筈だった。
ギリギリ20代だよと声高に言いたくなるお年頃。
精神年齢は10代から成長していないかもと疑念に思うこと有ったり無かったり。
そんな自分の口癖は、
「どっか遠くに遊びに行きて〜」
深夜、職場から誰も待つ人の居ない寂びしい部屋に帰る時の定番の愚痴を呟いた。
とは言っても、別に具体的に何処かへ行きたいと決まっている訳ではなく、たまにある長期、といっても精々2、3日(うちは結構ブラック?)の休みも旅行を計画したりはしない。
休みは基本部屋でゴロゴロ。
その愚痴が、代わり映えのしない日常から逃避したいというだけのものだというのは自覚はしている。
まあ、一人旅行にわざわざ行く気にもなれないし。
友人?
ショッピングモール内の専門店に勤めている関係上、土日曜祝日は稼ぎ時。
なので、当然週末はお仕事であり、週休2日制の会社勤めの友人と休みを合わせて遊びに行くのは難しい。
正直大学時代の友人とは疎遠になってしまった。
更にいうと独身男性社員は、家庭持ちの他の人と比べて休みの希望は後回しである。
決して、ボッチ気質な訳じゃないよと、誰かに言い訳をしてみる。
友人をつくると人間強度が下がる、なんて発言するような某キャラ程ボッチじゃない筈だ。
大事な事だから二度言いました。
彼女?
何それ美味しいの?
何処に売ってるの?
とフェミニストが聞いたら怒りそうな事を思う。
虚しくなって、溜息を吐いたら、急に目の前が光に包まれ、衝撃とともに意識を失った…。
目が覚めて周りを見渡すと、そこは無機質な白い壁に囲まれた部屋の中だった。
調度品は何も無く、部屋の真ん中に白っぽいとしか表現が出来ない人の様なものが立っていた。
そして、白い人?の第一声が、先程の訳の分からない祝福の言葉だった。