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そして奴が来る←背の低い旦那様は魔王相手に喧嘩を売ることに決めた  作者: 新藤 愛巳
第四章 トンボとアーサー
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何も言わない

「旦那も知り合いだったんですか?」


 悲しそうなアーサー。


「昔、駆逐艦八尺瓊で散々な目に遭った」


「そんな。スズシロさん」


「葉山っち! 私は悪くないよ。私は塩辛キャンディも好きだから。しかたないから」


「お前って奴は最悪だああああ。と、このように彼女とは異常に食の趣味が合ってな」


「知らなかった。恐ろしさで五百キロメートル走れそうだ」


 アーサーが混乱している。


「会いたかったよ。葉山っち」


「スズシロさん。スズシロさんもどこか悪いの? 俺、いつもお見舞いばかりしてもらって」


「ウイルスで足が悪かったんだけど。もう大丈夫」


 スズシロさんは跳ねた。


「私の足技は凄いんです!!」


「足技。それは足首技か? 足首技でないと認めないぞ! 認定しないぞ」


「旦那」


 アーサーが困った顔で僕を見上げていた。


「スズシロさんと旦那の関係は」


「お茶友達だ」


 呆然とするアーサー。


「それってデート」


「違います。葉山っち。私たちはマイフレンドリーパートナーです」


「恋人ではない。食い人だ。パートナー違うからな」


「トンボの旦那なんて大嫌いです! うわーん」


 青春の冷汗を流しながら逃げ去るアーサー。


「いいのか、スズシロ。あんなこと言っちゃって」


「いいんです。だって、葉山君は私の思い出の人だから」


「思い出の人とはどういう意味だ」


「スズシロはペンネーム。私、葉山君の遠い知り合いだったんだよね」


「ああ、それで。スズシロってペンネームなのか! アーサーと同じ、物書きか」


「葉山君は修学旅行中、外国の砂嵐で目をウイルスにやられた。それで、私は傍で看病した」


「お前のことなど簡単にわかりそうなものだが」


「その頃の私は太っていたんです。今は痩せて見る影もない」


「本当にな」


「とにかく。私は葉山っちの傍に居ちゃいけないの」


「だからって僕を盾にするな。最悪だ」


「葉山っちとはもっと違う場所で会いたかった」


「どうして」


「秘密」


 スズシロは舌を出した。


「お前の本当の名前はなんだ?」


「名前なんて意味がないよ。だって私、本当の名前なんて忘れちゃったもん」


「お前らしいな、スズシロ。この村はどうなっている?」


「どうって、住民は面白おかしく暮らしているよ。駆逐艦にいた時よりも自由。祭りがあって、イベントもあって。でもね、私たちはそれを楽しむ資格を無くしてしまったんです」


「どういう意味だ」


「必死に戦っている仲間たちを差し置いてここで楽しんでいた罰が当たったの。私たちがいることを嗅ぎつけた魔王たちがこの村を狙っている。その数三体」


「嫌な情報だな」


「雛の魔王、蜥蜴の魔王。水蛇の魔王」


「水蛇、スネイクの狙っている魔王とは違うのか」


「スネイクって誰。倒せた人がいるの? 魔王を?」


「引き分けたそうだ」


「そう。やっぱり都合よくいかないね。魔王を倒せる人なんてきっと一生かかっても見つからないんですね」


「見つかる」


「須賀君。もしかして、トンボの旦那って」


「僕じゃない。蒼真一司だ。あいつの腕だけは確かだ」


 嘘をつく。僕には負い目があるからだ。


「須賀さんも引き分けた口か。残念です。その蒼真さんは」


「ここにはわけあってきてはいないが、いつか助けになるだろう。あれでヒーローだからな」


「性格に難があるんですね」


「難なんてありまくりだ。カレーにして食べたいくらいだ」


「それは難しそうな人ですね」


 スズシロは苦笑した。こんな上品な奴だっただろうか。


「スズシロ。僕たちといた時より痩せたか」


「失礼ですね。痩せるもんですか」


 スズシロは僕を叩く真似をした。

 そしてその場に倒れた。


「スズシロ?」


 スズシロは呻いた。


「ごめんなさい。秋葉さん」


 僕の見解だと、葉山っちはアーサーで、秋葉さんは洋平だ。


「離婚したのだったな、葉山の家は」


 ヒヨコの家も離婚していた。葉山の家もいろいろあったのだろう。


「何があったんだろうな」


 僕はスズシロを抱き起した。スズシロはやはり痩せていた。


「秋葉さんごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


「何にごめんなさいなんだ?」


 スズシロはそれ以上何も言わなかった。薄い心でどうでもいいと思う。

 秋葉に謝らなければいけないのは僕の方だと思ったからだ。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 三年前、僕は廃人同様の状態で医療ベッドに横たわっていた。


「よお、須賀君。ぼかあ、君のお見舞いに来たよ」


 軽々しい調子で負傷した体と目を治していた僕を見舞った秋葉。


「よお」


 当時の僕は、仲間が死んだのは自分の歯車が爆発したからだと思ってなどいなかった。

 生き残ったのだと思っていた。仲間に生かされたのだと。

 だから塞ぎ噛んではいたものの絶望はしていなかった。

 麦茶のような薄い心で、もう友と語りあえないことを悔やんでいた。

 そして先輩を失ったことに悲しみを覚えていた。


「愛美さんは」


 秋葉は首を振った。悲しそうだった。


「部隊は壊滅したよ」


「そうか」


 悲しくもない、その心が悲しい。悲しいのかもしれないがそれが表面まで浮いてこない。もどかしい。僕の心は鉛の海だ。


「ぼかあ、須賀が生きていてよかったなあ」


「スズシロは元気か?」


 僕はそんなふうに聞いてしまっていた。

 駆逐艦は燃え落ちてしまった。僕らの艦は落ちた。

 無事では済まなかったろう。みんな。


「半数以上は脱出したよ。ここは駆逐艦草薙。僕らの新しい艦だ。ぼかあ君を歓迎するよ」


 そう、あの時、駆逐艦八尺瓊に蜻蛉の魔王が攻めてきた。

 艦内バズーカーも、電子砲も効かなかった。艦内のバリアー設備も壊されて、何もかもダメになった。何を狙っていたのだろう。悪魔のような蜻蛉の魔王。総司令は倒れ、愛美先輩は力尽きた。そんな時、僕は立った。仲間を連れて帰るという誓いが胸を奥から滑り落ちそうになりながら走った。


「ぼかあ、感心したよ。須賀のおかげで三分の二は脱出することが出来たんだ。誇らしく思っていいよ」


「そうか。先輩は? 先輩はどうなった?」


 秋葉は何も言わなかった。

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