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そして奴が来る←背の低い旦那様は魔王相手に喧嘩を売ることに決めた  作者: 新藤 愛巳
第一章 トンボとスネイク
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忘れたこと

 実際のゾンビも厄介だが脳内ゾンビも相当厄介だ。考えることをやめない限り、彼らは動きを止めない。須賀 大樹


 世界崩壊の思い出なんてそんなものだ。僕と先輩との思い出もそんなものだ。特に意味はない。僕は牢屋の中で目を覚ました。冷たく暗いじめじめした場所だった。


「ここはどこだ。爽やかな朝だな。おはよう。起き抜けに真っ赤な塩辛が欲しいな」


「そんなさわやかな目覚めをやっておる場合か、あほトンボ!!」


 少女の裸足のかかとが僕にめり込んだ。靴を脱いだのは優しさらしい。


「何をする!!」


「お前はあほか!! あんな鎧の口車に乗せられて、酷いのじゃ~~~。大馬鹿者が~~~~。わっちまで捕まってしまったではないか。うわ~ん」


 ああ、なるほど。


「僕は乗せられていない。激高しただけだ」


 怒った。それだけだ。痛いところを触られて、撫でられて怒っただけだ。

 痛かった。痛すぎた。痛かった。

 めったに怒らない僕なのに。怒ることのできない僕なのに。


「ネココ。スネイクはどうした?」


「ああ、あの女は逃げたのじゃ」


「逃げた? どうやって!」


「わっちらが無様に捕まっている間にツインの拳銃を握りしめて去って行ったのじゃ。蛇ではなくウサギのようであったのじゃ」


 そんな女だと思わなかった。もっと情に厚い女だと思っていた。

 買いかぶりすぎか。まあいい。


「唐突だが、とにもかくにもここから逃げようと思う」


「ここから逃げるじゃと?」


 窓には鉄格子。周りはコンクリートの壁と檻。見張りは銀鎧。


「どうやって逃げるつもりじゃ!!」


「そこはほら、お前のお色気作戦で。お前の足首を見せてみろ。そうすればきっとあの銀鎧もテンションが上がって!」


「変態と同じ牢屋に入りとうはなかったのじゃ~」


「人聞きの悪い奴だな」


「足首好きなど変態以外の何者でもないのじゃ」


「おっぱい好きよりましだろうが」


 銀鎧は立ち上がった。仁王立ちしている。


「吾輩はおっぱいが好きである」


 僕はネココの胸を見た。


「絶望する」


「トンボ、お前の胸をさらすのじゃ!!」


 もはや何が何だかわかっていない僕らだった。僕とネココは殴りあう。銀鎧は言った。


「残念ながら吾輩は自分の胸が一番、好きでござる」


 自己愛だった。


「ネココ。脱出は不可能だ」


 ネココの蹴りが僕の後頭部に決まった。痛すぎた。


「僕のつむじを攻撃する奴は僕の敵だ」


「それは大抵そうじゃろう」


 僕らは牢の中でもつれ合った。もつれ合って、殴り合った。殴りあって、殴りあいながら壁際に体を寄せた。寄せながら転がって顔を寄せ合った。


「どうするんじゃ、阿呆トンボ」


「どうしょうもないな」


 銀鎧のメイスマスターは僕らを閉じ込めた牢の隣で筋トレを始めた。こうしている間にもまだ強くなるつもりか。どうすればいいんだ。こいつ今すぐ足がつったり、筋肉痛になってくれないだろうか。


「スネイクの救援は望めないか?」


「無理じゃ。トンボ。過去に何があったか知らないがうなされておったぞ。そんなに気に病むことか? 過去など、いくらでも変えられる。人の記憶とは柔軟なものじゃ。ちょいちょいと脳内を作り変えてめでたしめでたしの良い話にしてしまえばいいのじゃ」


「そうはいっても、僕にとっては……」


 生々しい記憶だ。

 銀鎧はまだ腕立て伏せをしている。何考えているんだ、こいつ。


「お前たちの会話を聞いてもしょうがないでござる」


 エチケットのつもりらしい。ならここで作戦会議を開くか。


「一つ質問していいか。ネココ。事情が見極められない」


「どういう意味じゃ」


「君がなぜ狙われているのか一切わからない」


 ネココはこめかみをトントンとたたいた。


「それは当然、わっちが天才じゃからじゃ。古代兵器のありかを知っているのじゃ」


「馬鹿な質問をしていいか? 古代兵器に足首ミサイルはついているのか?」


「ミサイルを飛ばした後どうやって歩くんじゃ?」


 それもそうか。


「ネココ、お前は天才だと? 本当なのか?」


「そうじゃ。わっちはこの国の頭脳なのじゃ。えへん」


 頭脳。さっきの会話の流れ的に低能そうだったじゃないか。まったくもって期待できない。


「なんじゃその眼は。わっちの頭脳は天才なのじゃ。いい加減にしないと怒るのじゃ~」


「もう怒っているよな」


 少しうんざりしながら答える。ネココは唇をかみして立っていた。


「愚か者!!」


 ネココは両手を広げた。大声で叫ぶ。


「わっちの記憶力は世界一!!」


「そんなにすごいのか?」


 ネココは上目遣いで僕を見た。


「世界一忘れるのじゃ」


「忘れるのか」


「わっちはとんでもない秘密を耳に入れてしまったのじゃ」


「それは?」


「魔王を倒せる秘密じゃ!」


「すごいな」


「しかしその内容を忘れてしまった」


「なんだって」

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