魔法使ってみた
小学校の隣にあるブランコと砂場しかない小さな公園。
遊びに来る子どもは、滅多にいない。子ども達は皆、小学校から少し離れているが遊具が充実した大きな公園へ行く。
しかし、毎週木曜日の午後五時前は、必ず魔女と小学生が砂場で会話をしていた。
五月の二週目の木曜日。桜の木は青くなっていた。
時刻は午後四時三十分。いつもより早く、結由子は公園へ来た。
「あ、今日は早いな」
「終礼が早く終わったのよ」
「ふーん」
「ねえ、ふと思ったんだけど、颯太くんってお金持ち?」
「は?一般家庭だから」
「いやー、服とかお坊ちゃんっぽいしさ。ラルフローズンだっけ?」
「ローズンじゃなくてローレンだから」
「詳しいわね。あ、あと苗字もお金持ちっぽい」
「千反田が?」
「そう、三文字で数字が入った苗字ってセレブ感あるわ」
「これでも?」
颯太は、砂場に指で一二三と書いた。
結由子は首を傾げた。
「いちにっさん?そんな苗字の人いるの?セレブ感はないわ」
「は?一二三だから」
「え、ひ、ひふみ!?」
「バカだな、あんた」
結由子は顔を真っ赤に染め、颯太を叩いた。
「高校生に向かってバカってなによ!私、テストはいつも上位よ!」
「そんな紙だけで天狗になるなよ。世の中は知識量なんだよ」
「……颯太くんって本当に小学生?」
「もちろん。少し頭が良いだけ」
「塾とか行っているの?」
「塾?そんなの行くわけねえじゃん」
「じゃあ、本当に天才ね!」
「カテキョだからカテキョ」
「なによそれ」
「家庭教師だよ。木曜日以外は家庭教師が来る」
「あら、本当のお金持ちじゃない。今度、遊びに行きたいわ」
「無理、兄貴がいるから」
「あら兄弟がいるのね。お兄ちゃんだけ?」
「うん、兄貴が二人もいる」
「会ってみたい!二人は颯太くんと似ているの?」
「……二人とも全く似ていない。てか、似てたら兄貴は童顔だ
」
「え!?お兄ちゃん達、何歳?」
「長男が二十歳、次男が十七歳」
「……結構、離れているわね」
「一回りも違うと、兄弟とはそう思えない、叔父さん的存在」
「私は一人っ子だから気持ちが分からないわ」
「なんだ、家でも一人なのか」
「両親がいるわよ!」
「ふーん」
「ちょっと!話を終わらせないでよね」
「だって興味ないし」
「あ、そうだ!今日ね杖を持って来たの」
「ふーん」
「また終わらせた!そんな颯太くんにはお仕置きよ!」
結由子はスクールバッグから割り箸を一膳取り出した。
「……え?割り箸で魔法使えるのか?」
「あ、間違えた!杖はね……鞄の奥にあったはず……ほら、あったわ!あ、違う」
結由子は杖を手探りで探す。どんどん、杖と間違えて出てくる謎の物。
颯太は散らばった割り箸や鉛筆を見て、首を傾げた。
「杖と割り箸を間違えるバカ魔女は、あんたくらいだろ」
「見つけた!」
結由子の右手には杖らしき物が握られていた。
「お仕置き、どんな魔法がいい?殺人系はダメよ」
「……例えば雨とか降らせれるのか?」
「もちろん!行くわよ〜えいっ!」
結由子は杖を揮った。すると颯太の頭上に雨雲が発生し、雨が降り始めた。
「バカ野郎!本当にやるなよ!ずぶ濡れになるだろうが!」
「きゃーーーー!ごめんなさいごめんなさい!今、ハンカチ渡すから!」
結由子はハンカチを探すが、見当たらない。
「鞄、整理しろよな……女子とは思えない鞄だよ」
「いつも整理しているわよ!ほらハンカチ!」
結由子は、笑顔の熊がプリントされたハンカチを、颯太に渡した。
ハンカチは、すぐに雨で濡れ、役目を果たせていない。
「……まずは雨を止めてくれ」
「そうしようと思ったのよ」
「あんたは濡れてないから呑気だな」
「だって颯太くんにだけ雨が降っているからね。今、解除するわ!えいっ!」
結由子は再び杖を揮った。すると雨はピタリと止んだ。
そして音楽が流れた。
「あんた魔女なんだな」
「ずぶ濡れの颯太くん、もう五時だよ」
「帰ります」
今日も平凡な一日は終わり。
本当に謎な話だ……
次回は未定です。