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9、逃避行(その2)「Trust no one」

 湾岸地区にある倉庫は夜ともなれば人気も無く、光量の少ない照明がいっそう寒々しさを助長する。

「はい、先輩。カップラーメンできましたよ」

 事務所に備えられていたポットのお湯で作った即席ラーメンを朝莉が差し出してくる。

 途中のコンビニで買い込んだこのカップ麺とおにぎりだけが今夜の彼らの夕食だった。

「うぅ~、腹減ったぁ」

「ちょっと先輩、田中さんも呼んでくるからフライングはダメですよ。みんなで頂きますして食べましょう?」

「えぇ~でも田中さん、外で電話してるんでしょ。邪魔したら悪くない?」

「もぉ、だからって勝手に食べてたら田中さんに悪いでしょ!昨日からずっと田中さんにはお世話になりっぱなしなんだから一声かけないと」

「ちぇっ、わかったよ。じゃあ田中さんの分は僕が準備しとくから今野呼んできてよ」

「お湯は田中さんが来てから入れてくださいね?」

「わかってるよ」

 口うるさく哲に言い聞かせた後で朝莉は事務所を出る。

 廊下を覗いてみたが田中の姿は見えない。電話をかけると言っていたが何処まで行ってしまったのだろう。

「うぅ、寒い。事務所にも電話くらいあるんだからそれを使えばいいのに」

 底冷えする寒さの中、朝莉は身を震わせながら田中を探して歩いた。

 廊下の突き当たりのところに外へと繋がる扉があって、そのすりガラスの向こうに朝莉は田中の姿を見つけた。どうやら煙草を吸いながら話しているようだ。

 近づき声をかけようとして、ふと朝莉は耳を澄ました。

 田中の声が聞こえたのだ。いつもの温厚そうな語り口ではなく、もっと荒っぽく乱暴な口調だったのが気になったのだ。

「――えぇ、えぇ、わかってます。なんか追いかけ回してる奴がいるみたいですが、そいつが来る前に片づけます」

 何の話だろう、と朝莉は聞き耳を立てた。

「わかりました。手早く終わらせるんで始末屋を寄越してください。はい、いつもの倉庫です。……大丈夫ですよ、ガキ二人くらい簡単です。あいつら、俺の事は何も疑ってませんし」

 下卑た笑いが朝莉の耳朶を打った。

 思わず後ずさった途端、近くにあった消火器に足がぶつかり甲高い音が廊下に響いた。

「――――!?」

 慌てた様子の田中が扉を開けた。

 田中は焦った顔で廊下を見渡していたが、安堵のため息をついて再び扉を閉め、電話に戻っていった。

 扉が閉まったのを確認してから、朝莉は再び姿を現した。

 震える足取りで事務所に戻る。

「あ、ごめん今野。我慢できなくて先に食べちゃった。あれ、田中さんは?」

 呑気にラーメンを啜っていた哲が彼女の蒼ざめた顔に気づき、不思議そうな表情を浮かべた。

「……どうしたの?顔色悪いけど、外寒かった?」


 事務所に田中が戻ってきたのは三分ほど後のことだ。

 懐に収まっている物を確認した後で、田中は笑顔を浮かべて扉を開ける。

「いやぁ、寒い寒い。冷えますねぇ…………ん?」

 事務所にいる筈の二人が居なかった。

 まさか二人同時にトイレというのも考えられず、なによりできあがった即席麺が湯気を立てていた。

「門倉君?今野さん?お~い」

 呼びかけながら二人の隠れられそうな場所を覗いてみる。

 給湯室、トイレ、打ち合わせルーム。

 いない。

「くそっ!あのガキども何処に行きやがった」

 その時、窓の外に田中は動く人影を見つけた。

 慌てた様子の二人組が見えた。

 舌打ちをすると田中は二人の姿を求めて走り始めた。


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