9、逃避行(その1)「最悪の鬼ごっこ」
「ダメ、ルーちゃんとも連絡取れないし、捷子さんも携帯出てくれない」
スマートフォンを投げ出し、朝莉はガックリと肩を落とした。
場所は東京市内のビジネスホテル。別荘から離脱したその足で彼女たちはこのホテルに移っていた。
「まさか二人とも、もうミヅキさんたちに……」
「やめてください、そういう事言うの!」
「ご、ごめん」
哲は慌てて謝った。ただでさえ不安な状況で滅多なことを言うものではなかった。
「みんな、どうなっちゃったんだろう」
頭を抱えてベッドに腰かける朝莉の姿を注視できず、哲は逃げるように椅子から腰をあげた。
「僕、田中さんの所に行ってみるよ。何か知ってるかもしれないし」
隣室にいる田中の下に向かおうとしてドアノブを握った哲の手がふと止まった。
「……先輩?」
突然硬直した哲を不思議そうに朝莉が見やった。哲の顔は恐怖に強張っていた。
「…………向かってきてる」
「え?」
「ミヅキさんだ。このホテルに向かってきてる!」
「ウソ!?」
「と、とにかくここから逃げなくちゃ!今野は準備して!僕、田中さんを呼びに行くから!」
チェックインして間もないホテルを飛び出した彼らは田中の運転する車で走る。
今にもみづきが追いかけてくるのではないかと後部座席の哲たちが何度も不安げに振り返る中で、何処かに電話をかけていた田中が振り返った。
「とりあえず、隠れられそうな場所を見つけました。城南の倉庫なので暫くは時間が稼げるでしょう。ひとまずそこに移動してから善後策を考えましょう」
「は、はい。お願いします」
こんな追い詰められた状況だというのに怯えた様子も見せない田中に頼もしさを覚えつつ、哲たちは夕暮れの街を車に揺られた。




