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8、集束する戦火(その11)「戦闘中行方不明」

 夜が明けた。

 和光惣吉の所有する別荘は全焼して完全に焼け落ち、無惨な姿を曝していた。

 警察と消防の現場検証の結果、出火の原因は二階の一室で可燃性の物が爆発したものと推測された。

 不思議な事に、焼け跡からは女性のものと見られる服の燃え残りが幾つか発見されたものの焼け跡からは焼死体の類は一切見つからなかった。

 そしてもう一つ、火災ではなく明らかに外部からの影響と見られる破壊の痕跡や銃撃の痕も見つけられたものの、現場からは薬莢の一つも回収されなかった。

 地元警察はこの怪談じみた不可思議な火災に関してそれ以上の捜査をする事はできなかった。

 何故か彼らより先に現場に到着していた公安関係者を名乗る妙な連中によって捜査の指揮権を取り上げられてしまったからだ。

 現場近くにでは、火災に巻き込まれたと思しき少女たち数名が発見されたものの、いずれも火事のショックからか錯乱状態に陥っており、即座に病院に搬送された。

 彼女たちのその後の消息も不明である。病院担当者によれば、こちらも妙な連中が現れて彼女たちの身柄を保護して連れ去ってしまい、厳重な緘口令が布かれたという。

 


 結局、みづきと常磐が持ち帰った情報をもってしても和光捷子の消息は未だ掴めなかった。

 彼女の行方を追っていた者たちの間でも意見は二分した。

 死亡説を主張したのは飯尾史奈乃だった。

「根拠は、真名津雪の存在です。彼女は廣山捷子の護衛として常に彼女に同行し続けていたと聞きます。あの別荘での死に物狂いの抵抗も、あの場に廣山捷子がいた事の証ではないでしょうか。そして切り札の真名津雪が破れたと知った廣山捷子たちは敗北を悟り、別荘に火を放ち自害した――現場に残されていた廣山捷子の物と思われる衣服もそれを物語っています」

 お~、と聴き入っていた少女たちから賞賛のどよめきが起こった。

 得意げな表情を浮かべた史奈乃の気分に水を差したのは犬猿の仲の柚香だった。

「うわ、おナノー、ドヤ顔だし。マジウケる~」

「なっ!?別にドヤ顔なんてしてませんし!てゆーかおナノー言うな!」

「なんだ森本。意見があるなら言え」

 乃木から促され、柚香は肩を竦めた。

「ん~?別に~。あたしゃどっちでもいいし。隊長殿たちが決定したとおりに動くだけだし」

「ちょっとユズ、真面目にやる気が無いなら茶化さないでください」

 史奈乃に睨まれ、柚香はヘラヘラと笑ってみせた。

「怒んなし。てゆーかおナノーの言う事はもっともだと思うよ。状況証拠で考えればそう判断してもおかしくないよね~」

「なんか含みがあるみたいですけど」

「ん~?いやいや、あたしゃおナノーのこと褒めてるんだよ。確かに今持ってる情報を掻き集めたら、あんたの言ったとおりの結論が見えてくると思うよ。ちょっとできすぎてるくらいにね~」

 不機嫌そうに史奈乃が頬を膨らませた。

「なんか全然褒められた気がしませんけど」

「つまり、あの火災自体が廣山捷子の仕組んだ欺騙の可能性も捨てきれないと言いたいんだな?」

 乃木に尋ねられ、柚香は傍らのみづきを指差した。

「あたしじゃなくて、こいつがね」

「発言の許可を願います」

「よし、言ってみろ」

「私は一つ気になっている事があります。煤ヶ谷柑那の存在であります」

 みづきは立ち上がり、直立不動の姿勢で答えた。

「事前の情報から、彼女があの別荘に廣山捷子と共に潜伏していたのは間違いありません。だとするならば、交戦時に彼女の気配が感じられなかったのは不自然であります」

 乃木は頷き、話を続けるように促してきた。

「戦闘能力の高くない第二症例者エニグマの捷子はともかくとして、煤ヶ谷柑那は第五症例の撫子であります。その英霊召集の能力は皇軍内においてもトップクラスであります。もし彼女があの別荘を死守するつもりがあったのならば、交戦時に英霊殿を用いなかったのは不自然かと思われます」

「緒戦で気づかれずに斃れた可能性もあると思いますけど」

 史奈乃の反論をみづきはあっさり否定した。

「それは考えづらい。そもそも、廣山捷子の造反には煤ヶ谷柑那が深く関わっていると見るのが自然だ――そうでありますね?乃木隊長殿」

 話を振られ、乃木は顔を曇らせた。

「動機としては充分に考えられるな」

「であるならば、柑那が前面に出る事を捷子は認めないだろう。なにより、第五の呪詛は本人が前線に立たずとも力を発揮できるのだ。あの防御施設として脆弱な別荘で最前線に立つ事の愚くらいは奴も気づいていた筈だ」

「でもそれは全部推測に過ぎませんよね?捕虜にした新兵たちの証言だと、交戦の直前まで煤ヶ谷柑那は和光捷子と共にあの別荘にいた事は間違いないんです」

 史奈乃の反論に、みづきはメガネを押し上げた。

「だが交戦時に奴らの姿を見た者たちはいない。そして潜り込ませていた上里瑠琉亜の戦闘中行方不明の件、これらは我々の作戦が捷子たちに洩れていた可能性を示している」

 柚香が欠伸をしながら口を挟んだ。

「ねぇ、これって確かめようがないじゃん。捷子たちが死んでたって死体が残る訳じゃないんだし、かといって生きてるかどうかもわからない相手を探そうにも、ウチらだって等分派手に身動きはとれないっしょ?」

 火災現場に蘆屋千沙都が現れた以上、早晩新日本の治安当局はこの一件に彼ら日本帝国の影を見つけ出すだろう。

 米憲兵隊による一斉摘発で弱っていたと思われていた彼らがこうして今なお武力行動を起こしうる力を残していると知った新日本政府が警戒を強めるのは明らかだった。

「手はある」

 断言したのはみづきだった。

「廣山捷子がもし仮に生きていれば見つけられる」

「あっさりと言いきったな?どうするつもりだ」

「交戦直前まで、あの別荘に一人の少年がおりました。その者は、ノルブの目――つまり、己の望んだ対象を見出す魔眼の持ち主であります」

 乃木が眉を顰めた。

「こないだ、森本から報告のあった少年の事か?」

「そうよん、みづきのカレシ」

「貴様の奴隷でもあったそうだな」

 坂木が噴き出した。

「おいおまえら、私生活は節度をもって過ごしてくれよ?頼むから」

「森本はいざ知らず、自分は潔白であります。それはともかく、その少年が我々の攻撃直前にあの別荘から離脱したことは確認済みであります」

「どういう事だ?何故わかる?」

「自分と彼は契約により魂の紐帯を結んでおります故、互いの行動はおおよそで掌握できます」

 腕を組んだ乃木が少し考えた後で口を開いた。

「つまり、そのノルブの目をもつ少年さえいれば廣山捷子の生死を問える、と言う訳だな。だが、聞いた話ではその彼はおまえと仲違いをして逃走中だという事だが?」

「情報を聞き出す分には何の問題もありません。捕まえて聞き出すまでであります」

「お~怖っ」

 柚香の軽口を無視してみづきは指揮官の判断を待った。

「やむをえんな。速やかに追撃してその少年の身柄を確保しろ。坂木、彼女の支援を頼む」

「了解」


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