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8、集束する戦火(その6)「ゼロ・アワー」

 それは戦闘というよりも殺戮と称すべきであった。

 千葉県の山中で深夜に発生したその戦いはそれほど一方的な展開に終始した。

 和光捷子の率いる少女たちの立て篭もる別荘に襲いかかったのは総勢三十名ほどの男女であった。

 その口火を切ったのは、警戒態勢に入っていた筈の少女たちの誰もが気づかぬうちに敷地内に潜入していた曾ヶ端(そがはた)常磐(ときわ)という呪詛感染者だった。

 音もなく忍び寄った常磐は裏口を警戒していた少女の背後をとり、その延髄を握っていたナイフで躊躇なく寸断した。

 その間、常磐の姿は誰の目にも捉えられていなかった。第六症例と分類される呪詛の力で彼女は不可視の存在になっていた。

 常磐は携帯していた小型無線を送信状態にすると、小さく三度舌打ちをした。

 無線機がコツコツと何かを打ちつける音を返してきた。

 常磐は素早く別荘にとりついた。窓のすぐ下まで近づくと手榴弾を取り出しピンを抜く。壁を隔てて中にいる居住者たちの気配が濃厚に感じられた。

 そのまま闇に紛れる常磐の無線が再び音を出した。今度は低い男の声だった。

『さん、ふた、ひと、いま!』

 同時に闇をつんざき複数の発砲音が響いた。

 常磐は立ち上がり、窓に向けて手榴弾を投げ込む。ガラスを突き破り室内に転がり込んだ手榴弾が直後に爆発する。

 近くの茂みに隠れていた男たちが殺到してきて、彼女の空けた窓から室内に飛び込んでいく。その最後尾に常磐は続く。もっとも彼女自身は既に一仕事を終えたつもりになっている。

 事実、火力と吶喊が主体となる戦闘になってしまえば拳銃程度しか持ち合わせていない常磐が頑張るよりも、精強無比の陸軍歩兵たちに任せた方が遥かに戦果があがる。

 後は姿を消しながら突入する彼らの後ろを守るのが最良の選択肢であった。


 常磐たちの分隊が裏口から突入を開始するよりも早く、別荘の正面に陣取った兵士たちは行動を開始していた。

 先ほどのカウントダウンに合わせて、各々が照準を併せていた兵士たちは一斉に狙撃を行った。姿を暴露していた哀れな標的がなす術も無いままに一瞬で排除される。

 同時に、小笠原みづきの呼び出した死者たちが正面玄関に向けて前進を開始する。

待ち構えていた和光捷子配下の少女たちの抵抗も激しく、裏口のようには簡単に扉を抜くことはできなかった。次々に兵士たちが倒れていく。

 だが、彼らの犠牲と引き換えに少女たちの潜む火点を見出した後続の兵たちが一斉に反撃に移り次々に火点を潰していく。

 正面を担当していた兵士たちの役割は陽動の意味合いもあり、必要以上に派手に動いていた。小銃や手榴弾は元より、無反動砲や機関銃まで持ち出して火力で圧した。武器の所持に関して極めて厳格な規制の敷かれた新日本国内においてあり得ないほどの銃火器が用いられたおかげで別荘の外観は見る間に廃墟のごとく破壊されていく。

 銃火に曝された経験のある筈などない少女たちに太刀打ちできるものではなかった。

 完全に頭を押さえつけられ、抵抗が無くなったその隙をついて隊の主力が壁に穿たれた破孔から突入を開始した。

 先陣をきるのは飯尾(いいお)史奈乃(しなの)だった。

 一瞬で50メートル近い距離を駆け抜けた彼女は室内にいた少女の一人を目がけて手に持っていた短機関銃を掃射した。

 足を射ち抜かれて悲鳴をあげる少女を無視して史奈乃は次の獲物を探す。

 獣じみた敏捷さで敵が反撃をしてきたのはその時だった。常人では考えられない動きで迫ってきたその少女は、握っていた金属バットを史奈乃目がけて振り下ろす。

 完全に捉えられたと思われたその一撃を史奈乃は無造作にかわす。背後に回った史奈乃を見失った少女の後頭部に短機関銃の床尾を叩きつける。

「坂木班長殿!二名捕獲です!」

 追いついてきた坂木がその様子を見やりながら呆れたような声を出す。

「おい、無理に全員捕まえなくていいぞ」

「わかってます」

「あ~、でも廣山捷子と煤ヶ谷柑那はできたら生け捕りにしてくれ」

「……随分な無茶ぶりですね」

 その時、坂木の無線に通信が入った。

「おう、こちら第二分隊……あ?二人やられた!?わかった。すぐ向かう」

 短いやりとりの後で坂木は顔を顰めた。

「奥に一人、ヤバい奴がいるらしい。おそらくお前と同じカミカゼだ。頼むわ」

「了解」

「ヌカるなよ?ヒヨッコどもに遅れをとったら笑ってやるからな」

 一瞬、ムッとした表情を浮かべた後で史奈乃は疾風のような速さで駆け出して行った。

 後に残された坂木はそっと息を吐いた。

 近くで足を射たれて倒れていた少女と目が合う。ニッコリと優しく笑いかけたつもりだったが、少女は怯えた表情で「ヒッ!?」と悲鳴をあげた。

「そう怖がんなよ。どうせおまえとも長い付き合いになるんだから仲良くしようぜ?」

 凄みの効いた微笑を浮かべてみせた後で坂木は近くにいた兵士の一人に捕獲した少女たちを後方に連れて行くように命じた。

 イレギュラーとはいえ、捷子によって呪詛を受けてしまった彼女たちの回収もまた坂木たちの任務に含まれていた。


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