8、集束する戦火(その3)「みづき、強襲」
轟音と共に扉がひしゃげ、同時に兵たちの群れが銃剣を閃かせて突入してきた。
一瞬で制圧された室内にゆっくりと小笠原みづきが姿を現すと、兵士たちに取り囲まれ憮然とした膨れっ面を浮かべる少女に声をかける。
「柚香、哲を何処に隠した」
森本柚香は胡坐をかいたまま不機嫌極まる声で答えた。
「しらねーよ!てゆーかここにはいないし」
その手には彼女のすぐ隣に据えられた指向性散弾地雷の起爆スイッチが握られていた。みづきもそれに気がつき、声をかける。
「こんな狭い場所でそんなモノを使えば自分も巻き添えになるぞ」
「上等さね。またアンタを道連れにするならそれも悪かぁねぇし」
みづきは鼻を鳴らした後で兵士たちに柚香を解放するよう命じた後で「別れ」と声をかけた。英霊たちが敬礼と共に姿を消したのを確認して柚香も舌打ち混じりにスイッチを投げ捨てた。
部屋を見回し、みづきは鼻を鳴らした。
「やはり、哲はいないか」
「いないと思うなら突入してくるなし!ぶっ壊れた玄関どうしてくれんのよ!絶対あんた弁償してよ!?」
みづきは数秒間、自らが破壊した玄関を眺めた後で、懐から無造作に札束を取り出して柚香に抛った。それっきり踵を返してさっさと立ち去ろうとする。
「邪魔をしたな」
「待て待て待て。アッタマきた!」
柚香が憤怒に頬を膨らませて立ち上がり、みづきの肩を掴むなり札束をその胸につき返す。
「てゆーか、これどうせヤバい金っしょ?こんなので修繕費払ったらあたしが捕まるじゃん」
みづきの性行を考えて柚香は確信的にそう尋ねた。案の定だった。
「ならばどうしろというのだ。他に手持ちはないぞ」
「ほぉ~??だったらお嬢ちゃんのその体で払ってもらおうか」
手をワキワキさせながらにじり寄ってきた柚香がセーラー服の胸元に差し入れようとするその手をみづきは捻りあげた。その掌に何かが握られているのに気づき、摘まみ上げる。
「階級章……?」
「それとこれ、あんたの復隊の為の出頭命令書。あんたが来たら渡すように言われてたの忘れてたわ」
柚香が机の上から折り畳まれた紙片を取り出してきてそれを突き出してきた。中を見開き、みづきは複雑そうな表情を浮かべた。
「悪いが今は戻る訳にはいかん。私にはなすべき事がある」
「あのさー、あんたを見つけちゃった以上はそういう訳にもいかないっしょ」
「断る」
階級章と共につき返そうとしたその手を今度は柚香が止めた。
「てゆーか、これは今の状況ならあんたにも悪い話じゃないと思うけど?」
無言のままにみづきが尋ね返す目をした。
「ぶっちゃけ、うちはもうおショコの動きは大体のところは掴めてるのよね。そんで、近々におショコのバカを仕留めに動く事になるってワケ。だったらあんたもさっさと戻ってきた方がお互い好都合じゃね?」
「……にわかには信じがたいな。いくら貴様らでもあの廣山捷子が易々と尻尾を掴ませるとは思えん」
「そこはそれ、おショコの近くに一人うちの奴を送り込んでるのよ。そんで、そいつから連絡があったってワケ。……まぁどうしてもあんたが今は戻りたくないってんなら貸しにして見逃してあげてもいいけどさー?あたしの利息、チョー高いよ?」
少し考え込んだ後でみづきは告げた。
「いや、異存は無い。いずれこの件が終われば戻るのだからな。……しかし」
「なによ?何か不満?」
「……わかってはいるのだが、また赤ベタの三等兵に逆戻りか」
掌の階級章を眺めながら珍しくぼやいたみづきに噴き出し、柚香はその肩を叩いた。
「わかる~あたしもだよ。ありえないよね、これ?いい加減、死んだらリセットされるの何とかなんないのかねぇ。俸給さがるし」
それから柚香は身を震わせ、小さくクシャミをした。吹き抜けになった玄関を恨めしげに睨みながらいそいそとコートを着込んだ。
「とりあえず、一緒に出頭して原隊復帰しようぜ。あんたのせいでこの部屋クソ寒くてかなわないし」




