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6、月に怯えて逃げ出せども(その5)「今、桃鉄やってるから忙しい」

 慌てた様子で哲を部屋に押し込んだ後で、柚香はすぐさま鍵をかけてドアチェーンまで落とした。

 それから哲を睨んでくる。

「……てかアンタ何しに来たのさ。マジでちょっとヒくんだけど?」

「あぁゴメン、ちょっとストライクゾーンだったからテンション上がっちゃった。てゆーか助けてほしいんだよ!電話で言っただろ」

「いや、今のあたし見てストライクとかヤバいっしょアンタ。マジキモいんだけど」

 恐怖に慄いた顔で柚香は拳銃を突きつけてきた。

 部屋の奥の方から「ユズちゃん大丈夫~?」と別の少女が顔を出すのが見えた。振り返りもせずに柚香は答える。

「来るなお寧!こいつロリコンだからあんた狙われるぞ!」

「うぉい!?人を勝手にロリにカテゴライズすんな!」

 本人の否定にもかかわらず、正直いって目の前の柚香と同年代に見えなくもない童顔の少女に哲は見覚えがあった。和光捷子と交戦した時に、柚香と一緒にいた少女だ。確か、名前は寧と名乗っていた。

 向こうもこちらの顔を覚えていたらしく、哲を見やって笑みを浮かべた。

「あれ?何処の変態さんが来たのかと思ったらみづきちゃんのカレシくんじゃない。哲くんだっけ?」

「や、やぁ!その節はどうも……てゆーか、ちょっと助けてくれないかな?」

 冷や汗を流しながら救いを求める哲を、寧はなんともいえない表情を浮かべて見つめてきた。

「とりあえず、ユズちゃん銃下ろしたら?ったら後始末とか色々大変だよ~」

「いや、こいつは信用ならねー。変態を部屋に上げる以上、身の安全は確保しとかないと」

「ご、誤解だよ。いくら僕でも三次元の小学生に手は出さないよ」

「いいから手を頭の後ろで組んで。下手な真似したらマジで射つからね」

 銃口を向けたまま、柚香は哲に部屋にあがるように促してきた。

 狭いキッチンを抜けると六畳一間ロフト付きの空間が広がっていてる。照明も点けていないのに部屋が見えるのは、随分と型落ちしたゲーム機を繋いだテレビが光を放っているからだ。香水の匂いなのか、妙に甘ったるい室内には、柚香と寧の他にもう一人、見覚えのない少女が座っていて哲を物珍しそうに見つめていた。

 高校生くらいだろうか。二人と並ぶと一人だけ年嵩に見えてしまう少女と目が合うと、おっとりとした微笑を浮かべて会釈をされたので思わず哲も頭を下げ返した。

「とりあえずボンビーくっつけといたから」

「ちょ、ふざけんな!卑怯だぞ」

 少女たち三人は随分昔のテレビゲーム機ですごろくボードゲームをやっていたらしく、青い電車の後ろで貧乏神が尻を振っていた。腹立ち紛れにチョコレートを口の中に放り込みながらクッションに腰を下ろした柚香が哲を睨んでくる。

「ったく、あんたのせいだかんな?」

「それは冤罪だよぉ」

「んで?何しに来たのさ?てか、どうやってあたしの居場所突き止めたのよ」

「えぇと、なんとなく。前にこの辺り住んでるって聞いてたし、たまたま近くまで来たら偶然見つけて」

「ふざけんな変態」

 毒づく柚香の傍らで寧が目を丸くした。

「うわ、すごいね。哲くんってホントにそういうの()()ちゃうんだ?プロのストーカーになれるんじゃない?」

「……プロのストーカーってなに?」

「いやホントすごいよ。なんならその力を活かせるいい仕事紹介するよ~?超絶ブラックな職場だけど大歓迎されるよ~♪」

「いや、超絶ブラックな仕事はちょっと」

 哲がイヤな勧誘を断っていると、コントローラーを操作しながら柚香が口を開いた。

「てゆーかさ、今ヤバいから連絡してくんなって言ったじゃん。報告ならメールでいいって」

「違うんだよ!いや、ミヅキさん絡みの話なのは違いないんだけど、今日は助けてほしくてきたんだ!お願い」

「やだ。悪いけど忙しいから無理」

 どう見てもやる事がなくて昔のゲームで暇潰ししてるようにしか見えない少女に冷たくあしらわれた。

「ちょっ!?せめて話くらい聞いてよ!この通り!」

 冷たいフローリングに額をゴリゴリ擦りつけて土下座をお見舞いする哲を、柚香が不快そうに横目で見やった。ゲームの手を休める気配は無い。

「あ~もうウザい!哲あんた、そうやって頭下げ続けてたらあたしが何でもすると思ってるでしょ?」

「ユズちゃんの場合、その戦術は性格的にあながち間違ってないよね~」

「うっさい、余計な事言うな!あとその駅、あたしが独占するから物件買ったらぶっ殺す」

 カチャカチャと少女たちがゲームに勤しむその間も哲はひたすら頭を下げ続けていた。

 どうやらゴール間近で思いどおりのサイコロの目が出なかったらしい柚香が小さく悪態を口にした後で、ため息混じりに尋ねてくる。

「…………で、なに?」

 残る二人のクスクスという笑いを尻目に、内心で安堵を覚えつつ哲は頭を上げて自らの置かれた窮状を訴え始めた。


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