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5、魔女たちの大釜は煮えた(その9)「消耗戦を分かつもの」


 敵の無反動砲によって上部構造物が吹き飛んだ。

 激しい震動が校舎を包む。オンボロの旧校舎は今にも崩れ落ちそうだ。悲鳴をあげて蹲る哲の横で、残る二人は平然と窓から外を見やっていた。

「すげぇな。ありゃ、アメリカ兵じゃないか。初めて見たぞ。おまえ、呼べるか?」

「自分も初めて見ます。というよりも、久那守葉月の呪いが米兵の霊魂に及ぶとは思えません。恐らくは廣山捷子が何らかの作為を加えた為に偶発的に召喚されているのではないかと思います」

 暢気に解説している二人の頭上に銃弾が飛び込み、窓ガラスが割れた。

 哲は悲鳴をあげ、喚く。

「どうするのミヅキさん!」

「知れたこと。こちらも兵を出す」

 みづきの言葉に哲は頭を抱える。

「えぇ?でも、無理だよ!あんな奴らに勝てないよ」

「勝てない?何故だ?」

「だって、日本ってアメリカに戦争で負けちゃったんでしょ?日本は無駄に突撃するばかりで弱かったって習ったよ」

 太平洋戦争の折、日本軍はろくな装備も食糧も持たずにアジアを侵略した結果、連合国軍の反攻の前に無闇な攻撃を繰り返して敗北した。軍事に詳しくない哲だってそれくらいは授業で習った事がある。

 みづきは呆れたように哲を一瞥した後で、すぐに視線を戻した。

「第一次大東亜戦争の事を言っているのならば、あまり反論はできないな。たしかにあの大戦で我らは不覚をとった。戦場における戦術以前に兵力、物量、兵站の全てで戦う前から負けていた。否定はしない」

 敵の攻撃が止んだ。みづきが例の日本兵たちを呼び出した所為かもしれない。

「消耗する兵の補充、兵器の配備、弾薬、食糧――あの時の我らには何もかもが与えられず、敵はそれを用意できた。その意味で奴らは世界最高の軍隊だったのだろう」

 言葉を紡ぎながら何がおかしいのかみづきは笑みを浮かべた。

「――さて、名も知らぬ米兵の指揮官よ。貴様にそれが担えるか?」

 穴の空いた窓の向こう、激しい銃撃の音が再び響き渡った。



 兵士たちは正面からぶつかり合った。

 無数の銃弾が交錯し、敵への接近を試みる為のフェンス沿いの木立の回廊を巡って日米の死者たちは激しく争った。

 射ち込まれたM2重機関銃の12.7ミリ弾の威力に日本兵たちが体を引き千切られて消滅する。木の上に潜んだ日本兵の狙撃によって、米兵たちの指揮官が胸を射ち抜かれて後送される。手榴弾の爆発で兵士たちが吹き飛ばされた。

 序盤は米兵たちが優勢だった戦況は、時が経つにつれて形成が逆転していく。いつの間にか米兵たちは追い立てられて後退を続け、次々に数を減らしていく。対する日本兵はやられてもやられても次々と戦線に復帰していく。

 いつの間にか、米兵たちは火力でも圧されていた。機関銃により、頭を抑えられて動けない彼らの周辺に、八九式重擲弾筒の砲弾が弾着する。

 爆風に煽られ、新校舎の陰でディアナは悲鳴をあげた。

「きゃああっ!?なんなのよ!おまえら何やってんだよ!ちゃんと戦えよ!」

 米兵たちは応えず目の前の敵に射撃するばかりだった。

 ふと近くに目を向けたディアナは、そこに落ちている物に気づく。闇夜にも生々しいピンク色の紐のようなものが木にぶらさがっている。その紐の先を目で追い、ディアナは絶叫した。堪えきれず嘔吐する。爆風で上半身が引き千切られた兵士が腸を露出させていた。

「いや……いや……なんなのよこれ!もういや!帰る」

 泣きじゃくり、震えながらディアナはよろめき立ち上がる。

 その彼女の近くに砲弾が落下した。幸い、砲弾は爆発しなかった。代わりに白煙を撒き散らす。次々に落下する砲弾が、辺りを白煙で染めていく。何も見えない。

 敵の機関銃が唸り、煙の向こうから無数の弾丸が浴びせられた。顔もあげられない。

 射撃が止んだその瞬間、煙幕に紛れてにじり寄っていた日本兵たちが鯨波の声と共に吶喊してきた。

 残余の米兵たちが射撃によって何人かを打ち倒すが、数に勝る敵の突撃は止まらない。日本兵たちは絶望的な抵抗を続ける米軍兵士ごと、一挙にディアナを蹂躙した。


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