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5、魔女たちの大釜は煮えた(その8)「砂川ディアナ」

 砂川ディアナという名前は本名だ。

 幼稚園から始まって小中高といずれも彼女の名前を学籍簿などで目にした者は戸惑いの表情を浮かべ、そして彼女の顔を見てようやく納得した面持ちで彼女を受け入れるのである。

 彼女は日米の混血ハーフであった。

 父親は横須賀を母港とする空母「キティホーク」の乗組員、母の方の職業は未だにディアナにもよく分からない。

 二人は六本木のクラブで知りあって交際が始まり、翌年にはディアナが生まれた。籍は入れなかったという。ディアナが3歳になる頃、父は配置替えとやらで本国に戻り、ディアナたちともそれっきり音信不通となった。あまり母親は落ち込んだ様子もなく、次の「パパ」を彼女のアパートに連れてきた。以降、ディアナの前には入れ代わり立ち代わり合計六人の自称父親が現われた。

 正直、どうでもいい事だった。

 彼女が親に感謝した事と言えば、見てくれだけは良かった母親と白人の父親の血が混ざり合ったことで生み出された美貌とスタイルが人生を生きる上で彼女の強力な武器になったという事と、実の父母の両者とも古い祖先が民間のまじない師であり、その事が少なからず彼女の力の発現に影響を及ぼしたというその二つの客観的事実だけだった。

 前者は学生生活において常に彼女を校内ヒエラルキーの上位に押し上げ、クラスの男子たちを惹き寄せる効果を及ぼしたし、後者はディアナを和光捷子に引き合わせてファッション雑誌の読者モデル以上の収入を彼女に与える事になった。

 そしてディアナは今、彼女のもつ後者の力を存分に発揮しようとしていた。

 石橋美怜から会敵と集合の連絡が入った時、ディアナはその召集に応じなかった。わざわざ校舎に入って立て篭もる敵と戦うなんて面倒くさい真似をする必要なんてなかったからだ。

 いい加減、冷たい夜風に吹かれて寒い思いをするのはうんざりだったし、あまり接近しすぎて服が汚れるのも嫌だった。ディアナは買ったばかりのコートの襟を合わせた。

 ショボい田舎の町に建てられたボロくてダサい後者をその碧い瞳で睥睨した後で、ディアナはそっと振り返り、そこに男たちがいるのを確認した。

 彼女は何処にいても女王だった。大概の男たちは彼女の事を羨望の眼差しで見つめ、そしてディアナが頼み込めば大抵の事は聞き入れられた。

 今も同じだ。

 彼女に背後にいるのは絶対にディアナの命令に逆らわない彼女の兵隊たち。皆、一様に背が高くゴツい体をした屈強なマッチョたちだ。高い鷲鼻に金色の髪の白人もいれば全身闇に紛れたような真っ黒な黒人もいる。

 捷子の話によれば、アメリカ兵らしい。

 ディアナは女王に相応しく尊大に片手をあげ、振り下ろした。父親ではなく元カレの留学生に習った英語で告げる。

「オープン・ファイア」

 途端、後方の兵士たちはM1ガーランド銃と、地上に銃座で据えつけたブローニングM2重機関銃(キャリバー)で一斉に射撃を開始した。

 ディアナのバッグから大音量で音楽が流れ出す。彼女のスマートフォンが着信音を鳴らしているのだ。

 電話をかけてきたのは岸町綾香だ。他の奴らより先に和光捷子と出会った事だけを自慢に、捷子に取り入って威張り散らすウザい奴。

「もしもし~?なに?」

『何じゃないわよ!あんた、何やってんのよ?今何処にいるの』

 電話に出るなり怒鳴りつけられ、ディアナは舌打ちする。

「はぁ?何って、小笠原みづきぶっ殺そうとしてんだけど?」

『ふざけないで!私たちが校舎にいるのよ!?当たったらどうするのよ!?』

 ディアナは鼻を鳴らして笑った。

「平気平気、上の階から順番に叩いてるから。今おまえら居るの一階でしょ?あ、でも流れ弾当たったらごめんね~」

 まだ何か騒いでいる綾香を無視して電話を切る。

 青白い顔の米兵が、バズーカを構えて射ち込んだ。旧校舎の屋上付近が爆ぜる。

「いいよ、おまえらジャンジャン射っちゃって」

 スマホのカメラで面白半分にその様子を撮影しながらディアナは告げる。だが、彼女の意に反して米兵たちは勝手に射撃を止めていた。

 別に彼らがディアナの命令に逆らった訳ではない。怪訝な顔をしたディアナもそれにすぐ気づいた。

 敵が、現われていた。

 九品学園の周囲を囲む木々の端々に見え隠れする男たちの姿が彼女の目にも映る。

 ディアナは口を捻じ曲げ笑う。

「へぇ……あいつも兵隊使えるのかよ」

 和光捷子のお泊まり会のメンツでも何人かは兵隊の亡霊を操れる。彼女たちの追う小笠原みづきが同じ事をできても不思議ではなかった。

 だが、ディアナは余裕の笑みで敵を嘲り笑う。

「ぷっ、なにその汚い奴ら。もう死にかけじゃん」

 みづきの召喚した兵士は日本人たちだった。全員がチビで痩せ衰え、着ている軍服もボロボロでイケてない。

 対するディアナの操るのはアメリカ兵だ。これはディアナ以外の誰にも真似できない彼女だけの力だ。

 今まで米兵を呼び出せたという事例は殆んどないらしく、あの和光捷子も目を丸くして驚いていた。

 そして彼女の呼び出す米兵はどれもデカくて強い。試しにお泊まり会の他の仲間と戦わせた時も常に楽勝で圧倒していた。

「ダサっ、日本ってアメリカにボコられて負けたんでしょ?そんなので勝てる訳ないじゃん、バカじゃね?」

 敵を鼻で笑った後で、ディアナは再び兵士たちに「敵をやっつけて(キル・ジャップス)」と命じた。


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