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5、魔女たちの大釜は煮えた(その5)「集結地点」

「はいはい、遅くなりました。オッケーです。こっちはようやく全員揃いました」

 九品とかいう聞いたこともない地方都市の駅前に広がる微妙な規模のバスプールを見やりながら石橋(いしばし)美怜みれいは報告の電話を入れていた。

 チラリと覗いた腕時計の時刻は夜の10時をとっくに回っている。元々の集合予定時刻を一時間以上も超過していた。

 こんな事がなければ生涯降り立つ事もなかったであろう地方の小都市は、東京から来た美怜の目にはひどく貧相な街並みに映る。

 駅前だというのにろくな商業ビルや娯楽施設もなく、目につくものは何処にでもあるハンバーガー屋とコーヒーショップのチェーン店くらい。この街の若者たちはいったいどうやって遊んでいるのだろうか美怜は疑問を覚えた。

 ふと目を転じた先に、寂れた外観の建物にホテルの看板表記を見つけて美怜は暗澹たる気持ちになる。

 今から一仕事してから帰るとなると恐らくは終電には間に合わないだろう。

 かといって近くにオールで遊んで時間を潰せるような場所はなさそうだ。今日は何処かに泊まって帰る羽目になるだろう。何の面白みも無い街で、たいして親しい訳でもない連中と高いホテル代を払ってお泊まり会というのはあまり興が乗らなかった。

 それに、これから行う事を考えれば、その当事者がその後で呑気に同じ町でホテルに泊まるというのも問題な気もする。

 その辺りを厚かましくならない程度にさりげなく確認してみたところ、電話相手はタクシー代なりホテル代は後日請求すれば支払ってくれると約束してくれた。さすが一流企業の会長夫人は気前がいい。

「……でも、ホントに大丈夫なんですか?学校とかで暴れちゃっても?ウチら捕まらないんですよね?はい、はい。わかりました」

 一番気になっていた部分の確認を終えてから美怜は携帯電話を切った。いくら成功の暁にはご褒美がたんまり貰えるとはいえ、その代償に警察に捕まったりしてしまっては元も子もない。

 電話口の相手――和光捷子はおかしそうに笑って美怜の不安を吹き飛ばしてくれた。

『大丈夫ですよ。貴女たちが集まって力を合わせれば、警察なんかに捕まる訳が無いでしょう?それに、もし万一の事があっても私の方で何とかします。皆さんの大事な経歴に傷なんてつけられませんもの。それでは、よい報せをお待ちしておりますよ』

 実のところ、普通に考えれば美怜も自分の心配が杞憂である事はわかっている。今日は大怪我をして追い詰められた敵をみんなでやっつけて帰るだけなのだ。

 もし騒ぎになってお巡りに追いかけられたって、美怜はいつものように姿を隠して見えなくなればいいだけだし、いざとなったらソネっちたちの力を借りて強行突破してしまえばいいだけなのだ。捕まる筈がない。

 要は、慣れない荒仕事に怯える自分を叱咤して背中を押して欲しかっただけなのだ。

「じゃあこれから向かいます。今野さんの話だと歩いて20分くらいらしいんで……。はい、頑張ります」

 携帯電話を切り、美怜は振り返る。そこには、彼女の仲間である少女たちが六人集まっている。

 前回、病院の襲撃の時には功を焦るあまり、連携もとらずにバラバラに襲撃を仕掛けてしまい獲物を取り逃がしてしまった反省から、今度は協定を結んであらかじめ有志たち全員で一致して協力し合い、小笠原みづきを仕留める事になっていた。

 石橋美鈴と曽根埼そねざき瑠菜るなはその透明人間みたいに姿を消せる能力を活かして偵察要員として組み込まれ、前回みづきを取り逃がした名誉挽回に挑む。

 岸町きしまち綾香あやかはお泊まり会のメンバーでも古参で和光捷子の信頼も厚い少女だったし、彼女と組む上里瑠琉亜もまた急成長を遂げる若手のホープだ。

 もう一組のうち、三田えみりの方は良く知らなかったが、彼女と組む砂川ディアナはバリバリの武闘派として知られている。

 他に、この近隣に住んでいるというルーキーが一人、支援の為につけられていた。

 今野朝莉という名前の少女で、つい先日、お泊まり会に初めて参加したばかりの新人だ。

 さすがに正面きって荒事をやらせる訳にはいかないものの、不慣れな土地で見張りや道案内などをやってくれる味方がいるというのは心強いものだ。

 なお、小笠原みづきを仕留めた際の報酬について和光捷子に確認したところ、報奨金は全員で等分する代わりに色をつけてくれるとの事だった。一人頭で計算してみたら、それでも庶民にとっては大金だった。美鈴たちが小笠原みづきを追い回す理由は、捷子への心酔だけが理由ではない。

 問題はチームワークだった。

 砂川ディアナは当初、協力を拒絶して小笠原みづきを一人で叩くと強硬に主張していた。

 和光捷子の仲裁により渋々共闘を受け入れたものの、明らかに協力的ではない。そもそも、美鈴たちの集合が大幅に遅れたのも、遅刻したディアナを待っていたからなのだ。

 岸町綾香たちとの関係も微妙な所だ。先日の病院での一件では互いに連絡をとらないままに各個にみづきに襲撃をかけた結果、現場が混乱して彼女を取り逃がす要因となったのだ。

 あの時はお互いに責任をなすりつけあい、軽く口論になってしまった。

「それじゃあ、行きましょうか。学校までは歩いて20分くらいです」

 新人の朝莉の声に少女たちは一様にげんなりとした。ディアナなどは露骨に嫌そうな顔をして告げてくる。

「マジで?二十分とか、かったるくね?タクろうぜ?どうせマダムが出してくれんだろ?」

「ダメだ。こんな時間にこれだけの人数が高校に向かったら怪しまれるだろ。それに帰りがけのタクシーに万一目撃されたらどうするんだ」

 綾香が窘める。心情的には美怜もディアナの案に賛同したいところだったが、言い分としては綾香の方に理がある気がする。

 ディアナはバカにしたように綾香を見やると、さっさとタクシー乗り場に足を向けてしまう。

「あ、おい!ディアナ!勝手な事をするな」

「あ~マジウゼぇ。歩きたきゃおまえら勝手に歩いてくりゃいいじゃん。あたし歩くとかマジ無理だし」

 制止する綾香を振り切り、ディアナは相方と共にさっさとタクシーに乗り込んでしまった。

「くそ!あいつ勝手な事を」

「どうするの?」

「ヤバくね?ディアナの事だから絶対あいつ抜け駆けしたりしそうじゃん」

 他の少女たちがタクシーを見送りながら文句を叫ぶ。到底これから夜道を長々と歩いて目的地に向かう空気ではなくなっていた。

「岸町さん。しょうがないから皆でタクシーで行こうよ」

 美怜の申し出を、綾香ですら今度は拒絶しなかった。

 初っ端からグダグダになっている今回の共闘作戦に一抹の不安を覚えながらも、進み出てきた次のタクシーの後部座席に美鈴は飛び乗った。


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