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4、少女は夜に目覚める(その6)「素敵なお泊まり会(下)」

 案の定、浅莉たちの前に運ばれてきた昼食は豪華なイタリアンだった。次々と運ばれてくる料理を前にして少女たちが歓声をあげる。

 同じイタリアンを名乗っていても、近所にあるファミレスで出される物とは別種の食べ物だなとか、こういうコース料理はお店だと幾らするんだろうとかしみったれた事を考えながら、朝莉は慣れないナイフとフォークを操り、ソースのかかったステーキを口に運ぶ。量だけはファミレスの勝ちだったが、味は比べようもなかった。

 食後の紅茶を楽しんだ後は、それぞれが別れての自由行動になった。

 敷地内にあるテニスコートで汗をかいても良し、バスに乗ってすぐ近くの温泉施設に行っても良しとの事で、他にもインドア派の少女に対する配慮なのか、大量の漫画とゲーム機やパソコンが置かれた漫画喫茶みたいな娯楽室も別荘内に設けられていた。

 人気だったのは、捷子を囲んでのお茶会だった。

 朝莉も参加するか否かで散々悩んだが、古参の取り巻きらしい少女たちの輪の中に飛びこんでいく勇気がもてず、瑠琉亜に誘われるままにお屋敷探検隊の一員となって別荘内をそぞろ歩いた。

 他の別荘とは比べものにならない広大な敷地内で手入れされた庭園や雑木林を巡る。もう少し季節が遅ければ楓の紅葉を見られたかもしれない。少し斜面になった雑木林の彼方には紺色の海が顔を覗かせている。

「夏だったら海水浴も楽しめるらしいよ」

「ねぇ瑠留亜、あっちにも建物あるけどなんだろ?」

 朝莉の指差す先には二階建ての建物がある。

「あー、あれはジムだよ」

「ジム?お金持ちはこんな所まできて体鍛えるの?」

 瑠琉亜たちは顔を見合せただけで何も言わなかった。

 それにしても広い。幾ら天下の平和金属会長の別荘とはいえ、個人の所有としては余りに広い敷地に無数の建物は、年に数度しか使われない保養施設にしては盛大な金の無駄遣いに見えた。

 その種明かしは瑠琉亜がしてくれた。

「あはは、てゆーかこの辺り一帯は捷子さんの会社が保養目的で買い取ってるみたいだし。ほら、社員の研修用やレクリエーションにも使える福利厚生用の施設って訳。だからあの別荘も維持費は会社の経費扱いなのよ」

「え、それって大丈夫なの?」

「大丈夫なようにやってるんでしょ。お金持ちはそういう所上手いからね~それに実質、平和金属は和光会長の力で成り立ってるようなもんだし。ここの維持費の何十倍も稼いじゃうんだから文句なんかつけられないでしょ」

 ケラケラと笑いながら瑠琉亜は訳知り顔で答える。

 林の中の小道が途切れた所で池の見える小さな庭にぶつかり、そこで東屋でお茶を楽しむ捷子たちと出くわした。

「あら、お散歩かしら?よければちょっとここで休憩して、一緒にお茶など如何?」

 捷子の誘いに少女たちは歓声をあげて飛びついた。


 夕飯は中華料理だった。

 北京ダックだのフカヒレだの鮑だのが大皿に山盛りになって次々と運ばれてくる。燕の巣はどうやって食べればいいのだろう。

「こ、これが満漢全席って奴ッスか?いつもこんなご馳走づくめなの?ここは」

 だんだんとそら恐ろしささえ覚えながら朝莉は瑠琉亜に尋ねる。

「あー、割といつも凄いけど、今日は朝莉のおかげかな」

 瑠琉亜は巨大な海老にむしゃぶりつきながら答える。

「新しい子が入ったら大抵お祝いになるから。今日は朝莉含めて四人も新人さんが来てるでしょ?」

「なんでまたそんな気前いいのかな?捷子さんは」

 訳知り顔の瑠留亜は他の少女たちが話を聞いていないのをそっと確認した後で声を潜めた。

「お金持ちの道楽。若くしてお金持ちの人妻になっちゃったら、なかなか普通の女子高生ライフは満喫できないでしょ。その憂さ晴らしじゃね?」

「え~。大変なのね、玉の輿も」

 朝莉は捷子の身の上に同情した。

 なんでも捷子は身寄りのない子供たちの養護施設にいた所を、慈善活動中だった和光惣吉に見初められて彼の後妻に収まったという。聞いただけならば物凄いシンデレラストーリーだった。

 もし自分が彼女の立場だったら、と朝莉は考えてしまう。

 突如、超金持ちの大企業のトップと結婚するというのは女性の密かな妄想を具現化したような話だが、相手は八十過ぎの老人なのだ。そこには愛以外の要素が少なからず介在していると考える方が自然だろう。莫大なお金や社会的地位と引き換えに、老人相手に青春を捧げる結婚生活とは果たして幸せなのだろうか。

 思わず視線を送っていると、それに気がついたらしい捷子がこちらに微笑を向けてきた。

 慌てて顔を赤らめる朝莉に、瑠琉亜が小声で告げてくる。

「ま、もう一つの理由はもうすぐわかるよ」

「え?なにそれ?」

 小龍包を割り、溢れる肉汁をふぅふぅと啜った後で瑠琉亜は囁く。

「この後、夜10時からの夜の茶話会。このお泊まり会のメインイベントよ」


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