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11、交戦する月(その2)「霊気誘導弾」

 もはや獣道と称すべき山道を哲たちが雑木林の枝葉を掻き分けながら進んでいたその時、突如、播磨の携帯電話が震えて着信を示した。

 相手先が文字化けして表示されないのもそうだが、もはやどう考えても通話圏外以外の何物でもない場所でかかってくる着信は超常現象の域に達していた。

 播磨は一瞬だけ躊躇した後で電話に出る。

『お久しぶりです、播磨大尉殿』

 かかってきた女の声は半ば彼が予想していた人物だった。

「廣山、英霊たちに皇軍相撃を強いる無体はやめろ。これ以上の無益な抵抗をやめて速やかに投降するんだ」

 播磨の声に、電話口の少女は、クッと嘲るように咽喉の奥で笑った。

『生きて虜囚の辱めを受けず――そう私たちに強いてきたのは貴方たち将校殿ではありませんか、大尉殿』

「我々は敵ではない。友軍同士だ」

『いいえ大尉殿、私たちはいかなる意味においても敵であります』

 まだ何事か反論しかけた播磨の袖を柚香が引っ張った。

「ねーちょっと。ヤバいって」

「なんだ森本、今、廣山と話しているところだ。後にしろ」

 邪険に応える播磨に柚香は膨れっ面をした。

「じゃあ勝手に死ねば!?おミヅ、誘導!」

 言うなり、柚香の足元で何かが火を噴いた。濛々たる白煙を周囲に撒き散らしながら何か円筒状の物体が飛翔していく。

 同時に、蒼空の彼方から何かが飛来してきた。誘導弾――そう認識できる動体視力の持ち主がどれほどいたか。ただ一人、虚空を睨むみづきの紫の目が妖しく輝く。

 一瞬――人間たちが殆んど何のリアクションもとれない至短の時間に二つの誘導弾は交錯し、大爆発を起こした。爆風と破片が周囲に撒き散らされた。

 事態もわからぬまま引っくり返っていた哲を、顔中埃塗れになった播磨が引き起こす。

「怪我はないか」

「なにが起きたんですか?」

「やられた。廣山捷子が俺の携帯電話と繋げた霊道を使って誘導弾を射ちこんできた……迂闊だった」

 説明を聞いてもさっぱり意味はわからなかったが、播磨たちが敵に嵌められたというのだけは理解できた。

 起き上がり、泥を払っていた哲の目の前に播磨の携帯電話が転がっていた。ディスプレイにヒビが入り二度と使用には耐えられそうもないそれを、みづきが拾い上げて耳にした。

「捷子」

 驚いた事に破壊された筈の携帯電話はまだ機能していた。

『あら残念、まだ生きてたのね』

 みづきの食いしばった歯がギリと音を立てた。

「見くびるな、霊気誘導は私が貴様たちに教えた技だ」

 電話口で和光捷子が楽しげに笑った。

『そうだったわね……教え子の成長を感じていただけましたか、小笠原助教ドノ?』

「あぁ、もはや是非もない。捷子、首を洗って待っていろ」

 言いざま、みづきは携帯電話を抛り、軍刀の一閃で両断した。

 近くの茂みに吹き飛ばされていた柚香がゴホゴホと咳き込みながら顔を覗かせる。

「ちょっとおミヅ……なんか偉そうに言ってたけど、今それ防いだのは私なんですけど?」

「黙れ弾薬庫(アーセナル)。貴様はその為にいるのだろう」

 吐き捨て、みづきは再び軍刀を掲げる。

 爆風に傷つき倒れた兵士たちが再び立ち上がり銃を手に執った。

「前進を再開する。奴ら、小細工を弄するまでに追い詰められているぞ」



 今度こそ不通となった電話を置き、捷子は失望混じりの溜め息を洩らした。

「ごめんなさい、失敗してしまったわ」

 その傍らでは汗みずくになりながら柑那が呼び出した兵士たちの指揮を執り続けている。

「あ~ドンマイドンマイ。ま~しょうがないでしょ、うまくいったら儲け程度だったんだし……うわ、まずい!?小笠原兵長、紫電改まで投入してきた」

「すごい汗……柑那、大丈夫?」

 不安げに捷子が差し出したハンカチを受け取りながら柑那は苦笑いを零した。

「さすがにちょっと疲れたかな。これだけの英霊殿を一度に呼び出して動かした事なんて初めてだから……さすがは小笠原兵長殿だよね。やっぱりあの人は化け物だわ」

 敵を賞賛する柑那に捷子の顔が曇る。

「柑那――そろそろ遅滞行動に切り替えましょう。いよいよになったら貴女だけでも落ち延びて。私が時間を稼いでみせるわ」

「あはは、そんな顔しないでよ?大丈夫よ、私は負けないわ」

 柑那は笑顔で力こぶを作ってみせた。

 その時、尖塔に置かれていた無線機がけたたましいドイツ語の会話を傍受した。

 緊迫したやりとりが幾つも交わされている。

「なんて言ってるの?」

 柑那の問いかけに捷子は首を振る。

「警察無線よ。古城の辺りで爆発音がしてる。テロじゃないかって」

「え~こんな時に警察まで雪崩れ込んでくるの?面倒くさいなぁ、どうするの?」

 捷子は尖塔から見える眼下の光景を睥睨しながら口許をきつく結んだ。

「近づかせるものですか。誰にも私たちの邪魔はさせないわ」


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