11、交戦する月(その1)「独逸の空に皇軍機は相撃する」
みづきが振りかざし、そして虚空を断ち切るように突きつけた軍刀の一閃とともに兵士たちが林縁に隠れるようにして動き始める。
哲も柚香に促されて兵士たちの後を追い始めた。
その兵士たちの眼前で突如、巨大な火の玉が現出した。
続いて哲たちの周囲にも同じく幾つもの火球が炸裂し、爆発が生じる。
「砲弾落下!退避!退避!」
誰かが叫ぶ。
突然の事に立ち竦んだまま呆然とする哲に柚香が飛びかかってきて引きずり倒された。
「くっそ、いきなりかよ!?」
唸りながら柚香が手に掴んだ強化繊維プラスチック製のヘルメットを哲の頭に押し被せてきた。自身もそれを被りながら怒鳴る。
「中佐殿、おミヅ!生きてる!?」
近くの窪地に潜り込んでいた播磨がスーツを泥だらけにしながら顔を覗かせた。
「どうやら動きを読まれていたようだな。廣山め、既に布陣を終えていたか……十時方向に敵火点だ、効力射の前に反撃できるか!?」
「了解、爆撃を開始します」
みづきが一瞬祈るかのように目を瞑り、精神を集中させる。
途端、彼らの頭上を何かが高速で通過していった。脚を剥き出しにして、胴体下に爆弾を抱えた3機のレシプロ機。その名称を九九式艦上爆撃機という。
敵の砲兵陣地上空に達した九九式艦爆は次々と急降下を開始していく。地表にぶつかりそうな低空で爆弾を投下して機首を上げて飛び去っていく。
次の瞬間、轟音と共に大爆発が起きた。幾つかの榴弾砲らしき物体が兵士たちと共に跳ね上げられるのが見えた。
更に三機の九九式艦爆が続いて爆弾を投下する。敵の砲撃は止まっていた。
「よし、前進を再開する。今のうちに距離を稼ぐぞ」
再び古城に向けて進軍を開始した彼らの頭上を、三度、九九式艦爆が越えていく。
残余の砲兵陣地を叩くべく猛然と進む三機編隊を哲は足を止めて見送り、
「あっ!?」
思わず声をあげた。
別の方角から空を過ぎって近づいてきたレシプロ機が、九九式艦爆めがけて怪鳥の如く襲いかかり機銃を放っていた。
算を乱して遁走する九九式艦爆が敵機を振り切れず、火を噴いて墜落していく。
近くにいたみづきが空を見上げて呟く。
「隼か……柑那、腕を上げたな」
敵機を見つめるみづきの目には何故だか敵愾心以外の感情が含まれていた。
日本陸軍一式戦闘機「隼」。その卓越した機動性により支那事変より太平洋戦争にかけて活躍したレシプロ戦闘機である。
最後の九九式艦爆を追い詰めようとしていた隼が直前で機首を翻した。その鼻先を曳光弾が掠めていき、新たな機体が姿を見せていた。
今度は哲にもわかった。
というか、彼はそれくらいしか知らなかった。
零式艦上戦闘機――太平洋戦争を通じて日本海軍の主力戦闘機であった機体だった。
ドイツの空で半世紀以上も昔の日本の陸海軍機は激しくぶつかり合った。
まるで踊っているかのごとく、蒼空にいくつもの戦闘機の弧が生まれ、そして力尽きた機体が黒煙と共に墜落して爆散する。
復活した敵の砲撃が哲たちの行く手を阻み、その砲兵陣地を叩くべく飛来した九七式艦攻が隼の迎撃を受ける。
零戦と隼が巴戦のドッグファイトを繰り広げる横を通過した九九式艦爆が地表に爆弾を降り注ぐ。
生き残りの砲兵たちが続行する砲撃が一行の足を止め、城までの最短ルートを進ませない。やむなく選択した迂回路の先で待ち構えていた敵兵たちとの銃撃が幾度となくかわされた。




