10、そして僕たちは戦場に向かう(その6)「迎撃戦闘用意」
魂消るような絶叫をあげた後で、少女はガクリと崩れ落ちた。
金色の髪が床に飛び散るように広がり、その碧眼は見る見る光を失っていく。
「失敗……また失敗。やっぱり、日本人でなければ久那守葉月の呪いは発現しないの?」
事切れた少女を見下ろし、和光捷子は溜め息をついた。
この地に暮らす少女たちにも久那守葉月の呪詛を植えつけて統制できれば強力な味方になるという彼女の目論みは、これまでのところ異国の少女三人の命をもってしてもうまくいっていなかった。
久那守葉月の呪詛が日本人に向けられたものである以上、いくら捷子の力をもってしても海外の少女に発現させるのは至難の業であった。
これ以上、行方不明者を出させればさすがに地元の警察にも目をつけられるかもしれない。
やはり、百鬼の陣を築いて防御を固める方が現実的かもしれない。だがこちらもやりすぎれば日本帝国の諜報員たちに感づかれてしまう。
溜め息をつき、捷子は少女の遺骸を引きずった。
地下室に設けられた穴倉に投げ込み、隠蔽するつもりだった。
不意に捷子は顔をあげた。
地下へと続く階段を下ってくる足音を耳にしたのだ。
慌てて遺体を隠そうとしたが、間に合わない。先に扉が開き、柑那が顔を出した。
彼女は気まずそうに顔を伏す捷子を見やった後で、声をかけてきた。
「ダメだったの?」
「うん、ごめんね柑那」
柑那が捷子が地下室で犯した所業について批判を口にした事はなかったが、その性分からいって彼女がそれを好ましく思っている筈がなかった。
「謝るのは私じゃなくてその子にでしょ」
「そうね……もうやめるわ。もうしない」
「それがいいわ。かわいそうよ」
柑那は頷き、少女の遺体に両手を合わせた。
その後で、ポツリと呟いた。
「――それに、どの道もう間に合わないわ。追っ手がもう向かってきてるみたい」
「え――そんな筈はないわ!?」
捷子の悲鳴混じりの声が地下室に反響した。
「どうやって私たちの居場所がばれるって言うのよ!偽装工作は完璧だったし、門倉君の始末だって済んだ筈よ!こんな早くに露見する筈がないわ」
宥めるように捷子の肩に手を置き、柑那は事実だけを告げる。
「近くの空から、挺進部隊が降下していたわ。ドイツの空挺部隊ではなかったわ」
「……まさか、小笠原みづきが来るって言うの」
震える捷子を柑那は抱き締めた。
「捷子、大丈夫。捷子が頑張ってくれた分、今度は私が守ってあげるから」
「柑那」
「だって私は、貴女が創ってくれた最高の呪詛感染者よ。私たち二人なら、あの久那守葉月と蘆屋彌稚乃にも負けないわ」
捷子の手を握った後で柑那は、力強く微笑んでみせた。
「さぁ、合戦用意よ」




