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起死回生マジシャン  作者: flat
第一章 国立魔法学園東雲高校
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第八話 朝の勧誘

翌朝、目を覚ますとやけに固いところで突っ伏して寝ていた。

 起き上がると、端末を開きっぱなしで寝ていた。昨日、課題研究で端末から情報を引っ張り出そうとしたところまでは……覚えているんだ。

 提出は週明けだし、焦らなくてもいいか。転校してきたばかりだから、課題は一応少ない方らしい。

 学校へ行くまでまだ時間はある。シャワーでも浴びてくるか。

 椅子から立ち上がり、クローゼットから着替えを取りに行こうとした矢先、もう電池が残り少ない端末から、着信音が響く。

 ディスプレイを見ると、俺の師匠、早乙女早苗からだった。

 「もしもし」

 「久しぶりだな。とはいっても、数日ぶりだが」

 相変わらずのローボイス。状のこもった声が俺の耳の中で響く。

 「どうされたんですか? こんな朝早くから」

 「いや、お前がしっかり学校生活をできているか、チェックをだな……」

 おいおい、親バカになってどうするんだよ……

 でも今まで子供の様に慕ってきた俺を未開の地に放したわけだから、心配するのも当たり前の事か。

 「で、学校生活はどうだ?」

 「……」

 いきなり名家のおぼっちゃんから喧嘩買いましたなんて、言えねえよ!!

 「どうした?」

 「い、今のところ順調です」

 嘘ついちまった……

 「そうか、よかったじゃないか。では、またいつか電話をかける。それまでな」

 「は、はい。師匠もお元気で」

 茫然としたままで、俺は師匠との会話を終えた。なんとも心臓に悪いものか。嘘までついてどうするんだよ。

 「ご飯出来だぞー、早くこーい」

 そして、蘭の元気のよい声。

 早く飯食べて、シャワー浴びなきゃ間に合わねえな。

 端末を充電器に装填し、俺は急ぎ足で食間へと向かった。






 「あ」

 学校への行く途中、隣を歩いていた蘭が声を上げ、その場に立ち止った。

 俺たち二人が歩く姿を見る生徒が何人かいるが、そんなこと気にしている暇なんてない。

 蘭の視線の先には、みんなとは、反対の方向を向いている一人の女子生徒。

 学年別に支給されている腕章を見ると、一つ上の人のようだ。

 俺らが足を止めたのを見計らって、女子生徒はこちらへと歩み寄る。

 「おはようございます。天道蘭さん」

 「おはようございます。日下部さん」

 日下部……この人が、『生徒会』”エース”の日下部先輩か。

 「あら、そちらの方はもしや……」

 すごく変な目で見られた。何を期待しているんだこの人は。

 「あー、別にそういうのじゃないですよ。幼馴染です。ついこの間、転校してきたばっかりなので、一緒に登校しているだけです」

 そういうのって、一体どういうのだよ。

 聞こうと思ったが、空気的に会話に入れるようなものではなかった。

 表情からわかるが、蘭の機嫌が悪くなってきている。癖なのか、つま先で何度も地団駄踏んでいるのがその証拠だ。

 「何の用ですか。こんな朝早くから」

 「生徒会の件なんですが……考えてこられましたか?」

 そうか、この人、蘭に生徒会に入るよう勧誘していたのか。どうりで、機嫌悪いわけだ。

 こいつの性格上、物事とかなんでも、スパッと手短に終わらせるタイプだから、こういう真逆のタイプの人に付き纏われるのは、相性が悪い。

 「あのね、何度も言っているでしょ? 私は、何があろうとも、生徒会へは入りません」

 「往生際が悪いですね。生徒会へ入れば、試験なんて楽々パスできるんですよ?」

 「あんたそのために生徒会へ入ったの? 私は、物事を手短に終わらせるタイプであって、楽をしようだなんてこれっぽっちも思っていないから!」

 「なかなかいいこと言うじゃないですか。……しょうがないですね。こうなれば、またあれをしましょうか」

 日下部さんは、おろしていた右手を前に突き出す。

 「まさか、また私と決闘?」

 「それ以外、どんな手段が?」

 おいおいマジかよ。

 見ているこっちもこっちだが、朝っぱらから公道で意地の張り合いはよしてくれよ。

 日下部さんの目もマジだし、蘭もいつでも行けるような感じではあるけれど……

 こうなったら……

 「あのー」

 賭けに徹してみよう。彼女が一体、俺の言葉にどれだけ揺らぐか。

 「なんだ? 君は」

 「えっと、東瞬です。昨日からこの学校に転校してきたもので、その……俺が言うのもなんですが、少しは蘭の気持ちを尊重してあげたらどうですか? 確かにこいつは、魔法の才能は十分有ります。けれど、才能だけあっても、本人の入りたいという意思がなければ、それは理に叶わないんじゃないでしょうか?」

 よし、我ながらに決まった!

 「ほほう。転校生。いいこと言うじゃないかね。友達思いもいいことだ」

 これでこのまま、引き下がってくれれば……

 「だがな、小僧よ。魔法界はそんなに甘くはないぞ。口先だけで通用するのは子供だましまでだ」

 静かな口調で、さっきまでとはまるで違う低音の声で俺にささやき、日下部さんは歩いて行ってしまった。

 「何言われたの?」

 心配してくれたのか。と思ったが、普通の表情で残念だった。

 「ちょっと、社会の常識っていうものをね」

 「??」

 少し言い過ぎたな。これは。





 「で、あの日下部さんに楯突いたわけか?」

 昼休み、聡と大樹と一緒に食堂で昼を取っている。その話題として、朝の話が出てきた。

 「別に楯突いてはいない。当たり前のことをそのまま言っただけ」

 「それでも、相手はあの”エース”だよ? その人に意見しただけでも十分すごいと思うよ」

 「甘いな、大樹。瞬の事だ。転校してきて初日の実習授業で齋禅林をぼこって、なおかつ今日は生徒会役員に口出しだぜ? もう瞬の名前は知れ渡っているんじゃないか?」

 そうであってほしくないな。好印象を残して知れ渡るのはいいが、何しろ好印象どころか、印象なんてないまま知れ渡りそうだ。

 「でも日下部さんてあれでしょ? もとは『古代魔法』の使用者で、誰からも相手にされないのが悔しくて、独学で『特有魔法』を取得したらしいよ」

 『古代魔法』から『特有魔法』を独学で取得……だから彼女は、今朝あんなこと言ったのかもしれない。

 才能が勝ち取れなければ、自分で勝ち取れっていう訳か。

 「今では付加もできるんだよね。そう思えば、生徒会に入るのもおかしくはないよね」

 「努力の賜物っていうやつか?」

 彼女は自分にはまだ、可能性があると信じていたから、今の彼女があるんだ。

 俺みたいに可能性も無くなった欠陥品なんて、努力したところで着いてくるのは時間の無駄遣い。

 だから俺は死に物狂いになった。みんなのように簡単に掴み取れるものよりも、ごくわずかにしか届かない光を求めて。だから……

 「瞬。そろそろ行くぞ」

 気が付けば、聡たちがお盆を片づけて教室へ戻ろうとしていたところだった。

 「先行っていいぞ」

 聡たちにそう告げ、お盆を片づけに行った。

 ……もちろん気づいていた。聡たちと話しているときも、今も。

 どこかで、一つだけ妙な気配を感じるのを。

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