第六話 模擬戦
「さて、本当のことを言ってもらおうか」
はてはて……
確か今は実習の授業。生徒それぞれが、教師から出された課題をこなしている最中。
なのに、俺はなぜか銃を向けられている。MGではない。魔法を流動できる実弾銃だ。
ああ、確か複数の人間に襲われた時の対処だっけ。
なら、話が早いのだが、どうみても関係のない話題が突っ込んできている。
「何のことだよ」
「とぼけるな、青二才。貴様と蘭さんの関係を聞いているのだ」
これまた青二才と。
ごみ屑と言ったり、プライドの高い人はホント忙しいな。
「悪いけど、お前らが思っているような……」
そういや、この前婚約者とか言ったな。
まあ、誤解を解いても状況は変わらないはずだし、いいか。
「大体さ、あいつのどこがいいの? ガサツですぐ暴力は振るう。魔法は手加減できねえし、お前らよくあんないい加減な女を美女とか言えるよな」
普段、言うに言っているため、どうってことない。小さいころから口喧嘩だったり、殴り飛ばしたりしていたからな。かわいいところなんて探しても……
ふと、転校前夜の蘭の顔が思い浮かんだ。
常時可愛ければいいってものじゃない。あいつみたいに時折かわいくなればそれはそれだが……
「貴様ぁ、その口を……」
「おっとストップ」
今でも銃口から魔法を放ちそうな齋禅林を、俺は片手で制止した。
ほかの連中も魔法を発動する準備に入っている。
「やるなら、ちゃんとやろうぜ? お前、銃なんかで本気出ないだろ。本気で来いよ」
俺の言葉に、齋禅林は銃を横暴に投げ捨てた。
いいね。やる気の目になってきたよ。
「さてと、制限時間は十分。お前らに平民の力、見せてあげるよ」
平然と装う俺の態度に、齋禅林を筆頭に、顔が強張っていた。
「ふざけるなぁ!!」
その言葉と同時に、齋禅林を含む全員が魔法を発動した。
全員、魔法の構築が早い。
これが魔法学園の生徒か。
魔法式は、簡単に言えば詠唱文を筆跡化したようなものだ。
しかし、魔法式は自分の魔力で脳へと送り込み、発動プロセスの信号を送ることで、初めて魔法が具現化―――発動となる。
しかし、誰もが初めて見た魔法式を自分の物にできることはない。
最終的に、魔法師は自分の組みやすい魔法式を組む。上級魔法師ほど、魔法式が簡略化され、発動プロセスを大幅に短縮できるわけだ。
それは、属性魔法だけのことであって、付加・補助魔法においては、元の魔法式を改変することはできない……というか、それ以上縮小するのはまず無理だ。
高校生ぐらいになると、ほとんどの人が戦闘用魔法を使いこなせるようになるが、稀に、魔力の大幅減少を防ぐために、『マジックギア』と言われる魔法式補助構築武器を使っている。
タイプは、腕輪だったり、銃だったりと様々なものがある。
そして、こうした実習授業でも、過度な障害を起こさないようMGを使うはずだけれど……
あいつら、何もつけてねえじゃん。
あれこれ言ったところでしょうがない。あとで先生にたっぷり叱ってもらうとしよう。
「せやぁ!!」
前方の生徒二人が、火属性の魔法を放ってくる。後方では、水属性で遠距離を行うもの、そして、齋禅林が悠々と立っている。
俺は身体強化魔法を発動し、前方の二人の懐へ瞬時に入る。
ここでわずか1秒。
身体強化を纏った俺の拳は、二人の男子生徒の腹を抉った。直接打撃の耐性がなかったのか、結構なところまで飛んで行った。
そして、後ろで援護していた男子生徒に直撃。
たった一回の攻撃で、残すは齋禅林だけになった。
「おいおい、まさか属性魔法使ってる魔法師が身体強化だけの魔法師に一発KOか?」
笑えねえな。
そんなんで、魔法師なんざ、名乗っていられるのも今の内だ。
「どうする? 続けるか?」
茶化すように、俺は齋禅林に言う。
もちろん、こんな状況になったからには……
「貴様ぁ!!」
声で俺をけん制しようとしたのか、齋禅林の大声は拡散魔法によって、何倍ものボリュームで聞こえたが、俺にとってはただの雑音にすぎない。
「そうこなきゃな」
俺はにっ、っと笑い、腰から愛用のガバメントを露わにした。
「MG? ふん、笑わせるな。そんなもので……」
俺は銃を構え、照準を合わせながら、魔法式の構築を始める。今からそんなものから出る魔法を見てろよ。
齋禅林は両手に電気を帯び、足元には魔法陣を開いている。
「俺を倒せるのかぁ!!」
雷属性遠隔魔法『放電による火花』
俺をボコボコにするには十分な魔法ってことかよ。
でも俺はぶれない。ギリギリのところでトリガーを引いた。
属性特有の光でもなく、銃弾でもない何かを発動し、その光は齋禅林には当たらなかった。
「ふざけないでくれよ。牽制をするにももう少しましなやり方があるだろ?」
「誰もお前を牽制なんかしてねえよ」
牽制なんて言う、逃げるような真似はしない主義なんでね。
『放電による火花』は俺をめがけて進んでいく。
火花を散らしながら、地面を這う電気はまるで、獲物を見つけた野獣のよう。
しかしその野獣も、獲物よりも力が劣ればただの獣。哀れで、無能な獣でしかない。
「なっ……」
魔法は当たらなかった。
いや、正確に言えば途中で魔法は消えた。
茫然とする齋禅林は、何が起きたのかわかるはずがない。
「何故だ? 何故僕の魔法が……」
慌てふためいている齋禅林にお構いなしに、再び銃口を向けた。
「貴様……何したんだ」
「さあ、何したと思う?」
言ってもわかるはずがない。
もう、この世からは忘れ去られてしまったものだから。
忘却の彼方へと放置され、手を差し伸べすものは極僅か。掴み取ったところで、使いこなせるのに一体、幾日の月日を費やすのか。
けれど俺は違かった。
あるものを引き替えに、別の力を手に入れた俺は、この『古代魔法』しか使えなくなった。
みんなと同じ境遇を歩みたかった。
なぜ自分だけなのか。
誰に問うても、分かる者はいない。答えを導き出してくれる者はいない。
なら、自分で答えを出せばいい。
それが、今の俺だ。
これが、俺の魔法。
「これでも……っ!?」
魔法を発動する齋禅林の隙を俺は逃さない。
即座に身体強化魔法で、背後に回る。
その距離、わずか5M。
照準を合わせずとも、ここからな銃撃を浴びせられる。
あいつの思考回路は回っていない。
最後の一発を放つのであれば、ここが最大の好機だ。
魔力具現化魔法『魔法弾』
収縮、放出、拡散、硬化など様々な段階発動において発動する無属性攻撃魔法。
俺の魔力がそのまま具現化された、小さな弾丸は、齋禅林のどこかで乾いた音と共に弾けた。
三半規管に軽いダメージを与えたため、自然に気絶した。
「ふぅ」
俺は、脱力感をまじえながらのため息をつくが、どうにも安心できない。
時間はまだ残っているはずだ。魔法吸収装置が、解除された時の生徒の表情を思い浮かべながらそれなりの言い訳を考えた。
「ここは素直に……」
俺は目の前でのびている奴に、視線を向ける。
さすがに、気が付いた時には泣き喚きながら、先生に実習中の事を言わないのは分かっている。ただ、今後の事を考えれば、さすがにやりすぎたかもしれない。
それに、クラスの連中は齋禅林が俺を吊し上げに行ったと、噂になれば、一人思い当たってもほしくない人が、尋問してくるからいやだ。
「そういえば」
昨日の朝、俺を襲撃した奴の事を聞けばよかったな。まあ、聞いたところでまどろっこしい関係になったから、しょうがないか。
ブーーーーーッ
すると、実習終了の合図のブザーが鳴った。
自動的に魔力吸収装置が解除され、生徒たちは、疲れた表情をしながら、先生の指示に従う。
そんな。
「おいおい、瞬。まさか……」
すっかりと、言い訳を考え忘れていたところに、聡が口を挟んできた。
まだ気絶している……
さて、言い訳はどうしようかな。
とんだ初めての実習授業だった。
しかしこの後、また更に面倒なことに巻き込まれていく。