第五話 売られた喧嘩
※趣味で書いています。
後々説明しておくのも、面倒なので、ここで説明してしまおう。
魔法と言う人類に変革をもたらした超常現象が出現して早三十年ほどが過ぎた。魔法には、属性と呼ばれるものが存在し、その属性が均衡な力を保たれることで、魔法の存在は成り立っている。属性はすべてで、6つ。火、水、雷、風、光、闇に分けられ、この6つは“6大属性”と呼ばれている。魔法師は、生まれた時の天性によるものであったり、血筋が古くから使われていた魔法であったりなど、固有の魔法を所持するのは各々違う。また、1属性=人間一人分の魔力と計算しているが故に、一人で2つの属性魔法を使うことは、一般論から考えられていない。記録上、そのような人物もいまだに発見されていない。
しかし、付加・補助魔法の類のものは、どの属性にも部類されないため、教えれば使えるほどだ。
この付加・補助魔法も魔法師次第で、自分の持つ固有魔法に付加を施すことができる。
これを、大魔法辞典と呼ばれる、云わば魔法用語の塊から引用すれば、『特有付加魔法』もちろん、全員が必ずしも、この状態が起きるというわけではない。魔法によって、付加できないものもあり、魔法師の体質で、何らかの異常反応を起こす場合もある。
しかし、付加が施されない魔法であっても、使い方次第で魔法師の能力は変化していく。それが、魔法と言うものなのだ。
一方で、現代の魔法が進化していく中、昔存在していた魔法がだんだんと存在を消していくものも多い。
属性を持たない属性魔法。『無』である。
一般的には、付加・補助魔法の連続的な発動、所謂段階発動が無属性の証明となっている。
一見、付加・補助魔法と身体的、物理的、または魔法の発動時において何らかの作用に使われると思うが、魔法に付加を加えず、段階的に発動することによって一つの魔法として、作り上げることができたのは、魔法が誕生して10年後のことだった。
それが無属性と呼ばれたのは無論、属性を持たないからである。だが、無属性魔法の使用は、6属性の魔法因子を持つ魔法師にとっては、害のある魔法でしかない。過去に闇属性の魔法と使う魔法師が、無属性を使ったところ、魔法因子に副作用が起き、後遺症を残す大惨事になった事例もある。
そして、無属性は魔法大辞典にもその姿は消し、後世からは『古代魔法』と呼ばれるようになった。
その『古代魔法』を使う人物が、日本のトップに君臨する最強魔法師の集団『キングダム』の元帥の、天道純一郎がその一人だ。『破滅の先駆者』の異名で通っている彼は、日本で唯一、『古代魔法』保持者として、名高い称号を手に入れたのだ。
この『古代魔法』の存在で、魔法学園に入りたくても、入れない人が幾人かいる。古代の衰えた力では、力を携えた現代の魔法には勝てないという固定概念が今では広がっている。それが原因でいじめなどの問題が起こり、いつしか学園内で格差が起きたりなどの問題になっている。
しかし、例外も例外だ。
『古代魔法』というハンディを抱えながらも、魔法元帥の座に就いた方がいれば、史上最年少で、国家ライセンス最高のAランクを一発でパスした少年も、『古代魔法』の保持者であった。
翌日、学内では俺の話題で持ちきりだったようだ。
それは昨日からの話ではあるが、何せその話題と言うのは、転校初日の朝に、学年一の美女である蘭と共に登校し、挙句の果ては周りを取り囲んだ蘭のファン(とかってに推測している)を蹴散らしていき、更には齋禅林にまでも、喧嘩を売る形になった。という風に聡から聞いたのだが……
俺はいつ喧嘩を売った?
もちろん、売られた記憶もない。むしろ、売られても買わない。師匠と危ない仕事をこなしていたせいか、面倒事には巻き込まれたくない主義だからだ。
冒頭のように、学内では朝からそれで持ちきりだ。頼むから俺を巻き込まないでほしい。
「なあ、東君」
そんな朝、自分の席で今日の日程を確認していたところ、一人の男子生徒に声をかけられた。
身長は俺と同じくらい。顔にある絆創膏を見て、昨日、俺たちが保健室へと運んだ生徒だった。
「あ、昨日の……傷の方は大丈夫なのか?」
「おかげさまで。素手でやられていたから、まだいい方だったよ」
その証拠として、男子生徒は右腕に力こぶを見せる仕草をした。
「僕の名前は神戸大樹。東君。よろしくね」
「俺のことは瞬でいいぞ。よろしく、大樹」
互いの名を知った俺らは、同時に小さな微笑みを浮かべた。
「朝から友情ごっことは、余裕だね」
不意に、俺の背後から聞きたくもない声が聞こえた。振り返らずともわかる。齋禅林と、その他諸々だ。昨日の因縁を、再び突きつけてきたのか、さては噂通り喧嘩を売りに来たのだろうか。
「おはよう。神戸君。ケガの方は大丈夫かな?」
わざとらしい言い草に、俺は歯を食いしばる。昨日殴るだけ殴ればよかったと、後悔している。
大樹の方は、下を俯きながら、俺と同様歯を食いしばっている。
「お前ら、それだけを言いに来たのか?」
「まさか。僕らが訳もなく、ごみ屑に話しかけると思うのか?」
皮肉な言葉ではあるが、俺には何の脅迫にもならない。
「俺らをはぐらかしに来たのなら、さっさと失せろ。そうじゃなきゃ、要件を早急に言え」
俺はポーカーフェイスを保ちながら言うと、齋禅林は舌打ちをしてからこう言う。
「貴様みたいなごみは、僕らが排除する」
ただ。ただ、それだけを言って彼らは踵を返して教室へと出て行った。
「なんだったんだか」
頭を掻き毟りながら、彼らは一体何がしたかったのやら、教室のドアを見つめた。
「瞬、そろそろ一限はじまるよ」
大樹に肩をゆすられ、あたりを見ると、ほとんどの生徒は教室にはいなかった。
はて、一限は……。
「実習だよ。急がなきゃ遅れるよ。実習の先生遅刻には厳しいからさ」
「それはやばいな……」
俺と大樹は、駆け足で実習室へと急いだ。
実習室は、結構な広さを持っていた。
俺が思っていた実習室は、せいぜい体育館くらいの大きさ。けれど、実物は途轍もなかった。
どこかの巨大なコンサート会場じゃん! と思わせるくらいの広さに、観客席まで備わっている。実技棟は第一実習室から、第五実習室まである。ここ、第一実習室は一番大きな場所となる
ただ、魔法学園は莫大な資金を持っていたことは、この施設を見て思う。
「それでは、実習を始めたいと思う。今日は、複数の相手との対処についてだ。えー、複数の戦いにおいて……」
おいおい、複数相手ってどうみても軍の訓練じゃねえか?
まあ、元々そんなような学校だし、魔法学園のほとんどの卒業生が軍関係の職に就いているっていうから、この授業もその一環かもな。
「それでは、転校生がいるため、相手は……」
「僕がやります」
転校してきたばっかの俺への配慮なのか、先生はともに実習を組むものを探していたところに、一人の男子生徒が挙手した。
「おお、齋禅林か。じゃあ、お前に頼むからな」
「はい」
嬉しそうに返事しちゃって……
よりによってあいつとペアかよ。
しかも、複数っていうからあいつの仲間もくっついてくると思うけどな。
「瞬、大丈夫か?」
横から聡が心配そうに声をかけてくる。
「まあ、なんとかなるよ」
さてと、面倒だけれど行ってくるかな。
悠々と立ち上がり、先生のもとへ歩む。
「制限時間は十分。大けがすると危ないから、魔力吸収エリアを張っておくから」
「解りました」
「さあ、行こうか。東君」
気色悪い微笑みを俺に向け、齋禅林は魔力吸収装置の中へと入った。
俺は再度、腰に装備している愛用のガバメントの感触を確かめてから、売られた喧嘩を買いに行った。