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起死回生マジシャン  作者: flat
第一章 国立魔法学園東雲高校
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第四話 いがみ合い

「よくもまあ、あんな出鱈目言えるわね」

 手続きを済ませ、職員室の入り口で待ってもらっていた蘭は、朝同様機嫌がバリバリ悪かった。

 魔法で女の子の機嫌が直る物とかないんかなぁ。こういうとき、魔法って何のためにあるのかっていう疑問が生じる。普段何気なく使っているけれどさ。

 「まあ、あの時はあの時だったからさ」

 「そ、そうだよね」

 はぁ。これで何とかやり過ごせたけれど……

 クラスはB組。蘭と同じクラスだって聞いたときは少し安心したが、俺としてはいささかいい気分ではない。むしろ、気をつけろと言っているかのように。

 「私は先に教室に言っているからね」

 「おう、またあとでな」

 さて、俺も今度は事務室で……

 気のせいか。

 首筋がピリピリとする感じは、この数年で起こるようになった、危険な感覚。後ろは振り向かず、どの距離に敵がいるのか、どこに潜んでいるのか魔法ではわからない。これは経験上の問題だ。

 敵は一人……けどこんな学校内じゃ下手に攻撃はできない。

 腰のホルスターに手をかけようとするが、下手な真似をすれば逆に攻撃される。逃げる。のほうが正しいが、もし相手が有能な魔法師だったら、さっきと同じ結果だ。

 くそっ、自由に身動きができないのが一番苦なんだよ。

 まだ距離は詰まっていない。

 まさか、遠距離射撃? いや、普通のガバメントだとそれは不可能だ。ライフルでなければ……

 その瞬間。

 今朝起きた板倉さんとの戦闘状態と同じように、俺は振り向きざまに、仕掛けてあったピックで牽制した。

 だが、相手は素手で来ていない。本物の銃弾で俺を攻撃してきやがった。

 腕を掠めたが、足をやられなかったのが幸いしたのか、痛みの無い右手で再びピックで銃撃の場所へと投げ込む。

 しかし、そこにはもう誰もいなく、気配も感じられなかった。

 誰だったのか……俺は腕の痛みも忘れてどのことばかり考えていた。



 俺の転校初日の朝は騒然としていた。

 もちろん、B組もそれなりの騒ぎになっているだろう。何せ、転校生である俺が時間になってこないこと、心配した担任が事務に連絡を入れたところ、保健室にいると聞いて真っ先に来たのは蘭であったこと。

 もちろん、隅から隅まで説明した。

 応急手当は済み、曲げることぐらいは出来るので、普通に授業は参加することにした。

 こうして異例の高校生活をスタートさせた俺だが、なんと今朝、校門前で軽い口論となったあの金髪の少年と同じクラスだということ。それだけではなく、何人かあの輪の中にいたやつらもいた。

 金髪の少年だけだが、名は“齋禅林月読”

ということ。齋禅林っていっちゃあ、雷属性の魔法で有名な名家だ。これは下手に何かしたら俺の素性が知られる危険があるな……

 初日から前途多難だな。ほんと。

 昼休みは何となく一人で過ごし、多少の質問攻めにもあったが、みんないいやつだった。―一部を除いてだがー鬼無里聡という友人もできたので、いいとしておこう。

 「へえ、お前と天道さんは幼馴染なんだな」

 放課後、ホームルームを終えた俺らは帰りの支度をし、帰宅するものが多い。この学校には部活動と言う風習がない。

 「ああ、腐れ縁っていうやつかな。小さいころから仲が良かったんだよ」

 「というと、理事長とも面識あるのか?」

 何故か不思議そうに聞いてくる聡。俺は迷わず首を縦に振る。

 「へぇ、そいつはすごいや」

 そうか、こいつらにとってはすごい事なのか。まあ、魔法元帥の座に就く大魔法師なわけだからそうだよな。

 教科書をすべて鞄にしまい、俺は聡とともに昇降口へと向かう。聡はこれから友達と喫茶店で夕食、俺は蘭一緒に校舎を回るつもり予定だったが、朝の騒動により、今日は街めぐりと言うことになった。

 「そういえばさ、瞬はなぜこんな時期に編入してきたんだ?」

 唐突な質問。もちろん、何度かその質問はされてきたが、あっさりと返してしまったため、明確なことは何一つ話していない。

 「んー。俺アメリカの魔法学園から来たっていっただろ? 実は俺の親がアメリカで仕事しているんだけれど、お前もそろそろ言い年頃なんだから日本の魔法学園に行きなさいとか言われてさ。それが理由だよ」

 半分……どころからほとんど嘘だ。でっち上げた話。親の希望と言うのは本当の話だ。

 「アメリカってこっちと比べてどんな感じだった?」

 興味津々に、目を大きく開かせながら、まるで無邪気な子供の様に聡は俺に詰め寄ってきた。

 アメリカ自体、いたことは確かなんだけれど、学校は行きもしなかったから説明のしようが……

 「機会があったらまた話すよ。俺もまだここの学校の事まだ知らないからさ」

 「そうだな。早く友達も作って……」

 昇降口へと着き、自分のクラスの下駄箱へ行こうとした矢先、俺ら二人の目の前に一人の男子生徒が倒れこんできた。その生徒は聡の友達の一人だった。

 俺らはダッシュで駆けより、男子生徒を起こす。

 俺は、体全体を回転させると、そこには今朝、蘭を取り囲んだ男子生徒の数人がいた。

 「こいつら……天道さんと東君を……」

 顔中、傷がつき、意識が朦朧としている。魔法でやられた形跡はない。殴打による傷で間違いない。

「お前、何した」

 怒りをあらわにし、目で威嚇するが、

 「なに、余計な口出しをした、ごみ屑に天罰を与えただけだ」

 「誰がごみ屑だ!!」

 カッと熱くなる聡を俺は右腕で制止する。ここで猪突猛進に走ったら相手の思うつぼだ。

 「ふん、僕らのような将来有能な魔法師と、一緒の教室で勉強できることを誇らしく思え」

 分かっている……ぶん殴りたい気持ちは分かる。けどこれは仕事じゃないんだ。俺はここで今、手を出せば、学生としての身を失くすことになる。

 聡も同じようだ。力いっぱい拳を握りしめ、目の前の有能集団にいつでも殴りかかる態勢ができている。

 「貴様、今朝天道さんと一緒にいたやつだな」

 傍らにいる生徒が俺に言葉の牙を差し向ける。

 「お前のような平民が、易々と天道さんに近づくな。許嫁だか何だか知らないが、貴様はこの齋禅林月読が潰す」

 そういい、目の前に右腕をかざした。

 金輪際、蘭に一切近づくな。という意を込めての威嚇か? 校内では魔法の使用は禁止されている。使用し、ばれたら教師からそれなりの罰則が下る。

 となると。

 「威嚇か?」

 「そうだな。けれど、それはお前が首を横に振った時は、この手から魔法が発動する」

 「いいのか? ばれたらどうなるのかぐらい、お前だって分かるだろ?」

 規則上、魔法にも殺傷ランクもあり、それぞれ使用制限されている魔法もある。

 齋禅林の場合、雷属性の魔法を使う。殺傷系の魔法が多いし、戦闘用にも多く用いられる。彼の場合、戦力的には、小隊ほどの戦力には対応できる。

 俺もここだと、『分離魔法』は使えない。魔法が使えないのなら、マジックギアも無理。軽い殴り合いであれば、どうにかなるのだが……

 「さあ、答えは?」

 と、聞かれて首を縦に振ると思うか? なんて言ってみたい。明らかにあっちの方が有利だ。どうにかして、聡たちだけでも……

 「瞬? 何しているの?」

 ふと、横から聞きなれた声が耳に入った。視線を横に向ければ、蘭がいた。

 でも何故ここに……なんてことは聞かずとも、もともと俺と蘭の待ち合わせ場所が昇降口であったからだ。運悪く、蘭は現在俺らが陥っている状況に、立ち会ってしまったのだ。

 「それに……齋禅林君?」

 ぴくり。と、名前を呼ばれた齋禅林はかざしていた手を下げた。

 どうやら、蘭本人が出てくると何も言えないようだな。有能な魔法師も、目が引かれるものがあれば、所詮無力となるのか。

 「これはこれは、蘭さん。奇遇ですね」

 化けの皮をかぶっている齋禅林は、礼儀正しく一礼する。

 「では、僕たちはこれで」

 くそ、やるだけやり、言うだけ言ってずらかるのかよ。

 けど、今はあいつらに構っている暇はない。俺は颯爽と、聡たちのもとへ駆け寄る。

 「ちょっと瞬? これどういうことなの?」

 ええい、今はお前に構っている暇なんてない。なんて言いたいが、実際にそれどころではないから、言えない。

 「説明は後だ。聡、このまま保健室に連れて行くぞ」

 「わかった」

 聡は負傷した友達を背負い、俺はその横に着く。少し遅れて蘭もついてくる。

 「事情は保健室でね」

 いつもと変わらぬまなざしを向けられては、俺も断りきれない。

 さて、一体どこから説明すればいいのやら、俺は保健室までずっと考えていた。


 「はい、これで終わり」

 保健室で、応急手当てを受けた聡の友人は疲れ果てた顔をし、椅子にもたれていた。

 不幸中の幸いなのか、保険の先生は不在で、応急処置の方は蘭の方に任せた。俺は手際の方で少し心配だったが、どうやら無難にこなせたようだ。時刻的に生徒はほとんど帰っている。

 今頃奴らはどんな顔をして、次俺らと会った時に落とすと考えているのか。でも、今はこんなことより、俺は蘭がいつ切り出してくるのか、怖くてしょうがない。

 「それで、瞬君。説明してもらいましょうか」

 来ました。

 微笑ましい表情ながら、怖いオーラを醸し出しているのはさすがと言った所か。俺は身動き一つとれば、焼かれそうだ。

 「説明と言ってもな……」

 「まあ、齋禅林君たちは、学内でもそこそこ生徒を甚振る人だからね」

 甚振るというか、もはや嬲る寸前だよな。

 「で、魔法は使ったの?」

 「いや、さすがに校内じゃダメだっていうだろ? 使いはしなかったよ」

 時折、師匠から忠告を受けておきながらも、無視して勝手に敵を攻撃したり、必要以上に魔法を拡散させたりと、とにかく細かいことは嫌いだった。蘭も俺が細かいことが嫌いだっていうことは、知っていたから、今回とばかりは……。

 「あんた、こういう時だけ規則とか守るんだね……呆れるわ」

 「え?」

 逆に呆れられてしまった。

 魚のような、死んだ目で見られている俺って、惨め? 恥しいの? そんなに今までやってきたことが、あほだったなんて……

 「瞬の話はどうでもいいけれど、それよりあいつら何で俺らを襲おうとしたんだ?」

 俺の子とはどこか違うところへポイと捨てられてしまったが、確かにそうだ。齋禅林たちが、聡の友人を狙い、更に俺らを狙う理由。

 いや……俺ら。ではないか。

 「どう見ても俺だな」

 「え?」

 「狙われているのは俺らじゃない。俺(、)だ。俺が今朝、奴らと接触し、聡が俺と行動を共にしていたからだ。たぶん、どこかで情報を割ったからだろう。悪いな。巻き込んで」

 平謝りに聞こえるかもしれないけれど、元々俺が朝、余計なことを言わなければ済んだのだ。あの後に襲撃したのも、きっとあの中のだれかだろう。

 ったく、本当散々な転校初日だ。

 「俺もびっくりしたよ。急に大勢で周りに囲まれて、東君のことなんてよく知らなかったから、その通りに言っただけなのにいきなり殴りかかってきて」

 野郎、魔法が使えなければ集団リンチか。

 「私、聞いたことある。齋禅林君たち、気に入らない人とかいればすぐ暴力振るって」

 「それって問題とかにならないのか?」

 俺の質問に、聡が首を横に振ってこたえた。

 「無駄だ。なんたって、魔法学園は実力がすべてだからな。力があれば何でもやっていい。さすがに犯罪とかはダメだが……だから、この学校以外でも被害にあっている人は多い。中には、反対派の人もいるらしいが、反対すれば即刻退学だからな。うちの学校じゃ生徒会役員全員そうらしい」

 聡の話を聞く限り、もしかしたら俺の本当の目的はこの学園のシステムを変えることなのではないか。と、薄々感じてしまう。学園のバランスなんていう問題じゃない。蘭の親父だって、好き好んでこうしているわけじゃないのは、分かっている。

 俺の魔法に何ができるのか。

 現代からよりかけ離れた、まだ、情報化社会が発展して間もない時代に存在した魔法で、いったい何ができるというのか。

 自分の左手を見つめる。黒いグローブを纏っているため、地肌は見えない。手に残る感じはあの時と変わらない。

 「学内ではもう一人、氷雨千畝という女子生徒がその類で有名だ」

 「氷雨家の令嬢か?」

 「そうだ」

 氷雨家と言えば、水属性硬化魔法では有名な名家だ。付加魔法で言えばこの家が先に名が上がるくらいだ。

 「これまた厄介な名家なんだよな」

 「別名、『氷輪の女王』なだけにか?」

 確かに、別名から聞いただけで怖そうな人に見えるもんな。

 水属性硬化っていうことは、氷か。蘭とは相性悪そうだな。

 「言っておくけれど、私その人大嫌い」

 結果。予想通りでした。

 「この学校って、結構個性的なんだな」

 「個性的っていえば、そうだけれど……どうにも殆どの人は親しめそうにないわ」

 かの有名である、天道蘭さんもほとんどっていう程だから、『問題児』と言わんばかりの強者が揃っているのか。

 「東もくれぐれも気をつけろよ。アメリカと違って日本もそれなりだからな」

 「大丈夫だ。アメリカでもびっちりやられてきたほうだからな」

 師匠にだけれどな。

 「瞬、あとは俺がやっておくからお前は天道さんと一緒に帰りな」

 「そう……だな。そうするよ」

 一瞬、迷いが出たが、このまま俺と行動を共にしていたらまた危害が加わるだろう。せめて、蘭だけなら守れる自信はある。

 「じゃあ、また明日」

 俺と蘭は、聡たちに手を振り、保健室を後にした。

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