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起死回生マジシャン  作者: flat
第一章 国立魔法学園東雲高校
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第二話 幼馴染

今日一日は天道家にお泊り。

現在は天道純一郎、蘭と食事。

蘭の母は幼き頃に他界。兄さんもいるが、海外で活動しているとらしい。

「瞬君。どんどん食べてくれよ」

「あ、はい」

 と言われたものの……

 目の前に広がる高級食材。これをドンドン食えと。

テレビで見たことのある食材ばっかり。トリュフにフォアグラ。骨付き肉なんて初めて見た。

 「それにしても、お父さんはなぜ瞬を今頃魔法学園に編入させたの?」

 俺が楽しそうに食事をしていたところに、蘭が口火を切ってきた。

 昼間もあんな様子だったし、何より俺の編入理由が一番知りたいのは蘭なのかもしれない。

 「すまんな蘭。これとばかりは」

 「いいじゃないですか?」

 「瞬?」

 別にいつかはばれることだ。今この場で粛正したほうがいい。

 アイコンタクトでそう送りつけると、天道氏は頷いてくれた。

 「蘭、俺の能力知っているか?」

 「……急にどうしたの?」

 唐突な質問だからか、答えになっていない。

 「説明が悪かったな。あらためて聞くが、俺は今、どんな魔法を使っていると思う?」

 こんな風に質問したのは初めてだ。されるのは、毎回のことながら慣れているが改めて自分から言うと、なんだか気さくな感じがする。

 「瞬だから……雷とか? あ、でも火っていう線もあるかも」

 「残念でした」

 誰でもよくある。絶対に魔法師はどんな魔法を使うのか。と聞かれれば、間違いなく六大属性を応える。

 「俺の魔法は全世界でもまだ証明されていない、まあ古代の物だ」

 「それって……」

 「ああ、お前の親父さんと俺は同じだ」

 「使うモノは違うがな」

 かっかっかと高らかに笑い出す。

 「俺の魔法―今では古代魔法と言われているが、現代魔法でも未だ解明されていない『分離』」

 「分離?」

 「ああ、百聞は一見に如かず。ためしに火の玉を出してみ」 

 蘭は言われた通り、手から小さな火の弾を出した。

 魔法は普通、術者の念によって発動される。

 「はい、じゃあそれを俺に向けて放って。ああ、火の玉ごとじゃないからな。放射な放射」

 「あんた、ここでやったらどうなるのか分かっているの?」

 「いいからやれって」

 ため息交じりと、馬鹿らしいね。と言うような顔を見せながら、蘭は俺に向けて火の弾を放った。

 目の前に来るまで俺は微動だにしない。

 目を瞑ったまま。

 そして俺は発動した。

 「うそ……」

 放射した火が消えた。跡形もなくだ。

 「ごらんのとおりだ」

 天道氏もにっこり笑っている。

 「だって……魔法を発動するのに優秀な魔法師でも最低1秒だっていうのに……いま1秒もかかっていないじゃない。それに今の……どの属性にも当てはまらないじゃない」

 「付加・補助魔法の段階発動は何なのか、お前は知っているはずだぞ?」

 さすがにこれは中学生でもわかる問題だ。こいつが間違えるはずがない。

 「段階発動って……無属性でしょ。……待って。じゃあ」

 「俺の魔法、『分離』は分解、拡散、放出の三段階から成す。今じゃ、古臭くて汎用性もないからって言う理由で、使う奴なんて極僅かだからな」

 「じゃあ、今の三つの段階を1秒未満で?」

 「じゃなきゃ魔法が発動できねえだろ」

 最も、魔法と呼べるほどの代物ではないがな。

 能力。古代魔法。欠陥品。無属性魔法がどうして、ここまで世間にひどくあしらわれる様になったのか。それはつい最近の事だ。

 「それに……その腕輪って」

 蘭は俺がつけている腕輪に目が行ったらしい。

 それもそうだな。いまどきこんなの突けている奴なんていないよな。

 「なんでマジックギアつけているの?」

 「便利だからに決まっているだろ?」

 「そうだけれど……」

 驚くのも無理ねえよな。

 これだけ見せられて、しかもライセンサーが古代魔法。たまげるのは当然だ。

 「瞬……古代魔法使っているって校内でばれたら……」

 「なんだ? いじめでも受けるのか?」

 「っ!?」

 それぐらい知っているよ。

 魔法学園だ。古代魔法を使うやつが待遇なんてそんなおいしい話、どこにあるんだよ。

 まあ、過去に似たような経験があるから問題ないが。

 「それ、瞬君。本題へ」

 そういえば、知らない間にだいぶ話がそれたな。

 「というわけで本題だ。俺が編入した理由は魔法学園のバランスを保つためと……まあ、あとは私情だ」

 「ちょっとなにそれ!? 出鱈目すぎるでしょ? でもなんで今更バランスとか言って編入生来るの? でもなんで瞬なの?」

 最後の言葉は如何なものだが、クエスチョンマークがあちらこちらになっているのは分かる。

 なぜ俺なのかいう理由はこいつには、言わずとも知っているはずだ。

 「ということだ。明日から、名目ではアメリカの魔法学園から来たっていうことにするから」

 いくらなんでも、素性を明かせば問題になる。国家ライセンス取得者が魔法学園にいるなんて名家の奴らに知られたらそれまでだ。

 「でも魔法はどうするの? さっきも言ったけれど、うちの学校、古代魔法使う人に関しては、かなりあたりが厳しいわよ」

 「生徒間では、だろ?」

 何を驚いている表情をしているんだ。

 俺が行く先の学校の名だけ知って編入するとでも思っているのか。

 それなりの情報は調べてある。教育機関内での出来事、生徒間での、教師間での。情報のソースの主とは、顔見知りだから知っている。

 総人口の約一割にも満たない古代魔法を使う人は社会ではごみ同然の扱いだ。その中で優秀な成績を収めたのが、今俺の目の前にいる天道氏だ。

 まあ、天道氏は古代魔法というより少し偏った方の類に入るから俺とは別の次元かもしれない。

 「とりあえず俺は部屋に戻って明日の支度でもする。お前も下手に口出しするなよ」

 「するわけないでしょ」

 そっぽを向かれてしまった。 

 仕方ない。おいたまするとしますか。

 「ご馳走様でした」

 両手を合掌して有難みをかみしめる。

 まず、師匠に電話だな。






 夜、俺は借りた部屋で師匠に電話を掛ける。師匠が何を知るあれ、事情は一応説明しなくてはならない。

 一瞬、電話をかけようか迷った。海外にいる師匠に電話をかけるわけだから、お金がかかる。まあ少しくらいならいいだろう。

 ワンコール。ツーコル……

 『私だ』

 「夜分遅くにすみません。国際線ということなので、編入の際にあたる事柄を話しておきたいので」

 『手短にな』

 言われなくても。

 頭の中で重要なことだけを整理する。

 「まず、俺の編入理由は師匠も知る通り、魔法学園内のバランスを取ること」

 電話越しでの師匠は何も言わない。

 「それともう一つは……」

 『わかっているのなら言わなくてもいいぞ』

 途中で止められた。

 言わなくてもいい……ね。

 気難しい感じに見えるが、師匠も仕事の方で疲れているだろう。

 「それでは失礼します」

 「瞬」

 「……? はい」

 突然どうしたんだ?

 「くれぐれも気をつけろよ」

 何だ突然……師匠が俺を心配するなんて珍しいな。

 まあ、数年間我が子のように育てたやつが、親元を離れるっていうんだから心配になるのも当然か。

 通話を切り、窓の景色を眺めながら俺は深く息をついた。明日からいよいよ魔法学園へと編入。何が起こるのか大体は予想できるけれど、これも試練のうちだっていうことにしておくか……

 「瞬、いる?」

 部屋の扉がノックされ、蘭が俺の名を呼ぶ声がする。

 「入っていいよ」

 もともと俺の部屋ではないが、一応男性の部屋であるというためか、蘭にしては珍しい行動だった。

 金属の独特な音ともに蘭が部屋に入ってくる。

 「どうした?」

 「ちょっとね……寝つけられなくて」

 少し疑問に思う部分があるが、寝付けないというならば、話につきあうぐらいいいだろう。

 「明日がいよいよだね」

 俺の隣に座るなり、蘭が話題提示をしてくる。俺とは幼馴染であるということなのか、または初めての魔法学園に戸惑いを隠せない俺への配慮なのか。少なくとも、心配されるのはほんの数日であるから、気にすることはない。

 「学校で一応、実戦が乏しい白兵専門の魔法っていうことで通しておくから。お前は余計なこと言うなよ?」

 無論、こいつが口を滑らせるようなことはしないとわかっているが、あくまで万が一だ。それでもリスクは高い。俺の本当の魔法が知られたときは、こいつへの危害も大きくなる。

 「あまり言いたくないけど、学校ではあまり俺と関わるなよ」

 「なんで?」

 即座に蘭はこう返した。まるで、俺からの拒絶を逃れようと。

 数パターンのフレーズから選び抜かれた先ほどの言葉から、蘭の返答はまさしくこれだ。俺が予想した通り。

 「お前も知っている通り、俺ってほら、普通の人とは違う魔法の構造をしているだろ? お前だって成績は優秀なわけだし、俺と変につるんでいれば周りの視線が……」

 「別にかまわない」

 「構わないとかそういう問題じゃないんだよ」

 昔から何を言っても聞かない奴だったし、成長すれば……とまで考えたのが間違いだった。

 東雲学園に『生徒会』と呼ばれる学内最高機関がある。もちろん、そこに所属する生徒はみな有能な魔法使いだ。

 蘭はその『生徒会』には所属していないが、引けを取らない強さを持っている。

 引けを取らない。ということでも学内では名は通っている。

 理事長の一人娘なわけだし……でも、そんな蘭は自分が注目されているなんて気づいているはずがない。この俺が言うのだから間違いない。

 俺としては、あまりこいつに迷惑をかけたくない。俺のせいでこいつの知名度が下がるのもそうだし、学友より転校生を優先するのも俺としても聊か抵抗がある。

 「とりあえず、分からない所があれば聞きに行く」

 「じゃあ、放課後は学校案内するね」

 満面の笑みで言われては、どうしようもねえよな……そもそも、分からない所があるって言ってもクラスが同じだったらの話だし……

 「じゃあ、私そろそろ寝るね。遅くまでごめん」

 「いや、俺の方こそありがとな」

 ふと、蘭が見せた笑顔を見て、脳内に何かが走った。

 昔のことだったよな……

 俺があの日、この地を離れ、一人の――として赴くとき。

 あの時の欄の顔が俺の脳内でフィードバックする。

 “必ず帰ってきてね”

 そうか……あれからもう、4年か。

 色々と迷惑をかけたんだな。

 何も言わずにのこのこと帰ってきたから、あいつあんなに怒ってたのか。

 尚も、蘭が部屋を出てから俺は、月明かりがほんのり照らす部屋で佇んでいた。

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