第一話 新天地
復帰作です。かなり駄文で、自分でもわからないくらいごちゃごちゃなので、訂正しながらゆっくりやっていきたいと思います。
「魔法学園に編入!?」
六月某日。梅雨をピークに迎え、じっとりと湿った空気が街中を巡る。
東京の中心地である東雲市は現在、この周辺では最も魔法が栄えている都市だ。
数年前の東京とは、だいぶ違う風景が見られる。人波も増え、ビルの数も山のように連なっている。
しばらくの間、アメリカにいたからすっかりそっちの街並みを懐かしんでしまう。
そんな中、有名人が、大型ディスプレイで何かの宣伝をしていたり、一般の学生がちらほらとみられる。
魔法。今まで人類は科学による力を頼ってきた。しかし、数十年前に起きた革命によって、人々は魔法の出現、発展により日常生活、社会など、様々な用途において、魔法を使用してきている。
その中でもここ、東雲市を含めた日本の四大都市を『魔法都市』と呼ばれ、東京の東雲、福岡の南陽、兵庫の西遊、北海道の北冷の四都市が日本の魔法都市の中枢を担う場所である。
四大都市の地名に因んで、国家機関付属である魔法学園が存在する。
魔法で有名な名家や、それ以外の人も将来、魔法という偉大な力を使っていくために、この学校へと入っていく。
そんな中、冒頭のように一人の少年が白昼堂々、とある喫茶店でお茶を嗜んでいたところに入った電話に驚いていた。
「ちょっと待ってください。なんで俺が魔法学園に?」
俺、東瞬は世話になっている恩師、早乙女早苗から電話での話を理解できていなかった。
もちろん、この日本にいる理由は仕事が一段落したため、休暇をもらったからだ。
それにしても……
『何を驚いている。別にお前を牢獄に閉じ込めようというわけではないぞ』
けれどよ……
いくらなんでも唐突すぎるんじゃねえのか? 魔法学園だろ……あの魔法が使える奴がたくさんいるところ。
『お前にもそろそろ、違う世界を見てほしいからな。親が息子を旅に出させるようなものだと思えばいいだろ』
「野放しかなんかの間違えじゃないですか」
ここ数年、ずっと日夜師匠と行動を共にしていたわけで、幾度か離れて、違う世界に行ってみたいとは言ったけれど……
「いきなり親離れが魔法学園の転入だなんて、レベル高すぎないですか?」
『そうだろうな。お前のその特殊体質では、魔法学園とは相性が悪いだろう。けれど、いいではないか? 魔法の使えない魔法師だなんて』
何を面白半分に言ってるんだよ。
でも、事実だ。あれこれ反論する意味もない。
『まあ、それはいいとして。とりあえず編入手続きは済ませてある』
編入手続きって案外簡単に通る物なんだ。
倍率とかも高いくせに、入ってくる人はみんなエリートだから、特別な編入試験受けないのかと思っていた。
『東雲学園理事長、天道純一郎』
不意に、師匠の口からそんな言葉が聞こえた。
東雲学園理事長……天道? どこかできたことのある名前だけれど……
まさか……
「師匠、コネ使いましたか?」
『何のことだい? 私は純粋に書類を通して君の編入の手続きをしたんだぞ』
使った。こういうのを職権乱用と言うんだ。自分では職権乱用なんてしたところで、何の意味もない。なんて、言ってたのによ。
それでも、よりによってあいつのいる学校かよ。
『そういうことだ。ちなみに私はこれからイギリスへ行ってくる』
「何で突然!?」
『急な用事でな。正直お前を連れていけないから、魔法学園へと転入させるんだ。もちろん、お前が不要だからではない。お前はそろそろ自分の道を歩んでいってほしいんだ』
それは確かに、師匠も用事があるからと言って、俺に休暇を与えて急に読解ったと思ったらそれか。
急にしんみりとした話を持ってこられ、思わず涙が出そうになる。
なんだかんだ言って、一番迷惑をかけたのは俺だからな。親を亡くし、当てのない俺を拾ってくれたのも師匠だ。
……無理もない。師匠の言う通り、魔法学園に通うとしよう。
入学することを告げると、師匠も納得してくれた。
『では瞬。また会う日までな』
「はい。師匠も元気で」
その言葉を最後に、通話は途切れた。
まだ半分も残っているコーヒーを一気飲みし、手を付けていないケーキを一口で平らげる。
お勘定をもって、レジで支払い、店の外へ出る。
空気をいっぱい吸って、俺は目指すべき場所へと向かった。
それは、天道純一郎の家だ。
「でかい……」
あいつの家を見ての第一声がこれだった。
前に来たのはいつだか。4年前か? いや、4年で又こんなにでかくなったのか? あいつの家どれだけ金あるんだよ。
人の家を長々と見入ってしまい、ついつい目的を忘れかけるところだった。
大きな門の前に立ち、インターホンを押す。
『はい、どちら様でしょうか?』
「東瞬と申します。こちらの当主、天道純一郎さんとの面会の約束があるためお伺いしました」
師匠から教え込まれた敬語が今ここで役に立った。実に驚き。自分でも感銘を受けた。
『少々お待ちください』
声の主の言葉と同時に、門に張られていた魔法陣が消えた。なるほど。厳重セキュリティね。
門が開かれ、俺は広い庭の中央を歩く。なんだかラスボスを倒しに行く前の勇者みたいな気分だけれど実際には違う。
魔法学園の理事長がラスボスだったら、一撃必殺で死んでるな。
正門から約30m歩き、玄関の脇にあるドアノブをノックする。
高級そうなドアノブに触れるのは少し抵抗があったけれど、幼少時代何度も入った豪邸だから抵抗も何もないよな。
「入って」
数秒で返事が来た。聞き覚えのあるようで懐かしい声。ドアを開けたその先には、俺のお刺さ馴染み、東雲学園理事長の娘、天道蘭が俺の目の前にいた。
特徴的な赤い髪の毛をシュシュでポニーテールに結び、モデルのようなスタイル、女性では高身長といった容姿である。
「よう、久しぶり」
「一体どこをほっつき歩いていたのか」
再会の第一声がそれかよ。
もっと心配して声を聴きたかったんだが、そうはいかなかったな。
「でもなんでお前が出てくるんだ? 俺はお前の親父さんに用があってきたんだぞ?」
もともと蘭に顔を合わせる予定なんてなかったし、理事長と話をしてからすぐ帰って荷物の準備をしようと思っていだけれど……
「何? 私と会っちゃ不満があるの?」
「不満というか……」
とても言いにくい。
いったら何かされそう。こいつ、たしか魔法の成績じゃ上の位置にいるって聞いているから下手に何か言ったらやられそう。
「不満はないです」
こう言うしかない。
「とりあえず上がって」
「お、おう」
あがれ。なんて言われても、昔よく遊びに行っていた家とはいえ、この年代になれば軽々しく上がれるのか?
「何やっているの?」
すいません。今行きます。
なんか不甲斐ない……女の子相手にこんなに弱弱しくなる俺ってなんだろう。
「またでかくなったんじゃないか?」
「そう? 部屋が3つ増えただけだよ」
3つも増えたのかよ。
これ以上この家を大きくしてどうするつもりだ、あのおやじさん。
「あんたもこの家は久しぶりだもんね。この前来たのはいつだっけ?」
「確か……ちょうど4年前? あれ、蘭は俺がライセンス取得したのって知ってるのか?」
「え?」
え。と言われても……
あれ? 言ってなかったっけ?
確か……いった気がするけれど。
「何言ってなかったっけ? っていう顔しているのよ」
「いや、その通りで言ってなかったけ?」
「言ってないわよ」
記憶違いでした。
「何? ライセンスでしょ? じゃああんたわざわざ学校に入んなくてもよかったじゃない」
俺もそう思う。なんで師匠はわざわざライセンスを取得している俺を学校に通わせるのだろう。
理由も仕事だからっていうけど……師匠の事だから、自分で考えろって事だろう。
「まあ、いいわ。お父さんに用があるんでしょ?」
そういえばそうだった。
本題は蘭ではなく、蘭の父親だ。
「お父さんなら、奥の書斎にいるから。だから……」
「ノックしなくても気付いているから。だろ?」
俺がどれだけお前の父さんに世話になったか。これぐらいの事は死んでも覚えている。
「さすが、理解したなら行ってらっしゃい」
蘭に念を押され、俺は奥の書斎へと向かう。
数メートル歩いたところで、天道純一郎のいる書斎へと着いた。
「にしてもこの扉にうん十万かけてるってマジかよ」
さすが。この国でも五指には入る名家の一つだな。
ライオン型に縁どられた、なんともテンプレな門扉に手をかけた瞬間だ。
「どうぞ、入ってきたまえ」
それきた。
約束の。お決まりのその言葉が。
言葉通り、俺は扉を開ける。
そして、目の前に広がった光景は、中央奥に机に椅子、更には様々な書類などが積み重なり、その周りを小さな図書館を開けるほどの本棚で囲んでいた。
俺の目前には、東雲学園理事長の天道純一郎氏。
別名『破壊の先駆者』
東洋を制する名として知れ渡り、今では魔法元帥の一人でもある。
「久しぶりだな。わが愛娘の友よ」
「お久しぶりです。天道氏」
うわ、この人と対面するなんて何年ぶりか。ただでさえ、有名な魔術師と顔を合わせるのが難しいっていうのに、俺としてラッキー……いや、奇跡だ。お相手は魔法元帥であるから。
「お話は常々、早乙女君から聞いているよ」
ははは。お話は常々っていうことはまさか、余計なことべらべら言ってんだろうな。
「とりあえず座りたまえ」
客間というのか、とりあえず座ることを催促され、俺はお茶菓子がある所へ腰を掛ける。
「さて、お話なんだが……」
あれ、ちょっと待てよ?
これって俺の編入についての話だよな? なんでこんなに重苦しい表情をしているんだ?
俺なんかしたっけ? いや、やったとしてもちょっと悪い組織のアジトを壊したりしただけなんだけれど……思い当たる節がない。
「編入については、早乙女君からなんと?」
「え、あ、そのー、師匠からは……」
何も聞いてない。
思い出せば、師匠は『親もそろそろ子を旅に行かせたいっていう気にもなるさ』って言っていたけれど、あれ以外何の理由も聞いていない。
「すいません。詳しいことは何も……」
あの女……
「そうかそうか。まあ、君の編入を進めてきたのは私からなんだが」
「天道さんが、ですか?」
これまた意外だ。
天道氏はお茶を一口すすり、一息ついてからまた言った。
「瞬君。存じているとは思うが、この国には四つの魔法学園が存在する。北に位置する北冷高校。西に位置する西遊高校。南に位置する南陽高校。そして、私が理事長を務める、東の東雲高校。この学校は日本の魔法バランスを調節するとも言われている。毎年均等の数の魔法師が輩出されていくのだが……」
この話の流れで、しかもなぜ俺がこの学校に編入させようとしたのか、概ねの予想はついた。
「二年前の第三次北欧戦争が影響でヨーロッパの方では、まだ混乱状態が続いている。そして日本にも……」
あまりの出来事にショックなのか、天道氏は言葉に出せないのか。
「理事長」
俺は東雲高校理事長を呼びかける。
もちろん、天道純一郎としてではない。
「それ以上話さなくていいです。ですが、俺なんかでよかったのですか? 俺よりもっと良きライセンサーがいたはずですよ」
そうだ。その考えもある。
なぜ俺なのか。俺より有能なライセンサーがいるのになぜ理事長は……
「何、理由は簡単だよ」
満面な笑みで。
「僕と君が同じ境地に立っているからだよ」
なるほどね……
「解りました。理事長の意、確かに聞き取りました」