魔王様 ペットになる。
それを聞いたスライムは慌て、
「私をこのままほって置くのかっ!?」
と追いすがる。
「ああ、楽しかったからな。
後は好きにしていいぞ。」
置いていかれるスライムはたまったものではない。
度重なる復活で、魔力はほとんど底を尽きそうなのだ。
もし、スライムの上位捕食者に喰われた日には意識を保てる保証が無いのだ。
「待ってくれ、何度も殺されて魔力が心もとないのだ。
スライム程度ではすぐに殺されてしまう!!」
「でも復活できるんだろ?」
スライム程度ならば、あと十数回は復活できる。
だが、知性ある魔物。
たとえばオーガクラスであれば捕食されるレベルである。
「それは・・・そうなのだが・・・」
「なら問題ねぇな。」
さっそうとハウンドドックへと飛び乗る。
「待ってくれ・・・いや、待ってください。
話します。全て話しますからっ!!」
プライドよりも命・・・である。
「実は何度も殺された為に魔力が枯渇し始めています。
このまま魔物に捕食されれば、自我が消える可能性が高いのです。
私は消滅する訳には行かない。
魔力を回復するお手伝いをお願いします。」
最早、ズタボロのプライドより命を!!と考える彼を誰が責められようか。
たとえその相手が自分を殺した相手だとしても・・・
「どうすりゃ回復するんだ?」
「他の力ある魔族の核を吸収すれば回復する・・・が、この身では核の回収なぞできる訳も無く・・・」
「なら、これを喰えばどうだ?」
青年はポケットから赤・青・黄の結晶を取り出すと、スライムの前に放り投げた。
スライムはその結晶を見ると、目を見開く。
「これは3魔将のっ!?
あれだけになりながら、結晶は無事だったか・・・良かった・・・」
「早く喰ったらどうだ?」
(この結晶を・・・確かに3魔将ならば意識の主導権を渡してくれる。
だが・・・3人は私に命を捧げてくれた。
ならば私が3人を糧にしてまで生きながらえる訳には・・・)
スライムは結晶を前に手を出そうとしない
青年はそんなスライムを見ると、感心したように微笑む。
(へぇ、さすがに配下にまで手を出す馬鹿じゃないか。)と
「喰わねぇなら返して貰うな。」
スライムの前に置いた結晶をポケットに戻す。
「待ってくれ、その結晶をどうする気だ!?」
「そういう用途があるなら、高く売れるかも知れねぇだろ?
ギルドにでも持っていくつもりだ。」
「まてっ、その核を置いてい・・・・ってください。
最悪、スライムに食わせるでも良い。」
青年は意地悪な表情になると、
「嫌だね、この結晶は俺のものだ、自分のものを好きに使って何が悪い?」
「頼むっ!!私に出来る事は何でもします!!
その3人を復活させてやってください。」
スライムは顔を地面にこすり付けて懇願する。
青年はスライムに見えないように微笑むと、
「なら、俺の従魔になれ。
働き次第では考えてやらんでもない。」
さすがにこの提案にはスライムは憤慨する。
「この私に従魔〈ペット〉になれだと!!
ふざけるなっ!!」
青年はため息をつくと、
「それなら良いさ、じゃあな。」
歩き去ろうとするが、足が重い。
足元には、スライムがズボンに食いついている。
「待てっ・・・待ってくれっ・・・
私は見捨てても構わん。
だが、その3人は・・・3人だけは・・・」
青年は冷ややかな目で答える。
「離せよ。
それとも逝っとくか?」
「3人を解放してくれるなら、それでも良い!!」
「それだけの覚悟があるなら、従魔ぐらい我慢できるだろ?
・・・いい加減離せ。」
「ぐぅ・・・だが・・・しかし・・・」
スライムは苦悩している。
「・・・魔王を従魔にすると、面倒な事になるぞ?」
「さっさと離せ・・・
面白けりゃ、多少の面倒は引き受ける。」
「ならば従魔でも下僕にでも何でもやってやる!!
だから考えてくれ!!」
スライムは顔を地面にこすり付ける。
・・・ズボンを咥えながら。
ブチッ
顔を下げた勢いでズボンの紐が切れる。
ズボンがずり落ちると、その下から女性物の下着と下半身が現れた。
「・・・っのっ!!」
ザシュ
青年は真っ赤な顔で呟く。
「だから離せって言ったのに・・・」
「ズボンの紐ぐらいで斬るとは酷いぞっ!!」
「言ったはずだぞ、離さなければ斬ると。」
「ぐぅ・・・あの時は必死だったのだ・・・
だが、男と思っていたが、まさか女だったとは・・・」
恐るべき速さでスライムの眼前に剣が構えられる。
「いいか!俺は男だ!!」
「だが、あの下着は女物」
「忘れろっ!!」
「まさか!!そういう趣味だったのか・・・気づかずにすまない。」
ザシュ
「いちいち殺すとは酷いではないか!!」
「良いな!!ワ・ス・レ・ロ!!」
剣をちらつかされる。
「はい!!、私は何も見ていません!!」
「よろしい。
そろそろスライムを探すのも面倒になってきた。
お前も殺されるような事をするな。」
「(ぼそ)すぐ殺すくせに。」
「何か言ったか?」
「いいえっ、何も言っておりません!!」
「ふんっ、まあいい、従魔の儀式でもしておくか。
魔王、そのぐらいは判るだろう?書いとけ。」
「判りましたよ・・・そういや、これから何と呼べばいいのだ?」
スライムは器用に木の枝を咥えると、地面に魔法陣を描きながら答える。
「ククリだ。」
「ククリね・・・了解。
魔法陣はこの程度で良いか?」
「様を付けろ。
あぁ、そこと・・・そこ間違ってるぞ。
その模様では主への攻撃可になってる、わざととしか思えんが直しておけ。」
スライムが巧妙に間違えていた箇所に指摘を入れて直させる。
「チッ・・・」
「それで良い。
あと、次は殺すぞ?
・・・では行くか」
青年―ククリは指を切ると、魔法陣に血をたらし、中央にはスライムを置く。
「我、ここに血の盟約を持って臣下の理をなす。
【魔王の核】よ!!我に従属せよ!!」
「なっ!?」
それまでは余裕の顔で居たスライムの表情がゆがむ。
だが、魔法陣から光が溢れると、スライムの中心【魔王の核】を包み込む。
スライムはその光に抗うが、抵抗空しく従魔のシンボルが刻印される。
「切り殺すたびに契約するのも面倒だったからな。」
事も無げに言う。
(まさか我の本体に刻印を成すとは・・・
どれだけの魔力保持量だったのだ?
普通の人間であれば瞬時に干からびるはずだぞ?)
改めてククリの常識外れにスライムは言葉を失っていた。
「これから色々と教育(調教)してやる。
楽しみにしているが良い、ぽち」
ククリは笑顔でスライムの頭を撫で回す。
「ちょ・・・せめて魔王バクア・・・いや、バクアと呼んでください・・・」
「ククリ様。だろ?」
「くっ、バクアと呼んでください、ククリ様!!」
スライムが最後の抵抗とばかりに懇願する。
ククリはにっこり笑うと、
「却下」
と答える。
「ですよね~・・・・はぁ・・・」
すでに魔王としての威厳もへったくれもないスライム―ぽちがうなだれる。
「さて、まずは魔物でも狩りながら町を目指すか。」
ククリはハウンドドックにまたがると、その背を叩く。
「乗れ」と言う合図だろう。
「うむ、よろしく頼むぞ、ククリ・・・様。」
「まずは言葉遣いからだな。
ペットとして正しい言葉遣いから教育(調教)してやる。」
不吉な事を言って、ハウンドドックは走り始める。
今回の死亡数 2回