裏側 3日目
度々レイ編に戻ります。
獣の遠吠えと、あざ笑うような木々の囁きが木霊する、夜の深淵の森。
それは、7匹目のグレイズリーを倒し、レベルが19に上がった後の事。
森の中に拓けたところがあり、その中央には巨木がずっしりとそびえ立っていた。
「森の闇に打ち勝たんとする冒険者よ。我こそ深淵の森の主。火の支配する山への道を開かんとするなら、我を越えてみせよ」
こもったような重低音で、声が響き、ボスイベント発生のため体が硬直する。
森に戻る為の道は周囲の樹木が急速に生え、直径20メートルほどの拓けた草むらに閉ざされる形となった。
中央の巨木に人面が浮き上がり、幹は太くなり、枝は伸び、葉は形を自由に変えている。
体の硬直が解けるとほぼ同時に、太い幹に支えられた枝が何本とギザギザ状の葉を引き摺りながら、襲い掛かってきた。
即座にジャンプで回避するレイ。何度も何度も襲い掛かる枝を掻い潜り、跳ねつつ、ステップを交え、巨木の顔面に近づいていく。
巨木の口が空気を吸い込むと、口から葉が大量に吹き出す。
『リーフブレス』高速な広範囲攻撃で、レイでもそれを回避する事は出来なかった。
体中を葉に引っかかれ、全身が真っ赤になる。一枚づつの葉は対した威力ではないが、
これだけ大量に食らえば、一発でHPを4割も削られる事になる。
枝が再び襲いかかり、左右からの見えない枝は避けるのが難しい。
レイはやむえず後退する。
「どうした。距離を置けば、ワシの思うツボぞ。」
モンスターに煽られてしまった。落ち着け。
仮にあのまま近づいたとして、恐らく奴に私の剣は、ダメージが通らないだろう。
何百と斬り続ければ、いつかは倒れるかもしれないが、それでは私のスタミナが先に切れる。
スタミナを切らさずに、長期戦をするパターンを構築できるか、それとも効率的にダメージを与える方法があるのか。
まず、レベル15で覚えたフロンティアスキル『トルネードスピン』体を超高速回転という単純な物。
発動している間は、空中で浮いていられるし、自由落下やステップのような動きも混ぜられなくはないが、スタミナ消費が更にえぐい事になる。
ジャンプ慣性落下と合わせて、斬撃スキルと合わせて、ジャンプ慣性+回転+スキル補正でかなりの威力だが、スタミナの消費が激しく、到底一発で倒れてくれるというわけには行かない。
グレイズリーですら、この最強火力連撃で倒れてはくれない。
手数で倒す方がスタミナ効率が遥かに良いぐらいだ。
弱点はどうだろうか?
恐らく火が弱点なのだろうが、火どころか風の攻撃魔法すら一つも覚えていない。
18レベル時点で、風魔法は二つだけ。
風を一瞬纏う事で攻撃を風圧でガードする『ウィンドガード』と落下速度を一時的に遅くする『エアグラインダー』。
風圧。。。ちょっと試して見るか。
遠距離から枝を避けていたが、またジャンプと空中ステップを駆使して、徐々に主に近づいていく。
「また、食らいたいのかっ!リーフブレス!」
一定の距離に近づいたところで、吐かれた息から再び大量の葉の舞がレンを襲う。
「ウインドガード!」
葉の舞の中で、レンを包む風圧は葉を押しのけ、人面の両目に向けて、剣を一本づつダイブスラストを無サポート発動し、貫き放つ。
「グガガガガガァアア!!!!!」
「やってくれおったな、だが視界など飾りにすぎん。大地が貴様の居場所を教えてくれるわ!」
両目を潰し、そのまま至近距離で、色々な場所に剣を斬り付ける。ほぼダメージは通っていない。
葉を吐き出す口の中が気になるが、さすがに口の中で葉は吐かれれば、ウィンドガードの風圧で守りきれない恐れがある。
枝と幹の巧みな連携攻撃で、回避するために、少しづつ距離を置かざるを得なくされている。
思考する時間を稼ぐために、広場の外周まで距離を置く。
枝の精度は、目を潰す前と変わっていない。やはり視界は、飾りだったのだろうか。
それより、葉を吐き出す口の中の構造はどうなっているのだろうか、あの葉はどこから?
ゲームだからどこからともなく沸くというのもありだが。。
良く観察すると枝が巨木の上に集まっては、幹の中に枝を突っ込ませている。
出てきた枝からは葉はなくなっている。
つまり天辺から葉を幹の中に補充し、蓄えていると推測できる。
レンは、ニヤと薄気味悪く笑うと、枝の攻撃を枝の上に乗り避けて、枝から枝へ飛び乗り、30メートルはあろう巨木の天辺に飛び乗った。枝も攻撃を繰り出してくるが、空中の敵を捕捉できないのか、枝の攻撃が狙いが甘い。
案の定、木の天辺から下に向け穴があった。レイは、そこに思い切って身を投じた。
溜まった葉に体が擦り辺りHPがみるみる減っていく。
HPも落下ダメージだけで死んでしまいそうな分しかない。
このまま落ちれば口から吐き出されるだけであっただろう。
「フロンティアスキル『トルネードスピン』を発動します」
レンは、自由落下していくことなく、主の体内で回り始めた。
ミキサーのように双剣を主の体内で、回り斬る。
双剣は、真っ直ぐ伸ばされ、回転そのものが斬撃となり、
主の体内を絶えずえぐり削る。
「グオオオガガガオオオン!」
「やめろ、ヤメロ、やめロォオオオ!」
主が大きな断末魔を上げる共に、レンはそのまま主の体の中でストン落ち、
垂れ下がった口からぬるっと滑り落ちていく。
派手なファンファーレが鳴り響く。
「ユニーク級エリアモンスター『深淵の主』を踏破しました。
『深淵の主』初踏破により、フロンティアアイテム『深淵の魂』を得ました。
リレーション『トレント族との親和』を得ました。
ユニーク級アイテム『主の葉』x 24を得ました。
ユニーク級アイテム『主の枝』x 14を得ました。
ユニーク級アイテム『主の幹』x 1を得ました。
深淵の主の難易度が下がります。
『業火に包まれた山』への道が開きます。
レベルアップ!23レベルになりました。
双剣斬撃スキル『シザーズラッシュ』を覚えました。」
レンの視界にそのシステムメッセージが流れると、そのまま深い眠りに落ちていった。
これで初回書き上げ分は終わりです。
自分自身が楽しみながら書きたいので、特に更新の予定立てておりません。