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Imagination Frontier Online  作者: 樽の鳥
第1章 αテスト
5/6

表側 3日目

午前1時23分「ユニーク級エリアモンスター『深淵の主』が踏破されました。深淵の主の難易度が下がります。」

午前2時35分「ユニーク級エリアモンスター『デビルトライコーン』が踏破されました。偽りの草原の難易度が下がります。」

朝、起きるとワールドメッセージログにこの二文があった。どちらも真夜中である。


ユーリンを起こしに行き、そのまま宿のダイニングに入ると、周囲の話題は今朝のワールドメッセージログで持ち切りだった。チートだとか、運営メンバーの介入だとか、株主のαテスト当選にレジェンド級アイテムの譲渡があったに違いないだとか、様々な噂が飛び交っていた。


共通しているのは、まともな手段で踏破したのではないという認識であった。


「なんかみんな色々言ってるね~ でも確かにちょっと信じがたいよ?私たちだって、悪くない構成で森に入って、グレイズリーに散々だったんだもの。草原の方はまだしも、森の方は、どうなってるんだろうって思っちゃう。」


様々な噂が飛び交う中、チャットログからプレイヤーの荒れ様を気にかけたのか、システムメッセージが流れる。


「午前1時23分と午前2時35分のユニーク級ブロックモンスターの踏破の件でご案内を申し上げます。

運営も不正利用バグ利用の可能性を考え、厳密に戦闘ログ及び踏破者達のインベントリ及び動向の調査を致しましたが、ゲーム仕様に準拠した結果であると判断致しました。


引き続き、Imagination Frontier Onlineをお楽しみくださいませ。」


一瞬、ダイニングは静まり返り、すぐに騒がしさを取り戻す。前よりは落ち着いたところをみると、大半が納得したと見て良いだろうか。運営がそう言ってるなら信じるしかないというのが現実的な解釈か。


どうでもいい、ユーリン可愛い。彼女が居れば僕がマッタリでやっていかれるんだ。

劣等感を感じさせる噂に血眼になっている『必死www乙』な野郎どものようにはならない。


なんかフラグ立ってないかって?ないない。




朝食を取りつつ、二人で話をした結果、ユーリンの希望で鉱山に行く事にした。

適正レベルでも鉱山入り口のソロは、NPC売りの回復アイテムの価格が高めに設定されている事もあり、厳しいらしい。

そのため二日目終了時でも、大半のプレイヤーは、草原で犇きあっているらしい。

今日も鉱山ペアなら一般ソロ大衆からは逃れる事ができるだろう。





「ねぇねぇ、あんた達、あたいを連れて行ってくれないか?」

東の門に着くと、背が高く女性としてはがっちりした体格の女性に声をかけられた。

大体みんなリアルの自分よりも可愛く設定したり、美形に作るものだが、この女性は、『しっかり者のおねぇ』ロールプレイを優先しているのか、味のある少数派のルックスを持っている。


『マインウォリアー』それが彼女のクラスだった。フロンティアである。

女性がこんなクラスを想像して、このゲームを始る人間の気が知れない。


話を聞くところによると鉱石採集と鉱石鑑定に優れてて、両手ハンマーで戦闘もそれなりに出来るようだ。

昨日は、しぶしぶ草原で狩っていたが、遠距離クラスや足の速い近戦クラスに持っていかれて、ほとんど狩れていないのだとか。

確かにクラス特性を活かせないのは厳しいだろう。


「ちょうど良かった~私達鉱石採掘ができないものね。良いよね、セイジ君?」

そんな当人に丸聞こえな声量でたずねられれば、聞かないも同じである。


「あたいはリベッカ、フロンティアスキルもあるんだよ。『鉱石圧縮』ってね。鉱石が5%減量状態で持てるみたいなんだ。自分だけじゃなく、パーティメンバーにも効果があるんだよ。

あれ、なんとまぁ、二人ともフロンティアじゃないか」


やはり思った通り、フロンティアにはフロンティアだけが使える独占スキルがあるのだ。

このために、ネタを避けつつも人が考えないような方向を思考したものよ。

まだ僕が覚えていないのは、レベルの為か何か習得条件があるのだろう。


兎も角リベッカをパーティに加え、僕らは鉱山に足を踏み入れた。





狩りは順調だった。ユーリンのスキルがアンデットと相性が物凄く良いのだ。広範囲リジェネだけのネタクラスだと思っていた過去の自分がいました。

ユーリンを守っているだけで、レクイエムのドットダメージでアンデッドが熔けていく。瞬間火力はないが、範囲が広く、燃費が良い。じりじりと削っていく。


どうやらヘイト値が高いようで、こちらに攻撃を向けさせるのにナイト系のスキルをしっかり当てていく必要があった。

範囲でヘイトを稼げるスキルがないため、複数同時に襲ってくる鉱山では、ヘイト管理がやや難しくなるが、時空と騎士の前に付いてもタンク職の僕には、当然の勤めである。


スケルトンアーチャーの存在だけ厄介だったので、リベッカにアーチャーの退治に専念してもらった。

リベッカが見つける前にレクイエムの範囲で引っ掛けてしまい、何度かユーリンに弓を放たれたか、ことごとく昨日買ったカイトシールドではじ返してやった。


レベル9になり、グラビティオーラというスキルを覚えた。MP継続消費で、発動中周囲の5メートル以内の重力を2倍にするらしい。

一見良好なスキルに見えるが、自分も同様重くなってしまうという欠陥があった。重装備を付けた状態で、重力が2倍になるとほぼ動けなくなる。

リフティングオーラと重ね掛けができれば、『ずっと僕のターン』が出来そうだが、そうは行かないようである。


そうこうしているうちに、炭鉱の奥に入るにつれ、鉱石がチラチラ見当たるようになったので、狩りをしつつ、リベッカが採掘をするという流れになった。




夕方に差し掛かり、インベントリーも重くなってきたところで、次の休憩で街に帰ろうと話していた直後である。


「うぁぁああぁ、助けて、助けてくれぇぇぇええ!」

「キャアアアア、お願い、誰かぁああ!」


夕方になりスケルトンウォーリアが沸いた事で、前方で範囲狩りをしていたパーティのタンク役が沈み、続いてヒーラーが倒されてしまったようである。ガン逃げしていたところに、こちらの交戦中のレクイエムの範囲にかかり、トレインしていたモンスターのターゲットが一斉にユーリンに向かってしまう。


幸いスケルトンアーチャーは優先して処理していたようで、近距離系スケルトンのみだったが、その数スケルトンウォーリア2体とスケルトン7体。これまでは、4体ぐらいまでを同時に処理してきた上に、スケルトンウォーリアとは初戦闘になる。


「リベッカ、ユーリンを抱きて走り回って!僕から5メートル以上の距離を必ず保ってください!」

そう叫ぶと、僕は装備を全て外し、トレインされたスケルトンの群れに突っ込み、おもむろにグラビティーオーラを発動する。

途端、スケルトン達の足取りは重くなり、さながらにしてスケルトンの親分になったように彼らと一緒にユーリンに向かうようにゆったりと動く。


僕はスケルトンの群れの中心にいるわけだが、レクイエムのヘイトでスケルトン達の目はユーリンに向けられたままで、攻撃される事はない。

グラビティオーラの範囲にユーリンも入ってしまう直前に、詠唱で動けないユーリンをリベッカが抱き上げ、スケルトン集団と僕から逃げ回る。


5メートル以上離されてしまえば、そのままユーリンに一直線であるから、重い体を引きずって必死に走った。

やらせるか、やらせはせんぞぉおお。貴様のようなどこぞの馬の骨かも分からん奴に、うちのユーリンをくれてやるわけにはいかんのだっ。


スケルトンウォーリア二体が瀕死になり、リベッカと僕の攻撃で倒れるまでは、ずっと走り続けていた。

歌い続けたユーリンのMPもスタミナも、抱えて逃げたリベッカも、僕のスタミナもMPも綺麗に空っぽだった。


5人パーティが崩壊した敵に、逃げ回っている間に更にリンクさせた数を、3人で倒したのだから、奇跡の偉業と言っていい。


天才すぐる。これは完全にフラグが立ったに違いない。今夜は、こそこの忌々しい偽善者仮面を外して、獣になるぅぅ!


全滅させたところで、僕とユーリンはレベル13になった。スケルトンウォーリアがレベル13なので、タイマンならソロ適正になったところである。


「セイジ君、セイジ君、私、フロンティアスキル覚えたみたいよ?はい、これ。『終わりのないディフェンスでもいいよ?』でも、スキルが赤くなってて発動は出来ないみたい。あっ、『聖属性Aクラス以上の竪琴が必要ですって』」


どれどれ。。。


スキル名:終わりのないディフェンスでもいいよ?

スキルランク:フロンティア

効果:タウン防衛の際、防衛側プレイヤー全体に防御力中アップと中リジェネの効果。他バフとは競合しない。

条件:聖属性A級以上の竪琴を装備

MP消費:5秒ごとに1

スタミナ消費:6.5秒ごとに1


なんだこれ。なんなのこの長いスキル名。最期の疑問符がついてるのは何。

効果が限定的じゃね?タウン防衛ってなに?街が攻撃される事なんてあるの?

A級の竪琴で属性縛りっていつゲットできるのよ。



「ど、どうしたの、セイジ君。よくなかったかしら。。。」

すぐにセイジスマイルに顔の部品のポジションを戻し、喜んでフロンティアスキル習得の祝辞をユーリンに述べる。

さすがのユーリンにも、ぎこちなさは伝わってしまったようだ。落ち着け、セイジ。これはαテストだし、僕達はガチる必要はこれっぽちもないんだ。。。




軽く余談、フロンティアだが別にそれほど珍しいわけじゃないようだ。

フロンティアは、創始されてから10分以内であれば、後続のプレイヤーもフロンティアと認められるらしいから、よーいドンスタートなIFOでは、同一クラスのフロンティアが複数いる場合がむしろ多いらしい。

と言っても、運営のテンプレはかなり豊富な様で、6割り以上のプレイヤーがテンプレクラスでキャラメイクした言われている。αテストだけあって、システムの研究と統計にだけ精を出すプレイヤーもいるようである。




街に着く頃には、既に完全に日が沈んでいた。

リベッカさんとユーリンはすっかり仲良くなり、『おねぇちゃん』『ユーリン』と呼び合う、姉妹ロールプレイが成立していた。リベッカさんは、無駄に年を取っていないのか、僕の本性というか、見せている部分が全てではない事を感じ取っているようである。こういう人は、苦手である。


リベッカさんとうちらの宿は同じだった。

リベッカさんの部屋に集まり、預かっておいた鉱石を床にぶちまける。

鉱石鑑定スキルで品質がE級だった物は持ちきれず途中から捨てていたので、ここにあるのはD級以上のものだけである。


さて、鉱石をインゴットに出来ると軽くなるのだが、リベッカさんは鍛冶スキルの適正が高くないらしく、インゴット化の際に無駄が出来るらしい。それに、スタミナ回復に休憩を含めるとかなり時間のかかる作業らしく、専門に任せた方が良いとか。


D級の物は、代販に流し、C級の物は装備を作ってくれる鍛冶士を探し、素材渡しで製造を頼めないか明日リベッカさんが街を探すという事になった。


実際は汗をかかないため別に入る必要性はないのだが、リベッカさんの部屋でユーリンはお風呂に入ってしまい、リベッカさんと二人になってしまう。


「率直にお聞きしますけど、リベッカさんって、どうしてマインソルジャーなんていうクラスを創造したんですか?」

これは今日一日ずっと気になっていた事だった。全く持って女性らしくないし、VRMMOなのに全く夢がないのだ。


「やっぱりそう思うよねぇ。大学院で鉱物学を専行してるの。毎日、鉱物の事ばかり考えていて。ゲームにも持ち込んじゃったみたいね。ふふ。」

リアルな話になったせいか、姉貴口調ではなく、女性らしい話し方だった。これが普段の彼女なのだろう。

女子大生だったのかと思うと少し緊張が走る。でも、目の前のアバターは飾り気もなく、造形も僕の好みとはかけ離れている。


「そんな事より、そっちはどうなの?中々進展しないでセイジ君はヤキモキしてるみたいだけど、彼女はそういう気分じゃないみたいね。」

おねぇロールプレイをするだけあって、おせっかい好きなようだ。痛いところを突く。


「やっぱりそう見えますか。うまく切り出せないんですよね。」

「いいお友達役に収まっちゃってるからね。彼女のために必死になってる姿は、旗から見てもカッコいいって思うし、分からないものよ。焦らず、キッカケを待ちなさい?」

「はぁ。。。助言、ありがとうございます。」

うれしいような、悲しいような。。。まぁ、年上の女性が言うのだから、きっとそういうものだと信じたい。

この手の話は嫌いな女性は居ないだろうが、笑みを顔に浮かばせて、ユーリンが入ったお風呂に続いていく。


IFOでは、盗聴防止のため、部屋と部屋で完全にシャットアウトされる。

二人のお風呂うふふ会話を聞きたいわけじゃないですよ?

僕はここでお風呂に入るわけにも行かないので、一旦自室に戻って、横になった。


「ふぅ、いいお友達役か。。。まぁいいや。」

ユーリン。ユーリン。


zzz...

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